24話 宿敵
タツがデオダードへと使者を送り返した翌日、セグインにはいつも通りの日常が流れていた。
ここ最近のタツの日常は、とてもとても優雅なもので、その一日は王宮のベッドの上、テッサかティファーニアもしくは二人の女と共に始まる。
アイーダがいないのは、奴隷という立場ながらも奇跡的に妊娠したからだ。
そもそも女奴隷は性の為に乱暴に扱われ、子を孕めば役割をこなせなくなる為その都度処理をされる。
その事による身体への負担は大きく、アイーダもテッサも子供を持つ事が出来ないかもしれないと諦めざるをえなかった。
だがアイーダは奇跡的にその身に子を宿し、タツもその事を大いに喜び、今はタツの要望もあって一人部屋で安静に過ごしているのだ。
このアイーダの妊娠に一番反応したのはテッサだった。
同じ奴隷の立場として思うところがあっただろうが、出会いから共に過ごした時間も長い事もあり、思いの外アイーダに対して優しく接しているように見える。
だが、その内心は複雑なようで、隙あらば『とにかく自分も』とタツから搾り取るようになるのは仕方のないことなのかもしれない。
ただ、テッサはアイーダと違う点として、ドウェインから手に入れた宝石『魔鉱石』の指輪ととても相性が良かった為、魔鉱石と魔法使いの関連性をタツが知って情報を共有すると、驚く事に火の魔法を使えるようになったのだ。
おおよそ火に対する思いやイメージがかなり強くテッサの心象に深く刻まれている事が関係しているのだろう。
魔法を使える事がわかったテッサは、王宮のタツの立場を利用して魔法の特訓に取り組み、火の魔法使いとしての立場を得て、アイーダとはまた違った恋人としてだけではない立ち位置を築きあげている。
……それ故に一緒に出掛けた外で搾り取られる事が多くなったのだが、それは仕方のないことなのかもしれない。
ティファーニアは、収穫祭騒動がきっかけとなりタツが押し切られる形で関係してしまう。
正直なところ、実はティファーニアに対しては強靭な精神力とアイーダとテッサの奉仕を持って、何とか『しんぼうたまらん』を我慢していた事もあり、それが崩れたことにより一気に関係が恋人関係へと発展し、蜜月関係が生まれた。
テッサも長い期間一緒に過ごし、なにかと年下のティファーニアにタツ絡みで頼られる事が多かったせいか眠っていた『姉』が奮い起こされたらしく、まるで姉妹のような関係を築いており、その事でテッサも関係を許している。
今現在はこのようにタツの周りの女性陣は、三者三様にうまくバランスが取れておりギスギスした関係は無く、タツの女関係は良好な物となっている。
そんな関係のテッサとティファーニアの二人と一緒に目覚めると、まずはアイーダに挨拶に行きつつ様子を見、そして湯浴みで体を清める。それからみんなで食事をし、その後、届いた陳情に合わせて行動を開始。
アルコールが足りなければアルコールを補充しに行き、純金が足りなければ純金を、糞の山や土が足りない所には出向いて足しに行くか指定のある場所に出しに行く。
飼料に対しては、もう必要もなくなってきているのだがギルドへは時々顔を出すようにしている。
……なぜなら、エリンさんの谷間が過激さを増しているからだ。
最近ではよろけたりしてきて『当ててんのよ』状態になる事どころか、そのまま押しつけてきて『挟んでんのよ』状態になる事まであるのだ。
愛しい恋人達がいようが、こればっかりは別腹なのである。
だからギルドから依頼があれば毎度しっかりと足を運ぶのだ。
用事が無くても『レスターさんいるかな?』とかで行ったりするのだ。
もちろんその時はテッサに別の用事を依頼するのは忘れない。
なぜならテッサがいると、ラッキースケベが舞い降りないのだ。
それはとても重要な問題なのだ。
その他、国王と発展について話しあったり、参議と防衛特区での技術革新について会議しつつ、こっそり参議の娘が同席して微妙に顔合わせを進められたりと、ルーティンワークのようにセグインの発展に勤め、今日もセグインは発展していく。
今日も一日の仕事を終え、ティファーニアに癒しを求め寝屋を共にし、眠りに落ちていく。
すると、夢を見た。
--*--*--
「やっ。運七 達彦くん。久しぶり。」
少年のようにも少女のようにも見える人が、軽く手を挙げて挨拶を送ってきている。
「なんとも幸せそうな日々を送ってるじゃないの。ねぇ?」
ただなにもない空間が永遠に続くように広がっているような世界に、少年のようにも見える美しい少女。
忘れようはずもない。
反射的に膝をついて頭を下げる。
「お久しぶりです。神様。」
「お? 大分成長したねぇ。うんうん。」
どこか満足そうに頷く神様。
だが、すぐにどこか拗ねたような顔に変わる。
「でもさー。流石に調子乗り過ぎだと思うんだ。
イメージを反映するようにはしたけど、ウンコって制約つけたのに純金やらアルコールやらは反則だよ。まったくもう。」
「すみません。」
反射的に謝る。
もしかしたら能力を変えられてしまうんだろうかと内心焦りまくる。
「いや、能力変えたりなんてしないよ。」
そうだった。心を読めるんだった。
これは変な事を考えられない。
自分の目に映る神様は、やはり美しい。
ただアイーダやテッサ、ティファーニアと交わり、性の喜びを知ってしまった今、神様に対しても欲望……劣情が疼くのを感じないはずがなく慌てて目を逸らす。
考えちゃダメだ。
考えちゃダメだ。
揉んで弄ってみたいとか、喜ばせてみたいとか考えちゃダメだ!
……って、もう考えてる!
「う~ん。人間ってスゴイな。
どれだけ欲望を持ってソレを満たせば満足するんだろうか。」
やっぱりバレてる!
だから考えちゃダメだ!
吸ったり舐めたりしたいとか。
あ、あああああああ
「…………」
…………
……
…
「しかしなー。
まさかウンチでここまでの立場を築くとか思ってなかったぞ? やっぱりどんな能力でも結局はこうなっちゃうのかな~。」
「申し訳ありません!
神様の嫌う『俺様』にはならないよう身を引き締めますので、どうかお許しください!」
「あぁいいよ、別に。
それはそれで幸せに生きる為に仕方ないことなんだろうからな。」
「え? ……いいんですか?」
「うん。 ただ罰は用意したけれどな。」
「…………え? ば、ば、バツ!?」
「そうそう。過度に世界のバランス崩すんだもの。
これまでは祝福を与えた後は、どうなろうが放置してきたけど…………ほら、キミって実験対象だし、物のついでにちょっと関わってみる事にした。」
ウィンクをバチコーンと飛ばしてくる神様。
とんでもないことを言われているのに可愛く見えるから厄介だ。
『実験対象』とモルモット扱いに憤慨しつつも『くそう! かわいいなぁっ!』という感情が入り混じる。
そして私は、この神様は一度決めたら折れないことは経験として知っている為、諦めるのも早い。
「……どんな罰なんでしょうか……神様。」
「ん~。どうしようかなぁ?
……って、なんだか意地悪してるみたいな気もしてくるから教えてあげるよ。
キミの対極に位置する能力を同世界の人間に与えたんだ。」
神様の言葉『対極』の意味を考える。
手からウンコの対極って…………なんだ?
手からウンコが出ない?
ん?
「そう。キミがそいつと対峙して、そいつが能力を発動している間は手からウンコ出せなくなる系。」
神様の言葉に愕然とする。
私はどうやら、いつの間にか『手からウンコ出る能力』を認めて、心から受け入れていたようだ。
そして、それを封じられるという事に対して大きな危機感を抱いている。
「ふふふーん。
効いてる効いてる。
なんせ罰だからな。
調子に乗りすぎると痛い目にあうという戒めなのだ。」
私が能力を封じられたらセグインはどうなる!?
アイーダ、テッサ、ティファーニア、国王に参議やエリン、レスター、セグインの民たちはどうなるんだ!?
……まさかっ!?
「そ。その能力を持ったのは『テッド・クリストファー・デオダード』だよ。
頑張って試練を乗り越えるんだよ。
まぁ、このハードルを乗り切ったら私の事を名前で呼ぶことを許してあげるからさ。がんばっ!」
そんなご褒美嬉しくねぇぇ!
そう思った瞬間、拗ねたような神様の顔と共に、何もない空間と神様は闇に消えた。




