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親愛なる悪魔へ  作者: ルシア
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120年ぶりの再会と出会い

 かつて千晴が悪魔を封印した地に、今は学校が建てられている。

この地を訪れた神父が悪魔の存在に気づき、その地と人々を守っているのを見てとても驚いたらしい。人の手によって封印され使役された悪魔が人を守り続けているなど、外国では考えられないのだという。

 その素晴らしさを村の人々に伝え、この地に学校を建てるように説いた。村の人々も、偉い人がそう言うならばとこの地に学校を建てることを認めた。

もっとも、最初は寺子屋のような小さな場所だった。徐々に大きくなり、やがて淡海学園が建てられた。

 悪魔が封印されているということもあり、ここはキリスト系の学校だ。敷地の中には教会も建っている。

 古くなった校舎は何度か建て替えられ、学園の由来を詳しく知る者ももう少ない。ご神木と祠だけが、昔の姿を変えずにそこにあった。

 今となっては少年少女が通うただのキリスト系学校である。





「そういえば今日が入学式か」


 しばらく人の出入りが少なかったが、今日は一段と多かった。在校生だけではなく新入生とその親が訪れているからだ。

 ご神木の上からそれを見た悪魔は呟いた。


「なんか面白い奴いないかな~♪」


 入学式は毎年一番のわくわくする行事だ。

 学園がこの地に建てられてからというもの、千晴の子孫は生徒としてこの地を訪れるようになった。今では先祖返りと呼ばれる霊力の高い者しか訪れなくなり、最後に見た子孫は120年も前だ。霊力を持つ者自体が少なくなっているのだから、先祖返りする者も少なくなって当然である。時代の流れには逆らえない。

 それでも、千晴の子孫が入学してくるのではないかと心躍らせていた。

 たとえ千晴の子孫でなくても霊力が高く悪魔が見える者や、見えなくても悪戯すればそれなりに楽しい者が居た。そんなターゲットを見つける絶好の機会なのである。

 校門の上に寝転がりながら、新入生たちを見下ろした。

 今日は天気も良く、桜が綺麗に咲いている。まさに入学式日和である。

 少し大きめの制服に身を包んだ少年少女たち。流石に最初からスカートが短かったりズボンを半端に下げている生徒は居ない。


「ん?」


 すると、少し変な気配がした。

 今まさに校門を入ろうとしている生徒たちの中に、霊力の高い者がいる。それも一人ではない。


(まさか、先祖返り?)


 その気配の主を探ろうと辺りを見回した時だった。


「!」


 いた。

 見つけた。


「千晴……」


 間違いなく千晴の気配だ。忘れもしない御笠の一族の匂いがする。自分をこの地に縛り付けた、憎くて愛おしくて仕方がない霊力だ。


「おま――――――…」


 悪魔が身体を起こし、声を掛けようとしたときだった。


「はっ!」


「ぐはっ!?」


 女が護符を投げつけてきた。

 そして顔に直撃した悪魔はそのまま後ろに倒れてしまった。




「ともちゃん、どうしたの?」


 隣にいた絆花が何かをしたことに気づいた。何をしたかは千毬にはわからなかった。


「別に何でもないよ、変な虫がいたから払っただけ」


「えぇ、気持ち悪い……」


 虫嫌いな千毬は明らかに嫌そうな顔をした。


「はよ行こう、ちぃ」


 絆花は千毬の手を取ると駆け足で校舎へと向かった。

 一度だけ、悪魔が倒れた方を見ながら。






 入学式が無事に終わる。

 今まで普通の学校にしか通っていなかった千毬には賛美歌や神父の話はどこか不思議なものだった。それもそのはず、もともと山崎家は神社であり神道の一族なのである。別宗教に触れる機会などなかった。


「ともちゃんと同じクラスでよかった~。3年の時は別だったからすごく嬉しい!」


 鞄に今日貰った資料などを詰めながら傍に寄ってきた絆花を見て言う。


「でもともちゃんまでこの学校来て、ホントによかったの?」


 千毬がこの学校に入学したのは両親の強い勧め、もとい先祖返りとしての使命であると半強制的な理由である。


「通える距離ちゃうけど、ある意味実家に近なったしなぁ」


 それに対し、絆花は千毬と同じ学校という理由だけだった。キリスト教に興味があるわけでもないし、もっと偏差値の高い高校も充分受けることが出来た。

 淡海学園は絆花の実家と同じ県であるが、毎日通うには面倒な場所にある。せめて実家から通える場所にと言う両親の反対を押し切って家を出たのだった。


「高校もちぃと一緒にいたいし、悪魔ってのにも興味あるし、家も出たかったっし、ちょうど良かったんよ」


 絆花の言葉に千毬は申し訳なさそうに笑った。


「でも悪魔ってどこにいるのかな? 生徒とか先生に紛れてたりするのかな?」


「ちぃはどんな出逢いが好みなん?」


 どんな、と言われて千毬は考えてみた。

 入学するまでにいろんなことを考えてみた。同級生に混じっているのか、先輩だったりするのか、先生を演じているのか。叔父に詳しく聞こうとしたが、行ってからのお楽しみと言われてしまった。


「出来れば素敵な感じが良いなぁ。こう、王子様とお姫様の出逢いの様な……」


「ちぃ、それは夢見過ぎやで」


 そう言われ、「やっぱり?」と千毬は笑った。


「だいたい悪魔にそれを望んでどうするん? せっかく高校生になったんやからいずれ現れる彼氏に望みぃや」


「うわー、お兄ちゃんが発狂しそう」


「………家出たんやからしばらくは大丈夫やろ」


 千毬も絆花も遠くの学校に通うことになったため、これからは寮生活となる。それにあたって洋平が泣き叫んだのは言うまでもない。

 高校を卒業した洋平は神職になるために東京の大学に入学した。小さい頃に叔父と約束したらしく、いずれ和泉神社を継ぐためだという。わざわざ三重ではなく東京を指定したのも叔父だ。しばらく千毬断ちしろとのことである。


「そうだ、帰りに例の祠に寄りたいと思うんだけど、ともちゃんも一緒にどう?」


 悪魔を祭ってある祠、悪魔の封印されている御神木は有名である。御神木に悪魔を封印することによってこの地に平和が訪れたのだと、朝の長い話の中にもホームページのトップにも描いてあった。場所は教会の裏である。


「行きたいのは山々やけど、せっかくの出逢いを邪魔したくないし辞めとくわ。また悪魔と仲良くなったくらいに会わせてや」


「え、うん……」


「じゃあ、先帰るな。ほなね」


 絆花は片手をあげて教室を出て行ってしまった。


「………………珍しい」


 そんな絆花を見て思わず声が漏れた。

 いつもなら危険だと言って必ず付いてくる。だいたいいつも二人は一緒にいたし、それを二人とも苦としていなかった。

 考えても仕方ない、と千毬は一人で目的の場所に向かった。





 下靴に履き替えて外に出る。桜が舞う中、校舎から少し離れた教会を目指した。

 桜が舞い降りる中、生徒たちの笑い声や掛け声が聞こえる。グラウンドでは陸上部やサッカー部が練習していた。しばらく歩くと、体育館がありバスケットボールが床を叩く音が聞こえる。その先には広いテニスコートがあり、多くの見学者が集まっていた。

 そして教会を見つけた。入学式は体育館であったため、実際に教会を訪れるのは初めてだった。

 そこには思った以上に多くの人が出入りしていた。おそらくは同じ新入生が学校探検か学園の謂われを一度は見にと訪れたのだろう。


「ごきげんよう」


「ごきげんよう、シスター」


 教会の入り口には何人かのシスターがいて新入生たちに説明をしていた。入学式では遠目にしか見えていなかったが、近くで見るととても綺麗な人たちだった。


「ごきげんよう」


 千毬もシスターに挨拶を交わして教会の中に入った。

 中は生徒で溢れかえっていた。シスターたちが目を光らせているため、人数がいても中はとても静かだった。

 初めて見る幻想的な空間に千毬は圧巻した。ステンドグラスから差し込む光に、四方に描かれた壁画が美しく輝く。奥にはとても大きな十字架を飾ったパイプオルガンが聳えている。

 ただの学校の教会とは思えなかった。


(――――――なんだろう)


 千毬はそんな空間で違和感を覚えた。


(気持ち、悪い……)


 突然襲ってきた眩暈、頭が鐘で打ち付けられたように痛い。そのだけでなく、悪心まで起こってきた。


「大丈夫ですか?」


「!」


 蹲ろうとした千毬の身体をその人は支えて声を掛けた。


「は、い……」


 見上げると、それは白い衣を纏った神父だった。まだ若そうに見えるが、とても優しく微笑み、大人っぽい人だった。名前は忘れたが、入学式でも挨拶をしていた。


「人が多くて気分でも悪くなりましたか?」


「あ、いえ……」


「とにかく、一度外に出ましょうか」


 神父に身体を支えられたまま、千毬は礼拝堂の端まで寄る。正面の入り口は人が多いため、裏から出ましょうと促されるままに千毬はついていった。

 外に出ると、少し冷たい風が頬を撫でた

 視界を邪魔する髪を抑え、耳にかけ直おす。


「――――――っ」


 すると目の前に、教会とは雰囲気の異なる空間があった。

 大きな木に白い紙切れが撒かれている。千毬もよく知る“紙垂しで”である。御霊の宿る御神木などに何人も立ち入らないよう掛けるものである。

 そしてその前には木箱のような、小さな祠があった。


「ここに普通の生徒は入れないので、気分が落ち着くまでゆっくりしていってください。冷たい水を持ってきますね」


 出口の近くあったベンチに座って待つよう言うと、神父は再び教会の中に入ってしまった。


「……………」


 しかし千晴はそのベンチには座らなかった。

 まるで導かれるように祠へと近づいた。


(普通の生徒じゃ入れないんだ)


 ならば体調を崩してラッキーだったのかもしれない。叔父に聞いていた祠が、まさかこんなところにあるなんて思いもしなかった。


「………悪魔さん、いるんですか?」


 教会の奥にある御神木と祠。なんとも異様な光景の理由を、真実を知る者は少ない。


「あなたに会いに来ました」


 小さい頃から妖怪や幻獣が見えたのは、今日のためである。1000年近く前の約束を守り続けるためだ。

 そっと、千毬は祠に手を伸ばした。


「やめなさい!」


「!」


 背後から声を掛けられ、驚いた千毬は手を竦めた。振り返ると、先ほどの神父が水の入ったコップを持って立っていた。


「それは邪悪なる者が封印されています。触れて穢れが移ってしまってはいけない」


 穏やかな表情を崩さない神父は、気持ち早足で千毬に近寄った。


「さぁ、早くこちらへ」


 そう言って千毬の肩に手を添えた。


「っ、はい……」


 促されるままに千毬はベンチへと戻った。

 冷たい水は喉を潤おし、高まった心を落ち着かせた。




「ありがとうございました」


 しばらくすると悪心も落ち着いたため、神父に礼を述べて教会を後にすることにした。目的は達成できなかったが、思わぬ偶然に出会えた。神の導きなのかもしれない。


「顔色が戻って安心しました。しばらくは人の出入りが多いので、ここには近寄らない方が良いかもしれませんね」


 入学式直後はやはり新入生で教会は溢れているらしい。そのうち生徒たちも飽きてしまい、閑散としているのだという。


「あの、ここにいる神父様はあなただけなんですか?」


「ええ、そうですよ」


 あくまでここは学園の中ですから、と神父は笑った。


「ノルベール=シルベストルと申します。これから3年間、よろしくお願いします」


「こちらこそお願いします。えっと、ノル……ル……」


 首を傾げながら千毬は口ごもる。名前を聞いても、「ル」が多かった印象しか残っていない。


「ノエルで構いません。日本の皆さんには少し長い名前でしょう?」


 どうやらノエルの名前を聞いて同じ反応をする生徒が過去からたくさんいたようだ。ノエルは不快な顔をすることなく、慣れたように告げた。


「すみません、ノエル神父」


「構いませんよ。ほら、そろそろ下校の時間ですよ」


 そうノエルが言うと、タイミング良く下校時間を知らせる鐘が鳴った。驚いて千毬が見ると、ノエルはいたずらっ子のように「ほらね」と笑った。


「今日はありがとうございました!」


 千毬は会釈してから、まだ慣れない「ごきげんよう」との挨拶をした。


「はい。気をつけて帰ってくださいね」


 ノエルは手を振り、千毬が過ぎ去るのを見た。離れていく千毬の姿は、下校する生徒たちに紛れてすぐに見えなくなってしまった。


「………不思議な子だ」


 先ほど千毬に触れた手を見て、ノエルは呟いた。


(とても温かく、強い力を持っている)


 最初に教会に入ってきたとき感じた違和感。一度目に触れたとき、体中に電気が走るような錯覚があった。驚いてしまったが、確かめたくてもう一度触れた。その時は構えていたからか最初ほどの衝撃はなかったものの、強い何かを感じた。


「ノエル神父、いかがしましたか?」


 教会の方から生徒を見送り終わったシスターに声を掛けられた。


「なんでもないよ、フラミー」


 ノエルは手を握りしめ、いつもと変わらない表情で教会へと戻っていった。






「――――――っ、の野郎!!」


 意識を取り戻すと同時に、悪魔は叫んだ。


「この札、効果ありすぎだろ!?」


 額に投げつけられた札を勢いよく破り捨てる。入学式前に倒れてから、半日は意識を失っていたのだ。


「やっぱり千晴の一族はおっかねぇな」


 破った札を燃やすと、悪魔は笑みを浮かべた。自分をこんな風に出来るのは千晴の一族に間違いない。札からも間違いなく御笠の匂いがした。


「これは全力で仕返ししてやらねぇとな」


 楽しい学校生活の始まりである。





「それで、悪魔には会えなかったん?」


 寮の部屋に戻ると、今日貰った資料を整理し終えた絆花が迎えてくれた。


「うん、わからなかった」


 一通り今日の出来事を話すと、呆れたように絆花はため息をつく。


「なんで悪魔やなくて神父と運命の出会いしてるかなぁ」


「え、ええ!?」


 その言葉に千毬は驚いて声をあげた。


「そ、そんなんじゃないよ!」


「でもさっきから神父のことばっかやん。神父は彼氏に出来ひんよ。まぁ、良いけどさぁ………、格好良かったん?」


「凄く! あ……」


 否定した直後に力強く頷いてしまった自分に千毬は戸惑う。

 どうやら自分で思ってる以上に、神父に対して行為を持ってしまっているようだった。


「でもホント、そんなんじゃないんだよ。あの人、凄く優しくて温かくて、神父様ってみんなあんな感じなのかな?」


 きっと今まで触れたことのなかった文化に初めて触れたからだ。神に仕えると言う意味では同じかもしれないが、全く異なっている。


「知らんよそんなん。ウチ、キリストとか興味ないし」


 そう言いながら絆花は先ほどまで首から提げていた飾りをクルクルと人差し指に引っかけて回した。


「と、ともちゃん!」


 それはロザリオと呼ばれる信仰道具であり、入学に伴い全生徒に配布されたものだ。祈りを捧げるときに使うものなのだという。


「ロザリオはお守りやお札のようなものだよ! そんなことしたらバチがあたっちゃう!」


 こんな十字架に何の意味があるのかと最初は首を傾げた千毬であったが、その意味を知ってからは大切にしようと思った。お守りやお札と同じものだと思うと、邪険には出来ない。


「別に構わんし。ウチが信じるのはちぃやもん」


 ロザリオをつぶしそうな勢いで絆花は握る。


「ウチの信仰対象は千毬やで」


「ともちゃん……」


 にっこりと笑う絆花を見て、千毬は目を潤ませた。


「ともちゃん大好きー!」


「ウチも好きー!」


 両手を広げる千毬を絆花は全力で受け入れた。そして二人で顔を見合わせると笑いあった。


「今日はウチがご飯作るから先お風呂入ってきぃ」


「わーい、ともちゃんのご飯♪」


 嬉しそうにしながら千毬はお風呂に向かうのだった。


「何やってるんよ、せっかく素敵な出会いが出来るよう時間作ったったん言うのに」


 千毬が乙女であり、素敵な出会いを夢見ることは3年間共に過ごした絆花にはずいぶんと前から知っていることだ。

 朝一番で、しかも新入生がたくさんいる中で突っ込んで来ようとしたときは思わず洋平特製の魔除けを投げつけてしまった。


(あんな出会い方、神が許そうとウチが許さへんし)


 千毬のためなら神を敵に回しても構わない。それが絆花の考えだった。



 

 千毬と絆花が住む寮はルームシェア用の2DK の部屋である。ダイニングキッチンがあり千毬と絆花の部屋がそれぞれあった。ダイニングは二人の好みに合わせてコタツが置けるように低く物が置いてある。

 もちろんお風呂とトイレは別だ。決して広いとは言えないが、脱衣所も十分にある。


「~♪」


 絆花の夕食を楽しみに、鼻歌を歌いながら白いワンピース型の制服を脱ぐ。皺が寄らないように引っ張ってから籠に入れたときである。


「!」


 空気が変わるのを感じた。

 今日感じた違和感とは違う。紛れもない妖の気配。


「やっと見つけたぜ」


 霞掛かった声が聞こえた。直後、黒い風が脱衣所に渦巻く。

 そして姿を現したのは自分よりも年下に見える少年だった。


「千晴の……って、あれ?」


 本人なりに格好良く登場した少年は、自分が登場した場所を見て目を丸くした。そこは脱衣所であり、目の前にいるのは思っていた人物とは別の女性。しかも半裸。


「うっ、わぁ!? 何だよお前!?」


 少年は顔を真っ赤にして腕でその顔を隠す。思わず退いた一歩により肘が当たり、棚にあった物が音を立てて落ちた。

それでも腕の隙間から覗き、千毬から目を逸らせないのは男の性だろうか。


「な、何はこっちの台詞だよ!」


 同じように顔を真っ赤にした千毬は咄嗟に脱いだ制服を掴み、前を隠した。


「急に現れて何なの、妖!?」


「そっちこそ何で“千晴”じゃねぇんだよ!?」


 二人とも恥ずかしさにより、ところ構わず叫んでいた。


「“千晴”はご先祖様だよ!って、え?」


 千晴の名前に二人は叫び合うのを止めた。


「ってことは、お前が千晴の子孫?」


「あなたが、悪魔さん?」


 二人は同じタイミングで聞く。


「お前が……」


 悪魔は千毬を凝視した。

 銀色の癖っけ髪。深く青い瞳。平均より少し低めの背丈。豊満とは言えない胸。

 そう、それはまるで遠い昔に出会った千晴と……


「全然似てねぇ」


「~~~~~~~っ」


 まじまじと見られた後に言われたその一言に千毬は肩を震わせ、叫んだ。


「悪霊退散!!」


 もちろんここに札などない。正真正銘、千毬の霊力を直撃した悪魔はその力に耐えきれず飛ばされてしまう。


「ちぃ!?」


 騒ぎを聞きつけお風呂場に飛んできた絆花。


「っと、あんた………、馬鹿やろ」


 彼女が見たのは顔を真っ赤にした千毬と、壁に頭をぶつけて目を回す悪魔だった。


(せっかく素敵な出会いが出来ると思ってたのに)


 「最悪」と二人は声を揃えて言葉を漏らすのだった。



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