9.逃走劇
順二と優子は上手く逃げ切れるのか!?
順二と優子は、建物の中を逃げ回り、どうにか出口を探す。どの窓もドアも閉まっているし、建物の中は入り組んでいて方向が分かりにくい。階下に降りた後、偶然にも窓が開いていたので、それを全開にして脱出する。
一階だったため、地面への着地はすんなりできた。そこから広い駐車場のスペースを全速力で走り続ける。
男達も後を追って来る。男達の方が足が速い。距離が徐々に縮まる!
「順二君、もっと速く走って!」
順二が優子に声掛けする。無理もない。中身が入れ替わっている状態とはいえ、体はそのまま。この場合、中身が順二の優子の方が、中身が優子の順二より足が遅いのだ。
「んなこと言われたって、分かってるけどさ…」
優子は息を切らしつつも、順二に手を掴まれ引き連れられながら走り続ける。敷地内から道路に出ても、男達は追って来る。そもそも、ここがどこかは分からない。全く見覚えのない場所。恐らく遠くへ連れて来られたのだろう。
交差点を優子と順二が通過した。その際、右から車が来たため、男達は足を止めざるを得なかった。これで少しは距離が開いた。しかし、その後二人にもハプニングが!
「いてっ!」
優子が足のバランスを崩して転んだのだ。右膝を強く打ってしまい、動けないでいた。
「しょうがないね……」
順二は嘆息した。そして、優子の身体を持ち上げ、自分の背中に乗せた。順二は優子をおんぶしたのだ。そして、順二の足のみで再び逃げ始める。男達との距離も差が十メートル以内まで縮まっていた。
「あともう少しね!」
順二は希望を見据えて言った。既に市街地に出ている。そして、順二の視界の先には交番が!
「よしっ、逃げ込むよ!」
男達に捕まりそうになったが、順二は最後の加速をし、その手から距離を取ることができた。そして、そのまま交番へ駆け込む!
「くそっ、サツかよ!」
男達は交番付近で足を止め、慌てて逃げるように引き返した。
交番の中で、順二と優子は事情聴取をされていた。その合間を縫って、二人は声を控えめにして話す。
「危ないところだったけど、ありがとうな」
優子は順二に礼を言った。
「見た目は男でも中身は女だよね? なのに外見は女で中身が男を助けるって、一体……」
「そんなこと、どうだっていいじゃんかよ」
優子は順二を励ますように言った。
「そうだよね。何を気にしてるんだろう、私」
順二もくすっと笑った。
その後、二人はそれぞれの両親に引き取られて無事帰宅した。それぞれ、互いの関係は明かさず、上手く誤魔化したのだった。