5.相互補助(順二ver.)
順二(中身:優子)は、急に運動ができなくなったことに対する劣等感を覚える。打開策はあるのか?
中身が優子の順二は、勉強は下から中になったが、運動は急に苦手になった。そもそも、正しい体の動かし方が分からないのだ。授業はしっかり聴いていたが、運動は上から急に下になったため、それをネタにクラスの皆からは馬鹿にされるようになった。
「こんな技もできないのかよ!」
「今までのツケが返ってきたんだな、ザマァ!」
順二は歯がゆい思いが消えなかった。
見た目は順二でも中身は優子。優子は入れ替わる前も、運動よりは勉強の方を重視していたため、運動はできなくても仕方ないと割り切っていた。高校の体育の授業でも、優子なりのプレーで乗り切っていたし、クラスの友人からも冷やかされることは無かった。しかし、ここは順二の中学校。校風も優子の高校とは違う。順二の周囲は、順二に何かできないことがあると、躊躇なく馬鹿にするのだ。
運動ができないことの冷やかしを受け始めて二週間ほどが経った。このままではいけないと中身の優子は思い始めた。勉強はやればできるのに、運動ができないことで馬鹿にしてくる子がいる学校だと思うと、何だか悔しさが込み上げてくる。そこで、順二は放課後職員室に行き、体育の先生に声を掛けた。
「お願いします。僕に運動ができるようになる秘訣を教えて下さい」
そうお願いしたところ、先生は「時間があれば教えてやる。放課後、毎日職員室に来い」と、引き受けてくれた。
それからというものの、順二は毎日、放課後になると体育の先生の所に行き教えを受けた。順二は「まずは準備運動がなってない」と指摘された。正しい屈伸の仕方、体側の伸ばし方、体幹の鍛え方、息継ぎの仕方などを教わった。初めは難しかったが、だんだん慣れて行った。そういった基礎ができたら、次は実際に幅跳びをしたり、ランニングをしたりしたが、それらも苦ではなくなっていった。そういった生活が続き、遂に順二は体育の先生から「OKだな」というお墨付きをいただいた。
それから、実際の体育の授業が始まった。この日は、50メートル走である。以前の授業では、8秒97というタイムだった。今回は果たして…。
四人ずつ一斉に走らせて計測していた。順二のターンでも、「用意、どん!」という先生の合図を受けて、順二含む四人は一斉に走り出した。スタートは快調、それからも順二は体が軽い、全くしんどくないという感覚があった。そのまま走り続ける。
順二は四人中二番目にゴールした。順二のタイムは、6秒23。以前よりも大幅に縮まった。
「嘘だろ、あの順二が6秒台?」
クラスメートは順二の活躍に驚きを隠せないでいた。順二も心の中では悦に浸らざるを得なかった。
こうして、順二の本来の得意分野は取り戻せたのだった。