4.トラブル対応(優子ver.)
順二のトラブルは解決したが、優子にも同様にトラブルが降りかかる。上手く切り抜けられるのか?
優子と優子の母と担任の先生は三人でテーブルを囲んでいた。既に、重苦しい雰囲気が漂っている。
担任の先生が口を開いた。
「本人は自覚しているか分かりませんが、指原さんの最近の行いは非常に悪いと言ってもいい。何度も注意してるんですが、一向に改善されないので、今回お母さんにも話を聞いていただきたいと思い、お伺いしました」
「申し訳ありません」
母親は、その場で頭を下げた。この時、優子はなぜ母親が頭を下げなければならないのか分からなかった。
続けて担任は優子の方を見た。
「改めて聞く。指原さんも自覚はあるかい?」
優子は頬を軽く搔き、担任から目を逸らして答えた。
「別に。授業がかったるいだけだよ」
この返答に、担任は眉間に皺を寄せた。
「君は高校生の自覚があるのか? クラスの他のみんなだって、勉強はかったるいと思ってる筈だ。それでも背筋を正して、しっかり聴いてくれている。それに比べて、君は授業中にゲームをしたり、教室からそろそろと抜け出そうとしたり、落ち着きが無さすぎる。そんなことだから、最近の小テストでも10点満点中1~2点とかいった低い点数を取るんだ」
中身が中学一年生の順二は、体が入れ替わる前に通っていた中学校の勉強さえも「かったるい」と感じていたが、高校の勉強などもっとその典型である。そもそも、習っていない。順二に高校の勉強は分からない。授業態度を問う以前の問題である。
「テストの点なんて、別にどうでもいいよ」
「どうでもいいわけない。このままだと、今後の中間や期末テストでも低い点数を取ることになるぞ。一学期の時は優秀だったんだが、本当にどうしたのか? 大学受験にも影響が及ぶからね。もっと危機感を持ちなさい」
「大学なんて行く気ねぇよ」
中身の順二は、実際にそうなのでそう返した。
「本気で言ってるのか?」
いくら担任が優秀でも、中身の順二の心情は推し量れないだろう。本気か否かは今問うべきではない。そこで、順二はこう言ってやった。
「さぁな」
この言葉に、担任は更に何かを言おうとしたが、それは優子の母親によって阻止された。
「あの、先生。お言葉ですが、授業を面白くするという工夫はしておられるのでしょうか?」
母親は恐る恐る訊ねた。
「授業を面白くする工夫……ですか?」
「はい。先程から話を聞いていると、優子はどうやら授業がかったるいから聴きたくないと。それは、つまり授業が面白くない可能性が高い。普段の授業を面白くしようとする工夫が施されているか、私は疑問です」
母親の言葉に、担任は考え込んだ。
「確かに、そう言われると、私や他の先生が、そういった工夫をしているとは思えないですね」
担任は認めざるを得なかった。
「優子の授業態度に関しては本当に申し訳ございません。しかし先生、先生側ももう少し授業に関して一歩踏み込んだ工夫をされてはいかがでしょうか? もっと授業を自然に傾聴してもらえるような、そんな授業にしてみてはいかがでしょうか?」
この内容に、担任は頷いた。
「一理はあります。我々も授業に関しては、関心を惹きつける要素が足りませんでした。ご指摘ありがとうございます。今後の授業では改善を目指します」
それから更に少し話し合った後、話し合いは終了し、担任は帰った。
それからというものの、優子は授業をしっかり聴いていた。内容は殆ど分からなかったが、なぜか無性に聴きたくなったのだ。先生の話が面白いからか。取りあえずノートも取る。その様子を見たクラスの友人達にも、
「優子ちゃん、真面目に戻ったね」
「見直しちゃった」
「もう駄目だよ。あんな態度で授業聴くの」
などと口々に言われた。中身の順二は、相変わらず「うざってぇな」と感じていたが、取り合えず言わせておけばいいと思い、何も返さなかった。
そして、最近の日本史の小テストで10点満点中6点を取ったことも友人達に褒め称えられたのだった。