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真夏の入れ替え物語  作者: シャチー01
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1.入れ替わった二人

この小説は、全く見ず知らずだった二人が入れ替わる物語です。

入れ替わってから、幾多の出来事が降りかかる中、元通りに戻る方法を模索する。

 それは、誰もが予期せぬ突然の出来事だった。

 あまりにも不思議すぎるため、これについて百人の人に話すとすれば、九十九人が信じてくれないだろう。

 これは、互いに見ず知らずだった館田(たてだ)順二(じゅんじ)指原優子(さしはらゆうこ)にこんな出来事が訪れてから、二人が大きく変わる物語である。





 七月。夏も真っ盛りの時期を迎えた。

 帰り道の曲がり角で、順二と優子はぶつかり合った。互いに自転でスピード出して走っていたため、その衝撃も大きかった。

「いってーな、どこ見て走ってんだよ!」優子は相手を睨み付けて怒鳴った。

「ご、ごめんなさい」蚊の鳴くような小さな声で、怯えながら謝る順二。

「あれっ?」

 この時、二人は異変に気付いた。



 館田順二は中学一年生だが、学校から問題児扱いされていた。というのも、順二の性格や言動が周囲から問題視されているのだ。

 授業中はいつも居眠りか隠れてゲームをしているし、先生に対する言葉遣いや態度が非常に悪い。

 腰パンが格好良いことだと勘違いして、いつもしているし、親が学校に呼び出されて注意されることも少なくはない。


 この日も順二は午前中で授業をこそこそ隠れながら抜け出した。空調が無く、じめじめ蒸し暑い教室の中でつまらない授業を受けること耐えられず、外に出た方がましだと思ったからである。教室内にも扇風機は隅っこで回っているが、それは全く役に立たない。むしろ、蒸し暑い空気を隅から送って来るだけだ。

 そういうわけで、順二は暫くの間街のコンビニの前で座り込んで暇を持て余していたが、コンビニの店員に通報され、順二は両親と共に学校に呼び出された。

「本当にもう、しっかりしつけて下さいよ。お母さん」

 呆れた口調で母に言う担任教師。母は、申し訳ないと言わんばかりに、ペコペコ何度も頭を下げた。

「お前も毎回毎回、ふざけたことばっかしやがって」

 担任教師は順二に視線を変えて言った。その目は順二に向けた怒りで満ちていた。順二は反省するどころか、担任教師に叱られているこの時間が煩わしいので、担任を睨み返した。


 夕方、順二は校門を出た後、母と一旦別れ(母は街へ買い物に行く)、ストレスを抱えて、ぶつぶつと独りで愚痴を零しながら自転車で帰路を進んだ。早く帰り着きたいので、ペダルを強く速く漕いだ。



 指原優子は地元の公立高校に通う高校二年生だが、成績は極めて優秀で、礼儀正しく清楚な態度が先生からは高評価され、周りの生徒にも好かれている。

 フレームの細い眼鏡を掛けていて、長い髪を後ろで一つに束ねている姿からは、真面目で知的なオーラが漂う。

 優子はいつも授業に真剣に参加する。先生の説明を細部まで聞き逃さず、板書以外にも自分で必要だと思ったことをノートにスラスラと書く。また、家庭学習も欠かさない。そのような成果もあり、学年ではトップの成績を収めている。


 四時間目の英語の授業中、優子は先生に指名された。先生が黒板に書き示した英文を読み上げ、その訳を言うように指示されたが、優子は怯まず、それに従った。

「Jack is a person who does not take care of his sister. ジャックは妹の面倒を見ない人です」

「そうです、その通り。素晴らしい」

 優子の答えに、先生は拍手をして賞賛した。


 授業が終わって、昼休みを迎えた時、優子は二人のクラスメートと一緒に弁当を食べ始めた。

「優子って凄いよね。そうしてそんなに頭いいの?」

 一人の女子が、そう言った。

「いやいや、そんなこと……」優子は謙遜した。

「今度の期末テストも優子がクラスで一位かもね」

 もう一人の女子が期待に満ちた顔で言った。

「えー、そうかなあ」

 優子は恥ずかしそうに返した。


 放課後、普段は部活動に行く者も、今は七月のテスト期間直前なので、全校生徒が揃って下校する。

 優子も途中で友と別れ、早く家に帰り着き勉強したいと思って、ペダルを思わず強く漕ぎ始めた。

 優子の自転車は、猛スピードで歩行者の間を縫って、やがて住宅街へ続く路地に入った。



 順二と優子の自転車の後輪は、空回りを続けている。西日が二人を照らし付けている。

「何で俺が目の前にいるんだよ?」

 優子は相手を指差して、目を大きく見開きながら言った。

「貴方こそ、私じゃなくて?」

 順二も相手を不思議そうに見て言った。

「ちょ、ちょっと待て。お前は確か、俺のはずじゃ」

「貴方だって、私のはずじゃ」

 互いに指を差し合って、姿を確認する二人。


 そして、こんなことが分かった。

「これって、もしかして……」

 順二は恐ろしげに言い出した。

「何だよ?」

 続きを促す優子。

「私達二人はね、もしかしたら……」

「もしかしたら?」




「入れ替わっちゃったんだー!」

 順二の声は甲高く、曲がり角の四方八方に響いた。




「入れ替わったって、何がだよ?」

「どうやら、中身みたい」

 困惑している優子の質問に、順二は落ち着いた口調で答えた。

「なんで入れ替わっちまったんだよ。大体、俺の体は誰だよ?」

「それは私も聞きたいよ」

 順二は少し語気を強めて言った。

 互いに見ず知らずの二人が、偶然にも出会い頭でぶつかった。それは日常でよくあることだが、問題はその次だ。なぜ、二人の魂が入れ替わってしまったのか。これはもはや、理屈で考えることは不可能だ。二人はそんなこと、これまで全く考えたことがないし、殆どの人が予期せぬ不可解な現象である。

 元の順二は優子に、元の優子が順二になってしまったのだ。

「じゃあ、これからどうすんだよ俺達」

「それも私が聞きたい!」

 順二(優子)は思わず語気を強めて返した。優子(順二)の威圧的な質問攻めに耐えられないからである。

「早く元に戻そうぜ」優子(順二)は言った。

「どうやって? そうしたいけど、その方法が分からないじゃない」順二(優子)は反論した。

「じゃあ、それを探そうぜ」

「そうだけど、こうなっちゃった以上、まず大事なのは、この状態でどうして行くべき考えることじゃないかな」

 順二(優子)の言葉に、優子(順二)は舌打ちをして頷いた。

 順二(優子)の話は正論だ。元に戻る方法を模索するのは後の話。それまで、今の状態でどうするべきか――それが今後暮らしていく上で重要なのだ。

 二人の真上を飛び去るカラスの鳴き声が虚しげに響いた。



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