彼女は大人になった。(ギルバートside)
クララと会った時のことはよく覚えている。
王様が亡くなって、すでに働いていた私の職場も上から下まで大騒ぎだった。そんな時、王女様の結婚相手を誰にするか、その白羽の矢が立ったのは私だった。それまでもそれ以降も、国のために生きている私に否やはなく、ただ人生とは思いがけないものだなと感慨深かった。
それからすぐの結婚式、ベールを被せられて煌びやかなウエディングドレスをまとい祭壇に立つ彼女は本当に小さく、じっと佇む姿は人間味がなくて人形のようだった。他人事みたいに、こんな小さいのに大変だなと同情した。ベールを上げてこちらを見る目はまん丸で、落ちてしまうんじゃないかと心配になったけど、その温度のある表情がとても可愛くてリンゴみたいな真っ赤な頬に彼女の幸せを願ってキスをした。
その夜、挨拶回りやら引き継ぎを(と言っても引き継いでくれる王様はいないけれど)してから改めて彼女に挨拶をしに彼女の寝室を訪れた。
「クララ様、入りますよ。」
クララはベットの端に座って一人で泣いていた。その姿に胸が軋む。
「こんな年上と結婚させてしまって申し訳ありません。」
彼女に怖がられたくなくて、膝をついて彼女を見上げた。彼女の瞳から大粒の真珠のような涙が、光を含みながらポロポロ流れ落ちて、なんて綺麗なんだと心打たれた。
それから寂しさに泣く彼女の強さをたたえて彼女を抱きしめた。彼女の小ささと温かさに、私は彼女を幸せにしようと心の中で神様にもう一度誓ったのだった。
そう誓ったはずなのに、私がクララを幸せにするどころか、彼女といると私の方こそ幸せを感じた。彼女は年に似合わずとても聡明で、人の機微が読める子だった。私が疲れているときは自分が甘えているようにみせて、そっと寄り添ってその暖かさを分けてくれてた。勉学も文句も言わずに進んでやっているらしく、教師達からもお世辞ではない賞賛の声が届く。時折私の方が年下のように感じてしまうくらい、彼女は怜悧として美しかった。
最近、彼女は特に大人びていて、寝るときにその体の柔らかさが子供特有のものから女性のものになってきている。それが少し、私を眠れなくさせる。嬉しいのに、困ったものだ。私は待っている。彼女が大人になるのを。彼女の体ごと、全部自分のものにしてしまいたい。