前世を思い出しました。
「クララ様!木に登るのはおやめください!」
木の下の方で侍女が叫んで青い顔をしてる。
「だいじょうぶ、ちょっとあのトリさんの巣を見るだけ。この木ってツルツルしてるから手が痛くないしってっうぁぁぁぁ?!」
うわっ私落ちてる!下にいる侍女の顔が般若からひょっとこになってら。百年の恋も覚めちゃうから後ろにいる近衛兵の恋人を振り返る前に直したほうがいいよ。それにしてもこの浮遊感、前も感じたことがあったような…。
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そうだ。あの頃私は乙女ゲームにはまってて仕事が終わったあと、走って帰ったんだ…。私は急いで続きをやりたいから、いつもは通らない裏道の急な階段を走ってたら足が滑って…あっ死ぬ、とりあえず部屋を掃除してから死なせてくれええええ!
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はっ!そうだ、私は枯れた干物女で彼氏もいなくて乙女ゲームが唯一の楽しみだった。部屋にはやりかけの乙女ゲームその他いろいろ。あれを人に見られるのか、死んだほうがマシって死んでたわ。何故かよく思い出せないけど、早く死んでごめんなさいお父さんお母さん。娘は異世界で元気過ぎるくらい元気に生きてます。
「クララ様!起きられたのですね、今医者を呼んできます!」
ひょっとこみたいな顔をしていた侍女が医者を連れてきた。
「タンコブだけですな。ほんに良かった。安静にして冷やしていれば痛みも治まってきますでしょう。元気なのはいいが、あまり皆に心配をかけないようにの。」
「はい。」
好々爺としたおじいちゃん医師は髭を蓄えた顔でニコニコ笑って部屋を出て行った。
侍女はうつ伏せになった私のタンコブに濡らしたタオルを乗せる。
「少し眠ることにするわ。」
そう言えば侍女たちは部屋を整えた後出て行った。よし、これで少し1人で考えられる。
ちょっと整理しよう。
私はクララ・タンバリン7歳。タンバリン国という陽気な名前の国の王女だ。タンバリン国には現在王様がいない。非常事態だ。なんでそんなことになったかというと、王様であった私の父がポックリ病気で死んだからだ。7年前、王様が結婚しすぐに私は生まれた。周りのみんなは王子様もすぐに生まれると思った。しかし王様は熱病にかかり生死をさまよったことで生殖能力をなくしてしまった、らしい。らしいというのは噂で聞いただけだから。それでも諦めず頑張っていたけど、結局私以外の子供はできぬまま王様は亡くなってしまった。
そこで新しい王様をたてなくてはならない。この国で王様になれるのは男性のみにも関わらず、いるのは7歳の王女である私だけ。そこで女性しかいない場合、その夫が王様になるという例外を適用することにした。
それで私は明日、結婚式を控えているのだ。
7歳で結婚ってなんだ。勝ち組なんだか負けてんだかわからない。それにしても結婚相手のギルバート・カスタネット様も可哀想だ。17歳という1番のヤりたい盛りに7歳の女の子と結婚させられてしまうんだから。
ギルバート様は会ったことはないが侍女の噂にもよく聞くから何となく知っている。宰相の息子で頭も良く15歳で成人してからも頭角を現しバリバリ働いている、将来有望なイケメン。そんななんでも持ってる勝ち組の男の子が、国のために10歳下の私と結婚するなんて申し訳ない。
しかし丁度いい人材は彼しかいなかったらしいと侍女が話していた。若いが成人していて仕事もできて地位もある。彼は今から王様として働けて、私が成人した折にもまだ若く十分子供を望める年齢だ。
それにしても一回も会ったことのない人と結婚するなんて憂鬱だ。憂鬱すぎて木に登ってしまって疲れたし、このまま眠ってしまおう。