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四話

 外に出て、夜風に当たると少しほっとした。両親と弟たちは、家へ帰っていったが、私は直ぐには家に帰る気分にはなれなくて車で書店へ向かった。行く場所はどこでも良かった。一人になることができれば。煌々と明かりを放っている書店の駐車場に車を停めて、ハンドルに顔をうつ伏せた。きっと泣いてしまうと思っていたのに、意外な程涙は出なかった。

 少し間を置いて、意識がフェードアウトする。

                  *

 栗毛の青年と空っぽの洋室。椅子や机さえない空虚な空間に私と彼はいた。

”また来たのかい?”

困ったように笑った彼の顔を私はまともに見ていなかった。彼に、というよりは自分自身に言い聞かせるように呟いた。

”今はまだ、大丈夫。もうしばらくは、耐えられるってわかるの。でもその先はどうなるの?状況はどんどん悪くなる。それだけは決まっているのに?”

青年は腕を組んだ後、少し考え込んだ顔で、それでも私を安心させるように頭を軽く撫でた。

”僕はいつだってここにいる。この世界は誰も壊すことができない。例え、他のすべての世界で君が追放されることがあっても、この世界だけは君を無条件に受け入れる。どんなに君の周囲が変わってしまっても、これだけは変えられない。君も知っているだろ?”

頬に涙が伝ったのがわかった。

”これからのことを考えるのが怖いの。1秒だって私は時間が進んで欲しくない。現実の世界で私は何も欲しいとは思わないし、きっと何も得ることはできない。私はずっとこの世界に留まりたい。だってここには私しかいないもの。”

私が言い終えないうちに、彼の顔つきがさっと変わった。

”そうだよ。ここにいるのは、いつも君一人だ。”


 しばらく、私は思い切り泣こうとしたけれど、上手くいかなかった。行き場のない気持ちをどうにかここに止めようとするかのように、体を抱きしめた。私は堪らなく怖かった。何が私を脅かそうとしなくても、私は自分が存在すること自体が恐ろしい事のような気がしていた。どうか、このまま全ての事象が留まって欲しい・・・。

 不可能な願い事を祈るように、上目遣いにフロントガラスの外を眺めると、小学生くらいの女の子が書店の紙袋を抱えて、嬉しそうに父親に手を引かれていた。

 私は、感情を込めずにその光景を眺めて、そしてまた突っ伏した。


 書店が閉まって、周囲に車が一台もいなくなった駐車場。暖房を入れていない車内は寒々としていたけれど、そんなことはどうでもよかった。そして、私はそのまま・・・何もできないまま世界から取り残されていた。end


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