表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/46

《老僕》

「アルマン!」


ルカが帰ると、エミールは生まれた時から付き従う爺やの名前を呼ぶ。


すると、すぐに初老の男性が現れる。

黒いロングベストを身につけ、白髪の混じった髪を丁寧に撫でつけてある。


「お呼びですか、旦那様。」

「シャルボン家の雇った医者はヤブだったようだよ。医者の本当の仕事を、教会の奴らに教えてやってくれ。」

「わかりました。」


アルマンは余計な事を言わなかった。

エミールがルカの事を気に入っているのはよく知っている。


それなら、きっと今回は、さほど大きなトラブルにはならないはずだ。


内心、アルマンは、この若い主を心配していた。


デュボア家には、4人の男子がおり、エミールの腹違いの兄はすでに25歳になっている。


他の2人も、10歳と19歳で、このまま病にならなければ、無事に成人できるだろう。


前デュボア子爵が亡くなった時、エミールは正妻の生きている子の中では長男であったため、名目上彼が当主を継いだ。


周囲の予想に反して、エミールは優秀だった。


これまでの3年周期で休耕地を交えて2つの作物を育てる三圃制から、4年周期で4つの作物を育てる四圃制に変えた。これによって耕作地が減り、生産量が増えた。育てる作物も試行錯誤を繰り返し、この土地に強い芋も買い付けてきた。


道や上下水道も整備した。


戸籍や住民票を作り、税を徴収する代わりに、不作の時や貧しいものには食べ物を与えた。


これを、奇跡と言わずに何というのだろう。


しかし、エミールは進化論という新たな考えに傾倒し始めた。


植物や動物を交配し、強い種を作ろうとしたのだ。強い親から強い子が生まれるのは道理だが、それで意図的に新しい“もの”を作るのは、神の意思に反するのではないか。


神が与えたものを否定し、生命が変質していくことなど、あって良いのだろうか。


そうでなくとも、エミールの兄弟は彼を良く思っていない。


アルマンがまだ22歳のエミールを若旦那ではなく、旦那様と呼ぶ理由もそこにある。


現在、エミールは、よりにもよって、兄に内政の大部分を任せている。


兄であるレオン・デュボアは、前デュボア子爵が妾に産ませた子で、小さい時にこのデュボア家に引き取られてきた。後ろ盾がなく、エミールを立て続けなくてはならなかった彼は、野心が人一倍強かった。


それでも。


エミールが兄に、「ド・デュボア」を名乗る事を許さなかったとしても、他の家よりは明らかに高待遇ではあった。兄が望めば望むだけ学ばせ、セントヴィルの社交界にも自分の代わりに兄を行かせた。


エミールと違って、男らしい顔つきをした彼は、ご婦人方の評判もよく、多くの人脈を作ることができたのだ。


下の2人、ジュリアンとルイは、エミールと同じ母親だが、奇行に走り、危険な思想を持つエミールよりも、レオンの方に懐いている。


きっと、この2人なら、レオンが子爵を継いだとしても、反対はしないはずだ。


この、綱渡りとも言えないような、脆弱な足場の上に、エミールは立っていた。


だからこそ、デュボア家の主人は、エミールただ1人だと示さねばならない。少なくとも、先代からお仕えしている老僕が、この家の主だと認めているのは、エミールだと。


エミールは、まるで海に飛び出してしまった陸鳥のようだ。


羽ばたくのを止めれば死んでしまう。


…無理をすれば、必ず無理が返ってくるものだ。


口に出したい思いを堪え、アルマンは主人の言いつけを果たす準備を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ