《誰かを呼ぶ声》
ルカの表情は深刻だった。
いつもの“お茶会”ではなく、領主としてのエミールへ謁見を願い出た。
「エミール様、此度の事件はもうお聞き及びでしょう?」
「ええ、マリーが夫に会いにいった時、腹を割かれたと聞きました。」
エミールも領主として、ルカに相対する。
よく見れば、エミールの瞳が、悲しみではなく罪悪感に揺れたことに気がついたかもしれない。
それは、守れなかったマリーに対してであり、母を失わされたニコラに対してであり、今騙しているルカに対してであった。
「なんとしてでも、犯人を捕まえなくてはなりません。…わかっていると思いますが、妊婦の腹を割いて赤子を取り出すことなど、誰にでも出来ることではありません。」
「それは、違う。ただ割くだけなら誰にでも出来る。それで赤子が生きているとは思えないが。」
「ええ、そうでしょう。…でも、教会はルネを疑っています。私は、貴方を。」
不自然なほど、表情のない目で、エミールがルカを見つめる。
エミールは、疑われても怒らなかった。
それが、さらにルカを不安にさせる。
その時、遠くで赤子の鳴き声がした。
「あれは?」
「親戚の子どもだ。」
アルヴァニエは大きくない街だ。
まして、黒死病の一件で、人口を減らしたのだから、余所者はすぐにわかる。
エミールには、赤子がいる親戚はいなかったはずだ。
ルカは、マリーの惨状を思い出した。
「うっ」
彼女の遺体が瞼に浮かび、ルカは吐き気を催した。
「大丈夫か?」
エミールが差し出した手を、ルカは掴む。
「本当に、貴方じゃないんですね?」
「僕は“殺してない”」
ルカに嘘は吐きたくなかった。
だから、この言い方が精一杯だった。
今回の件では、ルカを巻き込めない。
ルカがエミールに加担し、万一にでも隠蔽に走れば、守れるものも守れなくなる。
それに、ルネの立場はもっと悪い。
いつ袋叩きにされて、死体で転がっていてもおかしくない。
ルカは、祈るような視線でエミールを見つめる。
「本当に違うんだな?」
「僕は“殺してない”。」
ルカは、小さいため息をつくと、何度も頷いた。
「お前のはずがない。お前は人は殺さない。まして、あんな風には…。」
そうだ。
さっきの子だって、誰かの隠し子かもしれない。
貴族には隠し子がいることが多いし、それを隠すことも多い。
現に、エミールの兄、レオン・デュボアですら、妾の子なのだから。
不安に苛まれつつ、まるで自分を騙すかのように、ルカはエミールを信じるための材料を探し回った。




