《静かな決壊》 ※1章分飛んでます。後日追加します。
運命は残酷なものだ。
誰かにとっての救いが、誰かにとっての絶望だということもある。
評議会が開かれた夜は、この年1番の冷え込みだった。
チラチラと降り始めた雪は、風によって人々へ強く叩きつけられた。
弱った病人達は次々と力尽きていった。
周辺からの難民の流入も、徐々に減っていった。
吹雪の中、病人を抱えて移動するのは自殺行為に等しいからだ。
貧民街の人々は、服の燻製用の薪で暖をとった。
貧民街は悲惨だった。
凍傷で手足が紫をしている者、リンパ節が腫れ発熱している者、倒れたまま動かない者…。
エミールは、生きている者には、炊き出しとわずかな布を与えた。
それが、棄民を肯としないアルヴァニエの精一杯の政策だった。
雪は3日間も続いた。
弱った命から、奪われていった。
4日目に雪が止み、6日目に雪が溶けると、残酷な現実が顔を出した。
あちこちで、亡くなった人達の火葬が行われた。
病や寒さで倒れる人が多い中、土を掘って埋める事が出来なかったからだ。
ノミの活性も落ちていった。
黒死病と降雪で貧民街は多大な被害を出した。
彼らの悲しみ、理不尽への怒りは尤もだった。
「どうして、雪の中、私たちを放っておいたのさ!余所者だからって、酷すぎるじゃないか!」
新市街でも商人を中心にエミールを批判する者たちがいた。
黒死病の流行中に供出させたあらゆる物の補償が出来なかったからだ。
まして、黒死病への対応に協力を求められ、その結果亡くなってしまった者達…、聖職者や警官達の家族や友人の嘆きは深かった。
人々は怒り、苦しんだ。
「夫は、黒死病の患者を見回るために駆り出されたんだ!それで死んじまったんだから、領主様に殺されたようなものじゃないか!」
他所よりはマシ、そんな言葉は実際に犠牲を払って人々には何の慰めにもならない。
周辺都市の人口が70%、酷いところでは80%の人口減だった。
それに対し、アルヴァニエは30%ちょっとの減で済んだ。
それを見れば、一見、対策が功を奏したように見える。
しかし、そこには富裕層と貧困層の命の格差や、アルヴァニエの崩壊への危機が潜んでいる。
内訳を見れば、旧・新市街は95%以上の生存率で感染を抑制出来たのに対し、貧民街は生存率30%ほどしかなかった。
それも、偶然の雪が感染を抑えたから、30%で踏みとどまっただけとも言える。
もし雪が降らず、難民や貧民が旧・新市街に雪崩れ込んでいれば、周辺都市と同じく行政能力を失い、周辺都市と同程度かそれ以上の死者を出しただろう。
例え、元からいた貧困層の大部分が死に追いやられたとしても。
生き残った彼らがどんなに富裕層やエミールを恨んでも。
市街で財産のほとんどを奪われた人達が、難民やエミールに怒っても。
アルヴァニエは幸運だった。
人は失う前に守られたものの尊さには気がつかないものだ。




