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《神に背く行為》

町外れの無縁墓地。そこには似つかわしくない、艶の良い馬に引かれた1頭立ての馬車が停まっている。全体を黒く塗装した馬車は、簡素だが気品のある佇まいで、夜の闇に馴染んでいた。


「今日は随分と遅かったじゃないか。」


御者台に座っていた男は、暗がりから現れた3人の大柄な男たちを一瞥すると、朗らかにそういった。


「すみません、旦那様。」

「何があったんだね?」

「今日は夜警の見回りがあったんでさぁ。新しい神父が来たとかで、そいつが良いとこの坊ちゃんってわけで。見回りが増えたんでさぁ。」

「そうか。誰にも見られてないだろうね?」


張り詰めた空気に似合わない、柔らかな声が尋ねる。


「当然でごぜえやすだ。」

「それで、良いものが見つかったんだろう?早く見せてくれないか?」


大柄な男たちは、黙って頷くと、まだ柔らかな土の元へ御者台に座っていた男を案内する。


無縁墓地は教会の墓とは違い、墓といっても所々で土が盛り上がっているくらいだ。数少ない墓石は倒れ、杭も低木の一部と化している。


土の盛り上がりがわからなくなったり、草が生えていたりする場所もある。

その中に、新しく掘った土が盛り上がっている部分がある。


「ここでさぁ。」


彼らは貧民街出身者に多いアクセントを隠しきれていなかったが、身につけた丁寧な縫製のブーツや厚手の手袋は、彼らの金回りがそこそこ良いことを示している。


「葬儀屋の話じゃ、昨日死んだばかりだと。」


旦那様と呼ばれた男は、満足そうに微笑んだ。


アルヴァニエでは、死体の埋葬は必ず葬儀屋の手で行われなければならないという決まりになっている。

餅は餅屋、死体は葬儀屋というわけだ。


「上出来だ。新鮮な死体はなかなか手に入らないからな。」


“旦那様”が頷くと、墓に集まった男たちは、スコップや鍬やナイフを取り出し、早速穴掘りに取り掛かった。少し湿った土が、重く彼らの腕にのしかかる。


神の元へ召された肉体を掘り起こすことに、彼らは誰も躊躇しなかった。


しばらくすると、土の匂いに混じって、腐臭とも異なる死臭が漂い始める。


彼らは“旦那様”と何度も仕事をしているようで、“旦那様”がほとんど指示を出さなくても、1時間ちょっとで、若い男の死体を掘り出した。


“旦那様”は、穴に入ると、顔を死体に近づけて匂いをかいだり、指で肌の弾力を確かめたりしている。


「上出来じゃないか。」


明らかに機嫌の良さそうな声だ。


「見回りが来る前に片付けねばな。」


男たちは、出来るだけ土を払いながら、死体の脇と足を持って穴から引っ張り出す。


死体が男で良かったと彼らは思った。

死んでから大して時間が経っていなければ良いが、皮膚が脆くなっていると腐った肉と共に髪が抜け、せっかくあつらえた作業着を汚してしまう。長い髪が作業着に絡み付きてもしたら、洗濯が面倒だ。


それに、この奇妙な依頼主は、死体に死後の傷をつける事を極端に嫌がる。初めて彼らが依頼を受けた時、鍬でうっかり死体の指を切り落としてしまい、銀貨を1枚づつ減らされたのだ。


死体を穴の外に出すと、長方形の布の上に寝かせ、風呂敷のように包む。最後は紐で縛って、馬車に詰め込んだ。


あとはもう少しだ。

6月の夜は肌寒く、少しでも動くのをやめると汗が冷える。

風がザワザワと木々を揺らし、狼の遠吠えが遠くに聞こえる。


無縁墓地でも、穴が浅いと狼などの動物に荒らされてしまうので、最低でも1m近くは穴を掘るのが普通だ。

そのため、埋め戻すだけでも一苦労だ。

穴を埋め、掘り起こした跡が目立たぬよう、小石や木の枝、草をそれらしく置いておく。


“旦那様”は、墓が最後まで埋め戻されるのを確認すると、懐から銀貨が入った小袋を取り出す。


「君たちを信用しているからな。抜かりがないようにしろよ。」


袋を取り出す時、一瞬、胸元の黄金に輝くペンダントが覗いたが、それに気がついた者はいなかった。


“旦那様”は、死体を積んだ馬車を走らせると、木製のマンホールの側まで来た。


アルヴァニエは、下水道が整備されつつあるが、整備初期の下水道の中には、設計が不良で放置されたものも存在するのだ。この下水道も、勾配の計算を誤り、施工途中で放置されている。


“旦那様”が、マンホールの蓋を2度叩くと、中から2人の男が出てくる。土の匂いが、フワッと立ち上る。マンホールの男たちは死体を受け取ると、使われていない下水道の中へと姿を消していった。


“旦那様”は、それを見届けると、馬に鞭を打ち、暗闇の中へ走り去っていった。

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