《井戸端会議》
世の亭主方は女の噂を馬鹿にしがちだが、耳は早い方が良い。
ジャン・シャルボンの訃報はその日のうちに、アルヴァニエの住人には周知の事実となった。
デュボア子爵の作った公営の洗濯場で、洗濯婦達は手を動かしながら、互いに話しあっている。
「可哀想に、まだ若かったんだろ?」
「はんっ!美味いものでも食い過ぎたんだろうさ。」
1人が苛立ち紛れに応えた。
「あそこのボンボン達は、随分とやりたい放題らしいじゃないか。」
「リリーのとこの、金の羊って酒場じゃ、酒が足りなくなるぐらいだって。」
金の空気を感じ、彼女達の声音が真剣なものになる。
「食べきれないくらい料理を頼むから、客に配ってるって言うじゃないか。」
「今夜も行くのかい?」
「今夜は、お屋敷に運ばせてるってさ。」
「それなら、アタイがなんとかしてやろうか?あそこの家には知り合いの娘が居るからね、そんなに沢山余るんならちょっとくれないか聞いてみるよ。」
「そりゃ、良い話だ。」
娘でなく、知り合いの娘なら、ご馳走にありつくのは難しいだろう。
彼女達の声音が緩む。
「あの末息子も可哀想にねぇ。上があんなのじゃなかったら、もっとマシな死に方が出来ただろうに。」
「ちょっと!滅相もないことを言うんじゃないよ!」
噂には嘘も多いが、真実もそれなりにあるものだ。
「時間の問題じゃないさね。8番街の薬屋が逃げ出したって言うんならさ。」
「それに、旦那様は上の2人には財産だけくれてやって、末息子に家業を継がせようとしてたらしいじゃないか!」
「そりゃ、何があっても不思議じゃないさね。」
季節は7月になっているものの、まだまだ水は冷たい。
彼女達の手はアカギレだらけだ。
デュボア子爵の公営洗濯場では、軟膏を彼女達が自由に使えるように設置しているが、どうしても全ては防ぎきれない。
「そういやね、子爵様が新しい軟膏を作ったそうだよ。カモミールを浸した油で作ったんだすって。」
「それで、どこでくれるって?」
「ここと、南洗濯場だとよ。」
13年前、初めてここに洗濯場が出来た時から、洗濯婦は軟膏を自由に使えるようになった。
当時は、随分と有り難がられたものだ。
10年以上経てば、あって当然。
「管理人様に言ってきた甲斐があったもんだね。」
字の書けない彼女達は、管理人に直接、意見を言うことが許されている。必要は発明の母だと信じるエミールは、彼女達が自主的に洗濯場を運営できる仕組みを作ろうとしたのだ。
手の炎症を抑える、ハーブ入りの軟膏は、その成果だ。困難に際した時、自ら動ける力が、この地を耕す。その信念は、街の端々に、息づき始めていた。




