《プロローグ》
彼の評判は悪辣だった。
人々は彼を、自身の好奇心のために何千という人の遺体を切り刻み、最後には生者まで手にかけた人非人だと言った。実際、彼は多くの生きた人間を切り刻み、その大半を死へと追いやった。
彼に関する悪い噂の多くは、彼が本当にしでかしてきたことだ。妊婦の腹から胎児を引きずり出して母親を殺した事もあるし、最後の希望を求めて医者にかかろうとする病人をあざ笑い、何の治療も与えずに死なせたこともある。
人間の臓器を切り取り、瓶詰めにするような悪魔の所業も、彼にとっては朝飯前だ。言葉のあやではなく、人間の尊厳を踏みつける事より、朝食に何を食べるか決める事の方が、彼にとっては難しかった。
我が子を失った父親に、彼が吐いた言葉は、「代金はちゃんと払って下さいよ。うちは出来高制じゃないんでね。ああ、それと、朝ごはんは何でも良いですよ。生野菜以外だったらね。」これを、ただの奇人変人の類と言っていいのだろうか。神に対する、生命に対する冒涜ではないだろうか。
人々は彼を、悪魔崇拝者だとか異端者だとか呼んだ。思いつく限りの罵倒をもってしても、彼の悪逆非道を表すには足りない。
そのような人物だったから、彼が死の際に立った時、誰も彼を見舞おうとはしなかった。そばにいたのは、信心深い神父ただ1人だけ。
人々は、その神父の慈愛の精神に敬意を示しつつも困惑した。
「なぜ神父様は、あの気の触れた切り裂き魔をかばうんだ?確かに生まれは良かったのかもしれないが、あんなものは悪魔付きと同じじゃないか。」「死んでくれて清々したよ。神父様は全ての生き物は神がお造りになった創造物で、祝福されるべきだと言うが、世の中には生まれてこないほうがいい人間だっているじゃないか。あの悪魔が何をしたか知っているだろう?」
彼と神父の仲を疑うものもいた。実は彼らは生き別れた兄弟なのではないかとか、神の摂理に逆らう仲なのではないかとか。しかし、清廉潔白と評判な神父の、この手の噂を信じる者はほとんどいなかった。
彼は、彼自身が多くの人にしてきたのと同じように、死後に体を焼かれ、白い灰となってこの世から消えていった。




