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右腕の判子注射 ―呪われたヒト―  作者: 結川翔己
第一章

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第八話 守る

『ミヨちゃん』

『そうちゃ〜ん!こっちだよ、おいで〜っ』

『ミヨちゃ、ミヨちゃんっ』

『わ〜っ、そうちゃん走るの早いねぇ!すごいすごい!』

──────。

『キャー!!だれか!だれか!!火の中に女の子が!』

『なんだって?!』

『急げ!消防車を呼べ!』

『無理だ!この火ではもう……!』

────────────。

「っハッ……はぁ……はぁ……はぁ……」


***


【 右腕の判子注射 ―呪われたヒト― 】


***


「柳瀬?入ってもいい?大丈夫?」

深夜四時ごろ。ある夢を見て飛び起きるに近い感覚で目が覚めた。まだ腕に痛みを感じる。先ほどの夢が相まって息が苦しい。そんななか、部屋の扉がコンコンと音を鳴らした。短い呼吸を繰り返しながら扉まで歩き、ドアノブを回す。

「ぅあっ、あ、柳瀬……えっ、待っ、柳瀬なにその汗、声かけてくれれば自分で開けたのに」

扉の前に立っていたのは案の定瀧田だった。ひどく心配そうな顔をしている。

「っせ……響く……」

「あぁっ、ごめん……」

「入れ、どうせお前部屋戻れって言っても無駄だろ」

「え、あ、あはっ」

俺に図星を指された瀧田は力なく笑った。

「つか、今何時だと」

「ごめん、でも柳瀬のうなされてる声がいつもより大きい気がしてさ」

「うるせ……」

「柳瀬、歩ける?しんどいよな」

扉を開けたはいいが、部屋の入り口付近で力尽きた。歩けない。ベッドに戻れない。このままじゃ、倒れる。

「ごめん柳瀬、触るよ」

「は、やめっ、うっ……がッ」

瀧田が動けない俺を軽く持ち上げる。同時に身体中に尋常じゃないほどの痛みが走る。痛くて痛くて仕方がない。苦しい、息ができない。

「柳瀬、大丈夫?ごめんな、先生呼んでくる?あっ、雪姉さん連れてくるよ」

心配そうに見つめる瀧田がそう言って部屋を出ようとする。瀧田の介助により、ベッドに座った俺はそんな瀧田の腕を掴んでその動きを止めた。短く切れる息を必死に繰り返しながら瀧田に鋭い眼差しを送る。

「……分かった、とりあえず柳瀬は横になってよ、なにか食べる?昨日はなにか食べれた?」

瀧田の質問のどちらにも首を横に振って答える。ゆっくりと横になった俺のそばに腰を下ろした瀧田は、持っていた自身のハンカチで俺の額の汗を拭いた。

「ごめんな柳瀬、痛かったよな」

少しずつ落ち着いてきた息に瀧田が言った。ふう、と大きく息を吐き、俺もそれに答える。

「ほんとだよ、馬鹿」

「ほんとごめん、体は楽になった?」

「さっきよりはマシだ」

「よかった。……なぁ、さっきなんの夢見てたの?」

座り込んだ瀧田は俺に聞いた。そうなるよな、と思いながらそっと目を伏せる。

「大切な人の夢を見ていた」

「大切な人?ならどうしてあんなに苦しそうな声で」

「俺は、その人に呪われたんだ」


***


『俺は、その人に呪われたんだ』

柳瀬はそう呟きながら笑ってみせた。ただ、その笑みは自嘲しているかのようにも見えて、事情を知らない俺の心臓にも痛みを与えた。

「その人って、だれ……」

再び目線を柳瀬に戻すと、珍しくこちらに寝顔を向けている柳瀬がいた。

さっき体に触れたのマズかったかなぁとか、いつもより四半痛がツラくて疲れてたのかなぁとかいろいろな心配はあるが、それ以前にぐっすり寝ている様子の柳瀬に少し安心した。

「……柳瀬〜、柳瀬は一体なにを隠してるの〜……」

俺は柳瀬といる時間がいちばん長い。それはきっとお互いそうだ。柳瀬も俺といる時間は長い。柳瀬は俺の「ひとりだった」という過去を知っている。が、俺は柳瀬の過去を知らない。まったくと言っていいほど知らない。柳瀬が過去、なにを経験したのか、どんな生活を送っていたのか、なにが好きで、なにをして遊んでいたのか。俺は柳瀬を傷付けたくないから問い詰めることができないけど、それでも少しは気になってしまう。柳瀬が過去についての話をしない理由があるのか。柳瀬が過去について話したくないなにかがあるとすれば、それはなにか。

「なぁ柳瀬、俺まだお前のこと全然知らねぇよ?そろそろ教えてよ、おまえのこと……」

時刻は深夜四時ごろ。俺は柳瀬の寝るベッドのそばに腰を下ろし、寝ている柳瀬を眺めていた。瞼が次第に重くなり、自然と意識が遠くなる。だめだ、俺はまだ、柳瀬に聞きたいことがいっぱいあるのに。


***


第八話【 守る 】


***


「やぁやぁグッドモーニング。おっ、凪沙はここにいたんだね〜」

「ん、あ、せんせぇ……おはよ……」

いつの間にか柳瀬の部屋で寝てしまっていて気がつくと朝。先生が柳瀬の様子を見に部屋に入ってきた音とその声で目を覚ました。

「……ん、凪沙、颯真から離れなさい」

「え……?」

突然の先生のその言葉にドキッと心臓が跳ねる。緊張感のある先生の声と同時にその場に立ち上がった。自分のほうに俺を引き寄せた先生は柳瀬に近づく。そしてその手を柳瀬の額に当てた。

「うん、颯真熱があるね」

「えっ」

「ほら、颯真のおでこ触ってごらんよ、すごく熱いよ。それと、自分の力を意図せず使用して熱を発しているはずなのにこんなにも震えている。これは人間の体の性質によるものだろうね」

「人間の体の性質?呪人に限らずってこと?」

「そ。人間は体温が上昇するときに筋肉などを震わせて熱を作り出すんだ。そのとき寒気を感じる。目標体温に達すれば寒気がなくなるからこういった場合、目標となる体温に上昇するまで体を暖めてあげればいいんだ」

「なるほど、だから柳瀬は自分の力を使って体をあっためてるんだ……」

「さすっがぁ、凪沙は理解力のあるいい子だねぇ」

「え?あ、えへへ……」

「自分の力で目標体温に辿り着くのが早い火属性の呪人は比較的熱が下がるのは早い。けど、例外もある」

「例外?」

「まぁ簡単に言えば、目標体温にたどり着いたあとのことだね。その後の体温調整を誤って体の中の熱をどんどん放出すれば脱水症状を引き起こしたり逆に熱が上がったりする可能性がある。さて、颯真はどっちかな」

「でも柳瀬、ガキん頃は体温調節下手だったよな、そのせいでよく熱出てたし」

「そうだね、でもあの子、今はそう下手ではない。成長してるんだねぇ」

先生はそう言っていたけど、俺はすごく心配だった。きっとこれは四半痛の一種なのだろう。四半痛がひどくなれば発熱する人もいると昔どこかで聞いたことがある。

「このままここに放っておくわけにもいかないし、医務室に連れて行こうか」

「じゃあ俺、連れて行くよ」

「ありがとうね、頼んだよ」

「うん、任せて」


***


「あっ雪姉さん、久しぶり〜」

「おぉ、凪沙か、久しぶりだね。おぶっているのはいつもの子かい?」

「そう、いつもの子。四半痛で熱出しちゃって」

「なるほどね。じゃあベッドに寝かせておきな。凪沙はこれからご飯かい?」

「うん、雪姉さんは?」

「私は朝ごはんは食べないんでね。食堂に行くのなら食堂のおばさま方にお粥を作ってもらってくれ。三十分後に取りに行く」

「分かった。俺がご飯食べ終わったら持ってくるよ」

「本当かい、ありがとうね」

「ううん、じゃあまた」

「よろしく頼むよ」

久しぶりに顔を見た雪姉さんに軽く挨拶をして柳瀬をベッドに降ろし、医務室から出る。食堂に行くとそこにはすでに七森がいた。

「お、七森おはよ〜」

「はよ。柳瀬は相変わらず寝込んでるのね」

「うん、今日は熱も出ちゃって。今は医務室で寝てる」

「アイツ最近大丈夫なの?ずっと医務室にいるじゃない」

「やっぱ心配だよな〜」

七森は俺たちが来るのを待っていたようで、俺が朝食を取りに行こうとすると立ち上がった。

「そういえば、今日の授業は護身術ってアイツが言ってたわ」

「そっか。俺、朝食い終わったら医務室に柳瀬のおかゆ届けに行ってくるな」

「了解。早く来なさいよ、第一実習室」

「はーいっ。あ、おばさんおはよ!柳瀬が熱出しちゃって、おかゆ作ってください!」

「あら、凪沙ちゃんおはよう、颯真ちゃん熱出しちゃったのねぇ、すぐに作るから待っててね」

「ありがと!お願いします!」

少し話は戻るけど、さっき七森が言っていた護身術の授業とはその名の通り、自分たちの身を守るための授業だ。空手や柔道、合気道などの道具を使わない基本的な武道は全て習う。ちなみにそれぞれ得意な武道は違っていて、柳瀬は合気道、七森と先生は空手、俺は柔道が得意だ。

「あら梛桜ちゃんおはよう、最近お肌の調子いいんじゃない?」

「やだもうおばさま、おばさまも相変わらず素敵な笑顔よ。授業が終わったらまた来るわね」

「そんなに褒めてもなにも出ないわよ~、ありがとね~」

ご飯を取ったら席につき、手を合わせた。

「いただきます!」

「いただきます」

一昨日帰ってきた諸伏くんは昨日指名がかかり、また出張に行った。今度は東北支部北海道特設部に呼ばれたらしい。四半痛が来たことは、無駄な心配をかけさせたくないから諸伏くんにだけは絶対に言うなと俺に釘を刺した柳瀬とは対照的に、先生は諸伏くんに柳瀬の近況をすべて伝えていたらしい。諸伏くんが指名で出動要請がかかるのには現場での戦力になるだけではなく、怪我を負った呪人の治療が段違いで上手いからという理由もある。そんな諸伏くんに、先生は少しでも力を貸して欲しいのだと思う。それでも諸伏くんは柳瀬の体調不良についてあまり触れたことがない。それは柳瀬がいやがるからだと知っているからなのか、唯一と言ってもいいほど自分に懐いてくれている柳瀬に嫌われたくないからなのかは分からない。

「凪沙ちゃん、颯真ちゃんのお粥できたからね〜っ」

調理室から聞こえてくるおばさんの言葉に反応してすぐに返事を返す。

「んはぁい!」

急いでご飯をかき込んで立ち上がる。七森はまだ食べていたから軽く挨拶だけをしてまた医務室に向かった。


***


「いやぁ、久しぶりの護身術!ふたりとも体は鈍ってないかな〜?」

「鈍ってるわけないでしょ、それを言うならコイツに言ってちょうだい」

「なんで俺なんだよぉ!」

「この前の現場で襲われた柳瀬よりひどい怪我負ってたのはだれよ!」

「えぇ?それまだ引きずる?」

ときは進んで授業が開始。この授業では主に武道を取り扱うのだが、道着は着ない。現場に出るときと同じ格好で授業を受け、特別講義の日には普段着で授業を受けることもある。

「よ〜し!じゃあまずは準備運動から始めよう!手始めに僕と一発やってみようか!」

「どこが準備運動じゃ!」

「平和に行こうよ先生〜」

「はーいじゃあまずは凪沙からね〜」

「え〜、俺ぇ?」

「あとに残されるのもそれはそれでいやね……」

「んも〜ふたりともやる気あるの〜?」

「っしゃかかってこい!二対一よ!」

「え?!七森それルール違反じゃね?!」

「この授業にルールなんてありゃしないわよ!死にたくなければ黙って戦え!」

「ぬぉ、おう!」

「仕方ないなぁ、じゃあ僕も遠慮なくぶち当たらせていただくね」

「……七森これヤバくね」

「……うっさい、黙れ」

「なぁこれ七森のせいだよなぁ?!」

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