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右腕の判子注射 ―呪われたヒト―  作者: 結川翔己
第一章

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第六話 序開き

「あっ、眞部さんも寝てるんだ。ふたりとも可愛い〜」


***


【 右腕の判子注射 ―呪われたヒト― 】


***


「柳瀬さん、朝食の時間になりましたよ」

眞部さんの声に意識が覚める。眠い目をこすりながら体を起こすと、目の前にいた眞部さんの目の下のクマが薄くなっていることに気付く。

「よく眠れましたか?」

「あ、はい。眞部さんこそ」

「えぇ、私もぐっすりでした」

「そうですか、よかったです」

「ご迷惑おかけしました。柳瀬さんはお口はどうでしょう、痛みはありますか?」

「いえ、もう大丈夫だと思います。血の味もしませんし」

「そうですか、では食堂に向かいましょう。この時間ですとすでに瀧田くんたちは食堂にいるでしょうし」

「はい、そうですね」

眞部さんと食堂へ向かっていると、正面からだれかがこちらに歩いて来た。

「瀧田か」

「あ、柳瀬。眞部さんも、おはよ〜」

「おはようございます、瀧田くん」

「はよ」

様子を見るついでに迎えに来たという瀧田に遭遇した。

「今から食堂?口大丈夫?体調悪くない?」

「質問攻めやめろ、大丈夫だ。今から飯」

「そっか、眞部さんもクマ薄くなってるね」

「はい、おかげさまで」

三人で並んで食堂に向かっていると、瀧田が妙な話をしてきた。

「なぁ知ってる?昨日施設内にオバケ出たんだって」

「ガキか」

「そんなこと言わないでよ〜、実際にオバケに会った人もいるんだからね?」

「見間違いだろ」

「いや、それがさ、笑いながら廊下を歩いてたんだって、怖くない?」

「不気味だな」

「だろ〜?眞部さんどう思います?」

「そういった噂は初めて聞きますね。怖いもの見たさと言いますか、少々興味を持ってしまいます」

「へ〜、眞部さんでもこういうの興味あるんだ」

「お前のしょうもない話に合わせてくれてんだろうが」

「柳瀬ひどぉい!」

食堂に着くと、すでに七森が朝食を取っていた。

「おー、柳瀬とナベさん。もうふたりとも元気なわけ?」

「まあな」

「はい、おかげさまで」

そういえば、といつもいる人間の姿がないことに気が付く。いつもなら朝一番に医務室まで起こしに来そうな先生がいなかったのだ。

「先生はいないのか」

「先生は今出張。昨日の夜に指名で出動要請がかかって九州支部に行ってるらしいよ」

「それほんと?瀧田くん」

うしろから聞こえた声はなんだか懐かしい気持ちになった。瀧田のことを瀧田くんと呼ぶ人は身近な人間にはふたりしかいない。眞部さんと、もうひとりは、

「瞬くん……!」

諸伏瞬くんだ。

「やぁみんな、久しぶり」

「諸伏くん!久しぶり!」

「うん、瀧田くん久しぶり。七森さんも眞部さんもお久しぶりです。颯真くんも久しぶりだねぇ」

「お久しぶりです。驚きました、お戻りになっていたのですね」

「はい、実は昨日の夜に。柊先生にふたりが医務室で寝ていると聞いてふたりの寝顔少し覗いちゃいました」

「えっ」

「あっ!もしかして!」

耳元で叫んだ瀧田に顔をしかめるが、瀧田はそんなこと気にもせずに続けて大きな声を出した。

「昨日のオバケ事件の犯人!」

「あ」

「ん?」

なんのことか分かっていない様子の瞬くん。だがこの状況では瞬くんがそのオバケ事件の犯人であることには違いなさそうだ。

「瞬くん、昨日笑いながら廊下歩いてた?」

「え?うんまぁ、どちらかといえば笑っていたかなぁ」

「夜帰って来たんだよね、いつ頃?」

「う〜ん、こっちに到着したのが夜の三時前後だったかなぁ」

「多分諸伏くん、オバケになっちゃってる」

「……へ?僕いつの間にか死んじゃった?」

「ごめん瞬くん、コイツの説明が下手なだけ」

瀧田の下手な説明を受ければだれだってこうなるだろう。

「昨日瞬くんの姿を見たであろう人がお化けを見たって勘違いしたみたいなんだ」

「あ、な、なんだそういうこと」

「うん、驚かせちゃってごめんね」

話が一段落したところで七森が口を開く。

「アンタたち朝ご飯食べなくていいわけ?」

『あ』


***


朝食を取りに行っている間も久しぶりの瞬くんとの会話は止まらない。

瞬くんは俺たちのひとつ上の呪人で属性は瀧田と同じ風属性。天才肌であり、勘がよく頼られやすいため、未成年では珍しく指名で出動要請がかかる。彼レベルの呪人ともなれば、未成年であれど夜間の出張が可能になる。そして、指名での出動要請の頻度も高いため、関東本部にいる時間のほうが少ないほど出張であちこちに行っている。今回こちらに帰って来たのだって日付で言えば今日だ。そして現在の時刻は七時。帰って来たであろう三時から寝ても睡眠時間は四時間ほどしかない。度重なる出張と短い睡眠時間のせいで瞬くんの目からクマが消えているのは見たことがない。

「瞬くん、今日はなにかあるの?」

「ううん、今日はなにもないよ。昨日東北支部での対処が終わったから帰って来たの。でも眞部さんとスケジュールやらの打ち合わせしたいなって考えてるかな。特別、出動要請がなければ今日はそれだけ。眞部さんは大丈夫ですか?柊先生に休めって言われているのは昨日一日だけって聞いてるんですけど、今日まで休んじゃいます?」

「いえ、私に関してはご心配なさらず。諸伏くんのご都合がつくのであれば本日中にでもスケジュールの確認をいたしましょう」

「ほんとですか、じゃあお願いしようかな」

「かしこまりました」

「瞬くん今日くらいは寝てよ、クマひどいよ」

「そうかな、でもこのくらいは慣れてるから大丈夫だよ。ご心配ありがとう」

笑って過ごす瞬くんに不安な眼差しを向けるのは俺だけではなかった。

「ですが諸伏くん、若い頃からそんなに無理をしてはいけません。諸伏くんはただでさえ出張が多く、まとまった睡眠時間が取れていません。スケジュール確認はまたの機会にして、本日はお休みになられてはいかがでしょう」

「えぇ眞部さんまで?あははっ、僕ってすごく愛されてるんですね。じゃあスケジュール確認が終わったら速やかに寝ます。それでどうですか?ね、颯真くんも」

「あ、うん、それなら……」

「かしこまりました。それでは朝食後、諸伏くんのお部屋に伺いますね」

「はい、待ってますね」

それぞれトレーに朝食を取り、席に座ると俺のものより瞬くんのものの量が少ないことに気付く。この人、これだけで足りるのだろうか。

「瞬くん、ご飯少なくない?それで足りるの?」

悔しいが、体格指数で考えても俺より瞬くんのほうが筋肉量が多い。こんな朝食の量でその筋肉が作り上げられることができるのであればぜひともその方法を知りたいものだ。

「あぁ、僕一食の量はあんまり多くないんだよね。でも現場のあとなんかはこれと同じくらい食べるし、もちろん三食もしっかり食べるから一日三食以上はザラにある感じかな。最近は祟人の出現も多いからその分摂取量も多くなってるかもねぇ」

なるほど、一食分の摂取量ではなく、一日分の摂取量がキーとなっていたのか。

「んじゃ!いただきます!」

瀧田のその言葉に、その場にいる全員が声と手を合わせた。


***


「じゃあ颯真くん、またね」

「うん、ゆっくり休んでね」

「ありがとう」

朝食を取り終え、それぞれが自分の部屋に戻る。瞬くんともここで一旦お別れだ。俺は眞部さんと一緒に医務室に向かった。

「雪さん、いかがですか」

「うん、この子の具合はだいぶいいよ。芳人くんも昨日は充分な睡眠が取れていたようだし、問題はないんじゃないかな」

「本当ですか」

医務室の管理人である眼人の倉田雪さん。この人は眞部さんの同級生だそうだ。彼女は、眞部さんが唯一下の名前で呼んでいる人間であり、眞部さんのことを唯一下の名前で呼んでいる人間でもある。

「あぁそうだ、昨晩諸伏くんが帰ってきたようです。彼の様子も一度見ていただけますか」

「あぁ、あの子帰ってきてたんだ。いいよ、じゃあ後ほど部屋に向かおうかな」

「かしこまりました。諸伏くんにもそう伝えておきます」

「ふふ、きみは本当に相変わらずだね」

ふたりの会話が終わると、きみはもう帰りなさい、と頭を撫でられた。言われた通りに医務室を出ようとすると、眞部さんが雪さんに一礼した。眞部さんも医務室をあとにするようだ。

「諸伏くんのお部屋にお越しになる際にはご連絡ください」

「分かった。じゃあそっちもスケジュールの確認が終わったら連絡ちょうだいね」

「かしこまりました」


***


第六話【 序開き 】


***


「柳瀬四半痛まだ?」

なぜか俺がいない間に部屋に入ってくつろいでいた瀧田が言った。

「まだだな」

「遅いね……大丈夫かな」

「まあ、なんとかなるだろ」

「ん〜、そうだといいけど」

四半痛は、遅れれば遅れるほど深刻化する。

「四半遅滞なんていつものことだ。心配するな」

「んでもぉ、柳瀬もともと四半痛重いのに四半遅滞でもっとしんどくなるなんて」

「心配性め、大丈夫だっつってんだろ」

「うん……」

実は、そろそろ四半痛が来そうだという感覚はここ数日ずっとある。明日にでも来るだろうと心して待っているのに、なかなかやってこないのでもどかしさすら感じている。

瀧田との会話に読んでいた本を閉じる。コイツがいるとまともに本が読めやしない。

「んなぁ柳瀬」

「ん」

「柳瀬がしてるそれってさ」

「……ん、これのことか」

「うんそう、それ」

瀧田が言うそれとは、俺の首に下げられているネックレスのことだった。

「それってさ、だれかからのプレゼント?」

「……まあ」

「ふぅん、先生とかから?」

「べつに、だれからでもいいだろ」

「え〜、教えてくれたっていいじゃんか〜」

「うるせえ」

これは、ただのチェーンネックレスに指輪を通したものだ。ただ、これが自分の力を強くさせるだとか、体力や持久力を上げるだとかの効果はない。

「それさ、かなりちっちゃいときからつけてたよな」

「ああ、三歳あたりでつけ始めた。というか、つけないといけなかったというか」

「つけないといけない?な、なに?柳瀬ん家ってそういう義務あったの?」

「べつにいいだろこの話。やめだやめ」

「へっ、え〜気になる〜!!」

「うるせえ!」

「ん〜……でもなんつーか、柳瀬ってそういうのつけなさそうなのに意外だよな」

俺が身につけている指輪はネックレスのほかにもうひとつ。

「ほら、これも」

右手中指に嵌められている指輪だ。

「これも三歳から?」

「ああ。同じ時期につけ始めた」

幼い頃から毎日つけていたその指輪により、その指だけがほかの指よりも細くなっている。右手中指に嵌められている理由としては、この指に邪気を払うという意味があるからだという。

「……はあ」

「え〜なに柳瀬、そんなに大きなため息ついて」

「なんでもない」

「え〜?ほんと〜?」

「なんでもない」

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