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右腕の判子注射 ―呪われたヒト―  作者: 結川 翔己
第二章

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第二一話 仲良しこよしの刑

「はぁ?!これで三日連続よ!」

「出たもんは仕方ねえだろ、さっさと行くぞ」

「場所は?」

「近畿支部だ」


***


【 右腕の判子注射 ―呪われたヒト― 】


***


「対象は風属性。対処は瀧田、補助は七森、保護誘導は俺だ」

『了解!』

──────

「対象は水属性。処置は俺、補助は瀧田、保護誘導は七森だ。初期段階だから早めに済ませるぞ」

『了解!!』

──────

「対象は風属性。対処は瀧田、補助は七森、保護誘導は俺だ。ランクが高いから気を付けろよ」

『了解!!!』

──────

「対象は火属性。対処は」

「うッがぁぁぁ!!ちょっと待て!さっきも言ったけど三日連続!んで今日に限ってはこれで四件目!どうにかならないの?!」

「だから、仕方ないだろ。対処は七森だ。補助は瀧田、保護誘導は俺。いいな」

「了解!」

「っぐ……分かったわよ」

「着くよ!」

「あーー!!!ハラ減ったぁぁぁ!」

「うるせえ、ならさっさと終わらせろよな」

「かってるわよ……!」

瀧田が施設内で見つかった次の日から今日で三日連続の現場。そして七森の言っていた通り、今日はこれで四件目の現場だ。正直、この時期でこの忙しさは異常だ。というか、いちばん忙しい時期でもここまで忙しくない。なにが影響しているのかは知らないが、七森がどんどんわがままになっていくのでやめてほしい。

保護誘導の俺は、対処の七森と補助の瀧田と別れて地上に降りる。一般人に声をかけ、避難を促すとすぐに避難が完了した。

「にしても、なんでこんなに祟人が……しかもこんな時期に」

祟人が多く出現するのは五月頃と九月頃。今は十月も終盤だ。例年であれば祟人の出現は少ないはずだった。

「呪人の誘拐事件も増えていく一方だし……」

そう。異常な点は祟人の異常発生だけではなかった。先日瀧田が誘拐されたのと同じように、関東本部内で若い呪人が次々と誘拐されていた。それは各支部でも同じだが、その誘拐された呪人全員がひどい怪我を負って帰ってくるのに加え、誘拐されていた期間の記憶を失っていることが分かっている。不思議というか奇妙というか、いやな予感がしてならない。

「柳瀬ー!対処終わったー!!」

「おお」

上空からの瀧田の大声で現場に目を向けた。対処済みの祟人を抱えるふたりと合流して支部へ向かった。


***


「このところ休みなしですが、みなさんお身体大丈夫でしょうか」

現場報告で事務室を訪れた俺たち。最近現場に出てばかりの俺たちに眞部さんが聞いた。

「俺は大丈夫です」

「俺も平気ー。もう体も痛くないし」

「……ダイジョウブです」

「お前は大丈夫じゃねえだろ」

「七森四半痛ってもう少しだっけ」

「……まぁ、予定通り来れば今週ね」

「ならなおさらムリしちゃダメだな、しんどいときは休めよ?」

「分かってるわよ。でもこんなに祟人が多いんだから、少ししんどいくらいで休んだらほかの呪人が大変になるじゃない」

「無理して倒れられるほうが大変なんだよ、お前もこっちも。だから無理するな」

「それアンタが言えた義理?こっちが心配してやってんのにいつも無理して倒れてたのはアンタじゃない」

「……それは昔の話だろ。今はちがう」

「昔っていうほど昔の話じゃないけど?」

「でも今無理してんのはお前のほうだろ」

「誤魔化すんじゃないわよ、あたしはアンタの話してんだけど?」

「今話してんのはお前の話だ。現在進行形でお前が無理してんだろ」

「まぁまぁふたりとも!落ち着いてよ、ここでケンカするのはやめよ?」

『あ……』

頭に血が昇ってここが事務室であるということを忘れていた。眞部さんが困惑した表情でこちらを見ている。

「すみません眞部さん……」

「いえ、お気になさらず。七森さんも無理はなさらないでくださいね、少しでも体調にお変わりがありましたらお知らせください」

「……えぇ。分かったわ」

現場報告は既に済んでいたので三人で事務室を出る。次は先生への現場報告だ。今回はどこにいるのやら。

「あっ、先生いたよ」

例に漏れず今回も見つけるまでに時間がかかると思っていたが、先生は教室にいた。ドアを開けて教室に入る。

「お疲れ様です。現場報告に来ました」

「おっ、はいはーい。みんなお疲れ様」


***


第二一話【 仲良しこよしの刑 】


***


俺たちは次の日も、その次の日も現場に駆り出された。

「うわッ!なっ、え、なんで手ェ繋いでんの」

そんなある日。単独で現場に行っていた瀧田が教室に戻ってきた瞬間、そんな声を出した。それも当然だ。俺と七森の手がガッチリ繋がれている。そりゃだれでも驚くだろう。

「ま、まさかふたり、この短い時間に恋仲に……」

「コイナカ?」

「アホ言ってんじゃないわよ、だれがこんなヤツと付き合うっての」

「……よく分かんねえけどその言葉お返しする。なにが楽しくてお前と手を繋がないといけないんだ」

「そもそもアンタのせいでしょうが!アンタが口を出さなければこうはならなかったでしょ?」

「俺のせいだって言うのかよ」

「そうよ、さっきからそう言ってるじゃない」

「ふざけんな、俺は俺が正しいと思っていることを言っただけだ」

「だからそれのせいだって言ってるでしょ、さっきから頭の硬い男ね」

「あんだと?」

「なによ、文句でもあんの?」

「文句しかねえよだいたいお前が」

「ふ、ふたりとも落ち着いてよぉ……」

瀧田が俺たちの勢いを鎮めようと間に入る声も聞こえなかった。困った表情を見せる瀧田を気にも留めず、お互いに口の減らない俺たち。頭に血が昇っているので冷静な判断ができるはずもなく、お互いを罵る言葉は止まらなかった。

「うう"んッ」

ある人間のわざとらしく放たれた大きな咳払いが耳に入るまでは。

『う"ッ……』

「あっ、先生……」

「凪沙現場終わったんだね、お疲れ〜」

「あ、うん、終わった。眞部さんへの現場報告は済ませたから」

「そっかそっか、じゃあ僕はあとで聞かせてもらうね〜。……で」

先生の意識が瀧田から俺たちに移ったとき、軽く死を覚悟した。

「お風呂とトイレと現場のときは外してあげようと思っていたけど、ふたりはずっとくっついていたいのかな」

そう、俺と七森の手が繋がっているのは、先生の力のせいだ。もっとも、原因は俺たちにある。

「この際どっちが最初とかどうでもいいんだよ。ふたりが相手のことを考えずにお互いを罵っているのが問題なんだ」

『……ハイ』

珍しくまともな言葉をかける先生になにも言えず、俺たちは小さくなってその言葉に返事をする。

「はぁ……あのね、喧嘩するなって言ってんじゃないの。むしろ仲を深めるためなら喧嘩はするべきだ。喧嘩するほど仲がいいってことわざがあるくらいなんだから。でもそれはお互いのことを罵りなさいっていう教えじゃない。分かるよね?」

『ハイ……』

「謝りなさいと言う気はないよ、ちゃんと自分が悪いと思ってから謝りなさい。でも、仲直りしないと外さないからね。手を繋ぎながらの現場は慣れないし危険だから、それまでは凪沙に行ってもらう。いいね」

「七森、悪かった。お前も謝れ」

「……颯真、ちゃんと反省しろって言ったばっかりだよね」

「っく……」


***


柳瀬と七森の手はしばらくしてしっかり反省したふたりが謝るとすぐに離れた。

「ちなみにさ、なんでケンカしたの?」

「喧嘩ではねえよ。ただ少し言い争っただけだ」

「それをケンカって言わない?」

「……七森、もう少しで四半痛来るって言ってただろ」

「あー、前言ってたね」

「予兆も来てる。それでも七森は無理して現場に行こうとしていた」

「だから柳瀬が止めたんだ、七森のことを考えて」

「……べつに」

「あははっ、そっか」

柳瀬は俺たちを少し頼るようになった。そして、柳瀬は今までよりずっと俺たちのことを気にかけるようになった。だれかの不調にはだれよりも早く気付くし、伝え方は不器用だけど相手を思って言っていることだってすごく分かる。柳瀬のその不器用な優しさがとても嬉しくて、そして同時に、少し苦しかった。

今の俺じゃ、柳瀬の優しさに対してなにも返してあげられない。もっと頑張らないといけない。俺が柳瀬を守らないと。


***


「お前はどう考えている」

「おかしいとは思ってる。でもなにが原因か分からない。そもそもこの短期間の間にいろんなことが起きすぎている。なぜ若い呪人が次々に誘拐されているのか。なぜ戻ってきた呪人はあんなにもひどい怪我を負っているのか。なぜその間の記憶がないのか。そんで、なぜこの時期に祟人が異常なまでに出現しているのか。解決しないといけないことが多すぎるのに分からないことも多すぎる。頭を働かせる時間もないくらいに現場は入ってくるし、それなりにランクも高いから時間がかかる。悪循環だよ、ほんと」

医務室で柊と倉田、眞部が集まり、そんな話をしていた。柊はそう言いながら頭を抱えた。

「防犯カメラの申請はしたの?」

「はい、早い段階で申請しましたが未だ返事は来ていません。政府がこの施設に関して無関心なことは承知でしたが、ここまでことが大きくなるとさすがに目を向けると思っていました。……申し訳ございません、もう一度申請してみます」

眞部は倉田の質問にそう答え、申し訳なさそうに頭を下げた。

「……なんかさ、すんげぇいやな予感すんだよな」

「人間のそういった予感は外れないからね。違和感は仕事をするんだ」

「これ以上大事にならなければいいのですが……」

「最近の異常な祟人の出現はここだけの問題じゃない。実際、一般人への被害も多く出ている。いつもなら祟人が少ないからその分対処が早くて被害は少ないけど、祟人が多いのに加えてそのランクも高い。現場に出れる呪人と反比例して被害は増え続ける一方。一般人の恐怖心やストレスは、確実に募っているだろうし……」

「それが影響して現在現場に出ている呪人へのなにかがなければいいがな。ほら、一度あっただろう、呪人に対する殺傷事件が」

「あぁ、ありましたね、十年ほど前に」

一般人が呪人にナイフを突きつけ、そのまま失血死させた事件。加害者である一般人は日頃の祟人出現のストレスに耐えかねて保護誘導で地上に降り、一般人の手当てをしていた呪人を殺した。

「亡くなった呪人の傷の深さは相当なもので、数も多かった。凶器である包丁はいつでも呪人を殺せるように毎日持っていたものだったし、計画性も動機も相当なもの。でもその加害者は死刑どころか、無期懲役にもならなかった」

「それが、世間一般が俺たち呪人に向ける姿勢で、現実だ。裁判で絶対とされている公平、中立な司法は、呪人には適用外なんだよ」

「……」

医務室が静寂に包まれる。倉田はマグカップを机に置いた。

「そういえば、梛桜と颯真が最近喧嘩をしているようだね」

「このところ毎日な。まぁ、お互いにお互いのことを思ってんだけど、ふたりとも不器用だし、なにより口が悪くてな」

「以前も事務室で喧嘩をされていました。現場後で興奮していらしたでしょうからなおさらヒートアップしていまして……」

「まぁ、釘は刺しておいたから大丈夫だろ。凪沙もいるし」

「ははっ。凪沙はふたりの仲裁役だな、大変だろうに」

「瀧田くんなら大丈夫ですよ」

「そうだね」

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