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右腕の判子注射 ―呪われたヒト―  作者: 結川翔己
第一章

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第四話 特訓

「眞部さん、看守お願いできますか」

「もちろんです、すぐに始めますか?」

「いえ、眞部さんの都合がつく日で構わないです」

「私は今からでも大丈夫ですよ、柳瀬さんが良ければですけど」

「では今からお願いします。場所は第一実習室で。鍵借りて来ます」

「かしこまりました」


***


【 右腕の判子注射 ―呪われたヒト― 】


***


先生からの特訓禁止令発令から約五日。やっとその許可が出た。ただし最初は、眼人との看守特訓。呪人との対人特訓は、看守した眼人に許可をもらってからということになった。

看守特訓とは、体術が使えない眼人との特訓のことで、自分の体術を眼人に客観的に見てもらい、アドバイスをいただくための特訓だ。対して、対人特訓の相手は体術が使える呪人との特訓のこと。実際に対決する形で特訓することもあれば、同じ属性であれば指導を受けることもある。

「それではこれより看守特訓を開始いたします。よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いします」

第一実習室に緊張が走る。息を大きく吐き、新鮮な空気を肺に入れて呪説を唱え、いつも通り火を起こす。そして少しずつ力を入れ、火を大きくする。その火が大きくなれば、そこからしばらくその状態をキープだ。単純な作業だが、これが案外しんどい。

「はい、よろしいですよ」

眞部さんのその声で体の力を抜く。火は徐々に小さくなり、そして最終的には消えていった。

「すごく安定しています。ここまで回復していれば対人特訓をしても問題ないでしょう」

「本当ですか、ありがとうございます」

「ただし、以前のように予定を詰めて特訓をするのはあなたのためにも控えてくださいね」

「はい、その節は本当にご迷惑おかけしました」

「いえいえ、私に非がありましたので」

先日の話し合いの結果、俺のスケジュールは基本的に自分で決めるが、そのスケジュールでも問題がないかどうかを確認するため、眞部さんに一度見てもらうということになった。先生からも許可は降りたらしい。

「ではこちら、特訓評価シートです」

「ありがとうございます」

眞部さんから特訓評価シートを受け取る。これはその名の通り、特訓の評価を眼人や呪人の先生に記入してもらうシートだ。

「それでは以上で看守特訓を終了いたします。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」

「柳瀬〜おつかれ」

「お前……なんでここに」

第一実習室から出るとすぐに瀧田がいた。ここで特訓することは特にだれにも言っていないのに。

「へへ、柳瀬と眞部さんが話してるところ見かけたから眞部さんに聞いて場所教えてもらったの」

「申し訳ございません、柳瀬さんがいやがるのは想像できておりましたが瀧田さんがどうしてもと言うもので」

「俺のワガママなの。どうしても様子が見たくて」

「んでだよ、いつも一緒にいるんだし様子なんてわざわざ隠れて見なくてもわかるだろ」

「それは普段の様子じゃん、特訓してるときの様子なんてあんまり見れないし、前の一件もあったし」

「……」

俺たちの会話が途切れたのを見計らって眞部さんはこちらに一礼して言った。

「それでは、私は失礼しますね」

「あ、はい。お疲れ様です。ありがとうございました」

「お疲れ様で〜す」

眞部さんが退席すると瀧田が話し始めた。

「にしても朝から特訓なんて気合い入ってんね、部屋いないからどこ行ってんのかと思ったけど」

「今日から特訓してもいいって言われたから。早めに許可をもらって特訓がしたくて」

「そっか〜、でもその前に授業だね」

「……分かってる」

「んはっ、そっかそっか」


***


「やぁやぁグッドモーニング、今日もいい日だねぇ」

呪人が受ける授業は年齢によって異なる。八歳になる年から一般人と同じ普通教育を受ける。字の読み書きや計算の仕方などはここで教わる。そして十歳になる年になると、呪人やエイプルなどについての勉強が始まる。十三歳になる年になれば祟人についての勉強も始まり、呪人やこの世界のことについての本格的な授業を受ける。その時期から、その人のレベルに合わせて実戦練習も始まる。これが体術や特訓だ。十七歳になる年になると、実際の現場で大人と同じように対処するようになる。俺たちは今この段階だ。この年齢になれば、子どもでもそうは扱われない。大人と同等に扱われ、自分の身は自分で守らなければいけなくなる。

「おはようございます。眞部さんから許可をいただきました」

「了解〜、じゃあ早速今日僕と特訓しようか。この前僕に勝てそうって言ってたもんね」

「今は無理です。お手柔らかにお願いします」

「ヒヒッ。さぁて、今日はそんな僕についての授業をしよう」

「毎度のことですけど言い方」

「ん〜、まぁあながち間違いではないんだけどなんだかなぁ……」

「この変態教師」

「え〜も〜みんなひどいんだからぁ」

ほんとこの人の性格どうにかして欲しい。

「みんな僕の属性は知ってるよね?」

「うん、光属性」

「そうだね、これはきみたちの持っている三属性とはちがうものだ」

先生は火、水、風のいずれの属性にも該当しない特殊な呪人だ。呪人の中でもごく少数のかなり希少な属性である。

「簡単にいえば、僕みたいな光属性の呪人は基本なんでもできる」

先生のその表現はあながち間違いではない。少し癪だが、認めざるを得ない事実なのだ。

目に力を入れるだけで相手の動きを抑制できる。対象に指を向け、その直後に指を鳴らせば相手の身体に電気が走る。ほかにもいろいろな能力があるが、俺がいちばん羨む点は、四半痛の痛みをほとんど感じないこと。少し調子が悪くなる程度らしいが、もともとの能力が三属性とは比べ物にならないため、現場においてさほどの支障はない。そのため、光属性のほとんどには四半痛の時期に与えられる四半休というものが存在しない。

「光属性の呪人は三属性の呪人と比べるとかなり少ない。だけど一人ひとりの力はすごく強い。つまり、光属性の呪人が祟人になると、この世界にとってはかなりマイナスな出来事になる。これまでに一度だけ光属性の呪人が祟人になったことがあるけど、大変な騒ぎになったそうだよ」

「それっていつ?先生が知らないってことは先生が呪人になるより前の出来事だったの?」

「うーんそうだね、かなり前だけどその頃もう僕は呪人としてこの施設で暮らしていたらしい。とはいっても記憶はないから物心がつく前だね」

先生はこの中でいちばん施設への入所が早く、一歳の頃エイプルを発症したという。

「光属性の呪人が祟人になったらどんなことをするの?」

「さあ。今まで祟人になった光属性の呪人はひとりだから研究しようにも材料が足りないらしい。まぁ、その祟人を対処するには膨大な力が必要になり、かつ尋常ではない犠牲者が出る可能性があるということはたしかだね。初期段階の祟人でもかなりの量の特効薬を打つ必要があるらしい。光属性の呪人は四半痛の痛みをほとんど感じないくらいエイプルへの耐性が高いから、そのせいだね」

「じゃあ先生が祟人になったら大変なことになるね」

「うん、僕が祟人になったらだれが対処してくれるのか楽しみだ」

「そんなこと言ってる場合か」


***


第四話【 特訓 】


***


「よしっ、じゃあ早速始めちゃおっか」

「はい、よろしくお願いします」

久しぶりの対人特訓が先生だなんて、あの頃の軽率な自分の発言が恨めしい。が、仕方がない。やっと呪人との対人特訓ができるのだ。しかも先生は光属性。相手にとって不足はない。むしろ充分すぎる。俺には勿体ないほどに。

「ふぅ……」

息を整え、呪説を唱える。対人特訓の開始だ。

「颯真はまだその小さな火を大きくするのに時間がかかるからね。その火を大きくするまでの間、どれだけ集中力を切らさずに祟人からの攻撃を躱せるかも重要になる」

先生がその目に力を入れる。途端俺の体の自由が効かなくなる。そして指をこちらに向け、指を構えた。初っ端からガチじゃねえかと理不尽に怒鳴りそうになるが、その指が鳴る前にどうにかしなければならない。動きは抑制されているが、ある程度大きくなったその炎を力づくで先生へ飛ばした。

「おっとぉ、危ない危ない」

その目が逸らされたことでこちらの体も軽くなる。抑制が解けたのだ。今のうちに速い攻撃を仕掛ける。指を鳴らすと小さな火が五つできる。その火を先生に飛ばし、それを何度も繰り返す。小さい火ではあるが、数は多いのでそれなりに使える攻撃だ。

「アハハッ、なんだ颯真、ちゃんと本気じゃん」

俺が本気じゃなかったことがあるのか、と言いたくなる先生のその言葉に火が少し大きくなった。感情に影響されることもあるのがこの力なのだ。

「じゃあ、僕も少々本気を出そうか」

その言葉を皮切りに、ギンッと大きくなった目に地面から足が浮く。ヤバい、動けない。そんな言葉も口から出せず、俺はただ先生の目を見ることしかできない。指をひょいと動かせば、その方向に体が流される。ここは少し広いとはいえただの教室。もちろん壁がある。

「ん"ッ……」

体は左に流され、体の左側に強い衝撃を受ける。続けて右側に流された。次は後ろへ飛ばされ、そうすれば抑制から解放された。それでもボロボロだ。頭がクラクラする。息をするので精一杯になる。口から出てくる生暖かい血が止まらない。なんとか反撃をしようと指を鳴らすが、起こした火はかなり小さい。明らかに力が弱くなっている。

「あちゃーやりすぎちゃったかな」

先生は余裕満面の笑みでこちらに近づき、問いかける。

「僕はまだいけるけど、颯真がしんどそうだしもうやめようか?」

そんなこと言われれば、その問いに対抗するしかなかった。

「いえ、まだ大丈夫です……お願いします」

「ヒヒッ、やる気があることはいいことだ。でも今日はもうやめておこう、シャワー浴びて部屋でくつろぎな〜」

先生はいつの間にか記入した特訓評価シートを俺に渡し、実習室を出る。が、その前にこちらに顔を向けた。

「あぁそれと、特訓を始める前に深呼吸して落ち着かせる癖、やめなさい」

「え?」

「現場ではそんな時間ないよ、この前みたいに襲われそうになったとき深呼吸なんかしてたら一発アウト。分かってるでしょ?颯真の歳になると学生だろうが関係ない。自分の身は自分で守らないと」

「……分かりました、ありがとうございます」

「じゃ、眞部呼んでくるからちょっと待っててね」

先生のその言葉を聞いて返事をしようとするが、少しずつ意識が遠のいていくのが分かった。目がチカチカする、意識を失ってしまう。

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