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右腕の判子注射 ―呪われたヒト―  作者: 結川 翔己
第二章

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36/60

第十二話 寿

「七森!お誕生日!」

『おめでと〜!!』

「おめでとう」


***


【 右腕の判子注射 ―呪われたヒト― 】


***


あれから一週間以上経った。奈子はあの日の翌日に目覚め、さらにその翌日には小児棟に帰った。奈央斗は奈子が小児棟に帰ったその日に祟人になったので、雪さんが特効薬を打ち、双子は無事元通りの生活に戻っていった。

そして今日は、クラスにいる唯一の女子、自称優雅な乙女、七森の誕生日だ。

「なによアンタたち、結構粋なことしてくるじゃない」

七森の誕生日パーティーをしようと言い出したのはもちろん瀧田だ。そんな瀧田は、約二ヶ月に前に誕生日を迎えた。

「そういえば、明日瀧田の誕生日じゃない?」

二ヶ月前の瀧田の誕生日前日。俺は七森と廊下を歩いていた。瀧田は現在九州支部でひとり現場に行っている。

「あー、たしかそうだ」

「アンタ、幼馴染なのにアイツの誕生日も覚えてないの?」

「べつに幼馴染じゃねえよ。アイツが勝手に言ってるだけだ」

「はぁ……アンタねぇ、十年も一緒にいればそれはもう幼馴染じゃない。いい加減認めなさいよ」

「いや、俺と幼馴染とか、瀧田いやだろ。可哀想じゃねえか」

「可哀想だア?アンタね、謙遜は行きすぎると侮辱になるわよ」

「謙遜?俺はそんなことしてねえ。侮辱もだ。いい加減なこと言うのやめろよ」

「その言葉そっくりそのままアンタに返すわよ……」

七森は歯を食いしばった。歯を食いしばりたいのはこっちだ。さっきからトンチンカンなことばっかり言いやがって。

「で、どうすんの、瀧田の誕生日パーティー」

「どうすんのって……え、やるのか」

「はぁ?逆にしないっての?柊の誕生日パーティーはあたしたちに手伝わせてまでやったのに」

「……それもそうか。じゃあどうする。教室の飾り付けでもするのか?」

「柊のときと同じような感じでいいんじゃないの?ただ問題は、瀧田が柳瀬にベッタリなことね」

「ベッタリ?」

「まさかの自覚ナシ?アンタたち朝から晩までずっと一緒にいるじゃない。夜も一緒に寝てるのか疑うレベルよ」

「馬鹿か。あのベッドに男ふたりも入らねえよ」

「そういう問題じゃねぇよ。てか入れば一緒に寝るのかよ」

「明日はアイツを撒けばいいんだな。ケーキの調達は前回同様お前に任せる。先生にも説明して今日中に教室の飾り付けをして教室には入れないようにしてもらおう」

「いい感じにまとめてるけどアンタ話逸らしてんのバレてるからね」

「……」

「おい無視すんな」

その後、先生に瀧田の誕生日パーティーをすることを告げ、教室の飾り付けと閉鎖まで行った。ケーキの調達は七森に頼んで準備も完璧だった。そしてその翌日、誕生日当日の出来事だ。


***


「柳瀬ー、おはよ。瀧田見た?」

「ん、七森、はよ。見てない」

「え、アンタも見てないの?」

その日、俺と七森は瀧田の姿を見ていなかった。朝起きたらすぐに俺の部屋にやってきて食堂まで引っ張る瀧田がいないのは珍しく、瀧田の部屋まで様子を見に行ったがそこはもぬけの殻。七森の話によると、食堂のおばさんたちも瀧田の姿は見ていないという。

「先生には聞いたのか?」

「そもそもアイツが見つからないのよ。ナベさんどこにいるか知らない?」

「眞部さんなら事務室だろ、あとで俺が聞いてみる」

「ん、頼んだ。こっちは柊探してくるから、なにか分かったらメールでも電話でも連絡しなさい」

「分かった」

朝食を摂り終えた俺は事務室に向かった。そこにいた眞部さんに話を聞いてみる。

「瀧田くんですか?私のところには連絡は来ていません。柊さんに連絡してみましょうか」

「あ、じゃあ、お願いします」

「かしこまりました。少々お待ちくださいね」

眞部さんは携帯電話を取り、先生に電話をかける。先生は案外早くその電話を取った。

「お疲れ様です、眞部です。あっ、いえ、現場のご連絡ではなく……あの、いえ、柊さん少し話を……」

眞部さんは携帯電話をスッと膝に下ろした。

「お力添えできず申し訳ございません……」

「あ、いえ、なんか、すみません……」

あの人には、あとでちゃんと言っておこう。


***


『とりあえず教室集合』

七森からそう電話があった。言われた通り、俺は教室に向かう。

「おーそーい」

「ああ悪い。で、なんでアンタまでいるんですか」

「ひどいなぁ、せっかくこの僕が凪沙の現状報告をしてあげようとしてたのに~」

教室に入ると、いつかの先生みたく教卓にドカッと座って足を組んでいる七森と、その横でスラッと立っている先生がいた。

「……知ってるんですか」

「うん、まぁね」

「とりあえず、無事かそうじゃないかだけは教えてください」

「ンヒヒッ、颯真ももうしっかりこっち側の人間だねぇ」

「で、どうなんですか」

「無事だよ、安心して。でも軽く左腕を怪我しちゃったみたい。特に業務に支障を来すレベルで怪我をしたわけではないから現場には行ってもらうかな」

「そうですか……今どこに」

「九州支部から連絡があって、今帰ってきてるらしい。あっちで治療は受けたって聞いたから、包帯ぐるぐる巻きにして帰ってくるんじゃない?」

「じゃ、あたしケーキ持ってくるわ」

七森は座っていた教卓から降りて教室を出ていった。じゃあ僕は凪沙の様子を見てこよ〜っ、とあとに続いて教室を出ようとする先生は一度引き留めた。

「えっ、颯真……もしかして僕のこと……!」

「アンタ、眞部さんの電話いい加減に取るのやめてくださいよ」

「えっ」


***


「凪沙〜!お誕生日おめでとう〜!」

『おめでとう』

「えっ、え〜!なにこれ!誕生日?!」

「なんだよお前、忘れてたとか言うんじゃねえだろうな」

「い、いや、忘れてたっていうか、それより柳瀬にケガなんかしてんじゃねぇって怒られると思ってさ」

「本当だよお前、怪我なんてして帰ってきやがって」

「アイテッ」

「はい凪沙、十七歳の抱負は?」

「抱負か〜、じゃあ、まずは大きな怪我なく一年を過ごす!あと、これだけやってくれた七森と柳瀬の誕生日を盛大に祝うよ!」

「おっ。あっはは!いいね〜じゃあ三人とも、ひとまず颯真の誕生日までは無事に生きておかないとね!」

「ひとまずってなによ、あたし百三十歳まで生きるって決めてんの」

「お前、瀧田と同じようなこと言ってんな」

「なによ」

「べつに」

「じゃあケーキでも食べよっか〜!」

「やった〜!これおばさんたちが作ってくれたの?」

「そうよ、あたしが頼んで作ってもらったの」

「ありがとう七森!」

「七森は頼んだだけだ」

「頼まなければここにケーキはないのよ?」

「はいはい、ケンカしないでいただきますするよ〜」


***


第十二話【 寿 】


***


あのあと、瀧田の腕は二日ほどで完治した。アイツはそのスピードが桁違いで早い。

「はい梛桜!十七歳の抱負は?」

ホールケーキを七森に渡し、先生が言った。そしていつも飾りのように置いてある指示棒をマイク代わりに七森の口元に寄越す。

「そうね〜。今年は女の子の友だちが作りたいわね、年齢はもちろん問わないわ」

「いいね〜、いい目標だ。今年はいちばん輝く年だからね、セブンティーン!」

「うるさいです」

「テンションキモい」

「ドンマイ先生」

「ちょっと!みんなヒドくない?!」

「それよりケーキ食べましょ。今回のケーキはだれがお願いしたの?」

「俺。飾り付けは瀧田と先生がやった」

「なるほどね〜、あとでおばさまたちにお礼言わなきゃ」

「俺にはねえのかよ」

「アンタは持ってきただけなんでしょー」

「……お前、瀧田の誕生日のときのあれ根に持ってんだろ」

「うるさいわね、バースデーガールに口出しすんじゃないわよ」

「はいはい、ケンカしないでいただきますするよ〜」


***


「あ"!!!」

全員でケーキを食べているとき、隣に座っていた瀧田が突然大声を出した。

「んだようるせえな……」

「い、いや、全然関係ないことなんだけどさ、そういえば柳瀬、四半痛来た……?」

「……」

個人的にいちばん触れられたくなかった事案に触れられ、なにも言えなくなる。お願いだからその件については放っておいてくれ。

「え?!ヤバくない?!予定日一ヶ月前じゃない?!ヤバいよ柳瀬、今度こそマジで死んじゃうよ!」

「縁起でもないこと言うんじゃねえ!それに、前回の四半痛も三週間遅れてきたんだ。今更だろ」

「そんなこと言って!前回めちゃめちゃ苦しんでたじゃん!」

「……」

「またそっぽ向いた!」

「たしかに一ヶ月の四半遅滞はちょっと異常だねぇ。颯真は生活習慣悪くないと思うし、ストレスが原因か……?それとも睡眠不足かな」

「俺はちゃんと寝てますよ。それに、ストレスが原因なら百パーセントの確率でアンタのせいだ」

「えっ、それヒドくない?」

先生まで入ってきたその会話に、七森は入る気がなさそうだ。携帯電話を鏡代わりに前髪を整えている。

「颯真的にはどう?そろそろ来そうだって感覚はある?」

「いえ、正直ありません。いつもなら四半痛の前は怪我が多くなったり腕に若干痺れを感じたりするんですけど、今回はまったく。最近は怪我も少ないですし、集中力も途切れることはないです」

「たしかに、最近の颯真はちゃんとトレーニングに励んでいるのにケガが少ないね。本人も予兆は感じないならもう少し先かな。早くて一週間後くらい?」

「先生どうにかならない?柳瀬の四半痛、どんどん遅れてきてるの。前々回は二週間、前回は三週間。今回はもうすでに一ヶ月以上遅れてるわけだし、これからどうなっちゃうの?」

「どうもこうも、三食しっかり食べて睡眠時間を確保して適度な運動をすれば、通常四半痛は遅れないものなんだよ。あとはその本人の体質。それと精神状態にも影響される。さっきも言ったように、ストレスなんかで遅くなることもあるんだ。ただ、呪人は常にストレスとともに生きている。それは一般人も眼人も同じだけど、それをゼロにしろなんて、正直ムリな話だよ」

「そんなぁ……」

「そんなに心配しなくても、三日我慢すれば元通りだ。なんとかなる」

「だーかーらー、柳瀬前回の四半遅滞でもあんなに苦しんでたじゃん。今回はそれよりひどいかもしれないんだよ?」

「それはいつものことだろ。来ないものに文句つけてもそう都合よくは来ねえよ」

「そうだけどさぁ……」

俺より俺の四半痛の時期を把握している瀧田は、俺の四半遅滞をいつも心配している。そんなお節介な瀧田は、先生や俺の言葉に不貞腐れながらまたケーキをひとくち食べた。その美味しさに少し笑顔が戻る。単純なやつだ。

俺自身、四半遅滞に不安を抱いていないわけではない。つまり正直にものを言うと心配ではあるのだ。前回の四半痛は相当なものだった。あそこまでフィジカル、メンタルともにやられるとは思ってもいなかった。三週間の四半遅滞であのザマだ。今回の四半痛がどこまでひどくなるか、そんなこと、考えたくもなかった。

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