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右腕の判子注射 ―呪われたヒト―  作者: 結川翔己
第一章

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第十五話 実力テスト

「お疲れ様です。柳瀬さんの実力テストの日程が決定いたしました。二日後の朝十時からです」

「お疲れ様です。ご連絡ありがとうございます」

「第一実習室でのテストになりますので、テスト開始五分前にはいらしてください」

「分かりました」


***


【 右腕の判子注射 ―呪われたヒト― 】


***


眞部さんから実力テストの日程が伝えられたのは週末のことだった。特訓禁止令発令から三日経つと、それまでの反動で特訓にのめり込んだ。久しぶりに体を動かすと自分の体力が少し落ちていることに改めて気付く。が、回数を重ねるにつれ、調子は戻っていった。

「柳瀬」

「ん」

「今日も特訓?」

「今日はジムだ。明日テストだから、最後に基礎を固める」

「柳瀬明日か、俺明後日」

「そうか。瞬くんも明後日らしい」

「諸伏くんも今回はこっちなんだね」

「ああ」

「この前北海道特設部に行ってたよね」

「それは結構前の話だ。一回ここに戻ってきたら九州支部に行った。その次は中国支部に行って、今は東北支部にいるらしい」

「ひぇ〜、引っ張りだこだね」

「ここまで働かせるなんて、上も酷だよな」

実力テストの前日。瀧田と話をする。話に出てきた瞬くんは、実力テストのためにその前日に帰ってくるという。

「俺、特訓行ってくる。柳瀬怪我するなよ〜」

「ジムで怪我してたまるか、お前も無理すんなよ」

「おうね!」

瀧田とはそこで別れ、俺はトレーニングジムに向かった。


***


第十五話【 実力テスト 】


***


「はいはーい、じゃ、実力テスト始めていくよ〜」

「はい、お願いします」

実力テストの時間は一時間。その半分は呪説などの体術を使ったテストを行い、半分は護身術などのように体術を一切使わない一般体術のテストを行う。

「まずは呪説からね〜、いちばん大きくしてみてよ」

「分かりました」

テストとなると先生もいつもの軽々しさはなくなる。本気モードに入った先生の目は正直あまり慣れない。

「散華」

呪説を唱え、火を起こす。テストに緊張しているせいだろうか、その火はいつもより小さく感じた。精一杯に力を込めて火を徐々に大きくする。よし、調子は悪くない。いい感じだ。

「できたら言って」

「……はい、できました」

「じゃあそれ、耐えれるだけ耐えてみよっか」

「はい」

大きくなった火を維持しながらずっと耐えることなんてできない。俺の現在の体力だとせいぜい持って五分だ。先生もそれはきっと分かっている。ただ、いつもとちがうこのテストという状況下でどれだけ耐えられるのかは俺にも分からない。緊張感から長続きすることも考えられるが、その緊張ゆえいつもより多く体力を使ってすぐに体力が底をつくことも考えられる。

「いいね、思ったよりも持ってるよ。まだ続けるかい?」

「はい、もう少し、まだ少しは大丈夫です」

先生は分かった、と返事をする代わりに静かになる。その静けさが先生からの返事だということはすぐに分かった。その返事に応えるように再度集中する。怖いくらいに調子が良い。まだ限界は感じない。

「ふぅ……終わります」

「はいはーい。良い感じだね、先週まですこぶる調子が悪かった人間とは思えないよ」

「いちいち余計なひとこと加えるのなんなんですかアンタ」

「んじゃ、少し休んだら一般体術やろっか!」

コイツ……。


***


「じゃ、今から十五分ね」

「はい」

今から始まる一般体術とは護身術などのように体術を一切使わないテストのこと。先生と一対一で戦うが、呪説などの自分の力は一切使ってはいけない。この十五分はいかに先生からの攻撃を躱し、先生に攻撃を決められるかが重要となってくる。

「じゃ、よーいスタート」

スタートの合図と同時に先生が貫手で突きをかましてくる。予想はしていたので素早く躱す。その反応に感心する先生。今のうちに攻撃を仕掛ける。五分もすれば少しずつ息が上がり、苦しくなってくる。残り十分、体力を調整しつつ、会心の一撃を与えたい。

「ほら颯真、気ぃ抜いてるとやられるよッ!」

「ぐッ……」

馬鹿か、やる前にやられてどうする。この人は本気だ。祟人を本気で殺すような目つきで今俺と対人している。一瞬でも気を抜けば、喉を突かれる。


***


「はぁ…はぁ……」

「うん、まぁここまでできればいいっしょ」

一般体術のテストも終わり、力尽きた俺はその場に寝転ぶ。乱れた息を整える俺とは対照的に余裕の表情で俺に近づく先生は、しゃがみ込んで言った。

「颯真おめでとう、ランクアップだ」

「……は?」

俺たちにはそれぞれランクがつけられている。ランクは下から、F、E、D、C、B、A-、A、A+、Sで分けられており、この実力テストで位置付けされたランクを基準に現場に配属される。現在のランクは、俺がC、瀧田はB、七森は俺と同じくC、先生はS、瞬くんはA+となっている。現在Cランクの俺がランクアップ、ということは。

「B……」

「そそ!」

「え、む、無理です!俺がBなんて」

「え〜?どうして?」

「瀧田でBなんですよ、俺が瀧田と同レベルに感じますか」

「残念ながらあの子はまだテストを受けていない。今回の実力テストで凪沙のランクがまた上がる可能性だってあるよ?」

「それでも、前回の実力テストと比較しても、あのときの瀧田は今の俺より何倍も強かったです」

「さぁ、それはどうかな。現に僕は今、きみはBランクの呪人であると感じた。颯真の実力も相当だよ」

「それはどうも。お世辞だとしても嬉しいです」

「颯真のそのネガティブ思考はどこから来たんだろうね、そろそろ立てる?次梛桜のテストなんだけど」

「アンタ、執拗いのかあっさりしてんのか分からないです」

「じゃ!颯真はこれからBランクの祟人の現場に飛んでもらうからね〜」

「は?だから俺はBじゃ」

「ほら、行ったいった〜。あっ、颯真は特訓より筋トレやら走り込みやらで筋肉と体力つけな〜。火属性は特訓よりそういったので実力が上がる人間がほとんどだからね〜」

「はあ?!それはもっと早くに言っておくべきでしょうが!」

先生に追い出されるように第一実習室を出る。第一実習室の外には七森がいて、俺たちの話を聞いていたのか、少しイライラしているように見えた。

「アンタ、Bになったんですって?」

「え、いや、俺の希望じゃ」

「問答無用!!」

「ぐあッ、馬鹿馬鹿馬鹿!死ぬって!おい馬鹿!」

七森の気が済むまで腕挫十字固という柔道の関節技をかけられる。理不尽にも程があるだろう。


***


「梛桜は今の時点ではまだCかな」

「マジかよ……」

「ただ、僕の提案する新しい技を習得できれば、次の実力テストでは一気にA-までランクアップはできると思うよ」

「新しい技?」

「そ。すぐにぶっ放すんじゃなく、少し溜めるんだ」

「……少し溜める」

「僕の物差しだと、それが習得できた段階でA-、安定して現場で使えるようになればAだね」

「やるわ、どうするの」

「とにかく耐えるんだ。梛桜は今、氷も水も雪もすぐに放つことで攻撃をしている。特に風属性の祟人相手だと、それだけでは倒しづらい。火属性は寒さに弱いから、雪を継続して降らすことを前提条件に考えてみて。氷と水、どちらも自分の中に力を溜め込み、それを一気に放つと膨大な力になるのは想像できるよね」

「えぇ」

「呪説は水神、来水。これには想像以上の筋力が必要となる。梛桜はまだ足りないね。もう少し筋肉をつけなさい。そんで、これを練習するときには絶対に大人をそばに置きなさい」

「そんなに危険なの?」

「あぁ。自分の中に力を溜め込むんだ。気分が悪くなって倒れる呪人なんてごまんといるよ」

実力テスト一日目。颯真はB、梛桜は以前同様Cにランクが落ち着いた。

「……ちょっと早く終わっちゃったな〜。このまま凪沙もやっちゃおっかな」


***


昼食時、凪沙に昼からテストができるか聞いてみれば、彼は元気に頷いた。瞬は朝に到着して今は寝ていると聞いた。今日中にテストを済ませたい場合は自分のタイミングで僕のところにくるよう眞部に伝えさせた。

そして凪沙のテスト終了後。

「凪沙も現状維持っと」

「びえ〜っ。先生俺にもランクアップの新技ない?」

「ん〜、ないこともない。が、その歳でそれに挑戦する呪人は、瞬を除くと初めてだ」

「ほんと?」

「他人に風の力を貸してみよう」

「……へっ?」

「凪沙はもともと才能があったからね。加えて体力も筋力も呪説の安定感もある。早いうちに習得しておけば、あとで颯真や梛桜に自分の力を貸して楽に戦わせることもできる。どうだい、やるかい?」

「やる!」

やる気を出す凪沙。その目はランクアップに眩んでいるわけではない。凪沙の人を助けたいという気持ちが背中を押していた。

「でも、他人に力を貸すって?俺、この前七森に力貸したことあるよ?」

「うん、凪沙の意思でね」

「俺の意思?」

「そう。僕が言ってるのは、凪沙の風を自由に操ることができるっていう能力を、そのまま他人に貸し出すってこと。凪沙の意思ではなく、貸し出した本人の意思で風を操ることができるようになる」

「な、なにそれすごい……!」

「まぁこれに関してはひとりで練習できるものではない。力を貸している間はそれに集中しつつ、ほかのことにも気を遣って欲しいから集中力がないといけないし、筋力も必要だ。後者はほぼ備わっているからいいとして、凪沙はまず集中力を高める練習をすること。それと、何度か人を使って実験してみなさい。颯真でも梛桜でも眞部でもいい。もちろん僕でもいい。体重が軽い人から実験に使うといいよ。まずは梛桜かな」

「分かった!呪説はあるの?」

「ないね、とにかくその力を貸し出す人間に注ぐこと。それで大抵はいけるよ」

「分かった」

「やりすぎ注意ね〜、気分悪くなっちゃうから」

「了解!」

その後、ほんの少し薄くなったクマを見せながらやって来た瞬のテストも無事終了。瞬のランクも現状維持だったことにより、今回の実力テストでは颯真のみがランクアップしたという結果になった。

あまりにひどいクマだったために、上に相談し、しばらく休むことになった瞬を除く三人は、実力テストでの助言をもとにジムでのトレーニングやら特訓やらに打ち込んでいた。そして実力テストの二日後。

「先生お誕生日!」

「『おめでとう!』ございます」

僕は人生初のサプライズを受けた。

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