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右腕の判子注射 ―呪われたヒト―  作者: 結川翔己
第一章

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第一話 呪人

乳幼児期に打ったであろうハンコ注射。通常左腕に打つそれは、大人になっても打った場所に跡が残っているだろう。しかし、そうでない人もいるのをご存知だろうか。あなたに打たれたハンコ注射、そこに跡はありますか?


***


【 右腕の判子注射 ―呪われたヒト― 】


***


「柳瀬〜!」

朝から頭に響くその大きな声が廊下にこだました。

「瀧田……」

この元気に走ってくる子犬のようなコイツは瀧田凪沙という。そして俺は柳瀬だ。

「おーっす瀧田、柳瀬も。相変わらず瀧田は朝から元気よね」

廊下の奥から気だるそうに歩いてきたアイツは、同学年唯一の女子である七森梛桜だ。

俺たち三人、というか、ここに住んでいる人間は一部を除いて呪人と呼ばれている。別名、右腕の判子注射、呪われたヒト。呪人は、左腕に打たれたハンコ注射が右腕に移っている人間のことをいう。呪人は呪人専用に作られた施設で育てられる。俺たちの体にはエイプルという毒のようなものが住み着いているらしい。感染病ではないため、特別隔離する必要はないが、こうやって一ヶ所に集めておくのが上の人間としては楽なのだろう。

エイプルは通常、一歳から六歳までに発症する。発症する際は体の痛みが一週間以上続き、特に腕には強い痺れを感じる。そうやって左腕に打ったハンコ注射が右腕に移っていたら発症の印だ。このエイプルは、遺伝率が非常に低い。遺伝的ではないのがほとんどだ。俺だって両親は共に呪人ではなかった。俺や瀧田のように、両親のどちらも呪人ではない場合でも、その子供は0.001%の確率で呪人になる。一方、両親のどちらかが呪人の場合、子供は0.01%の確率で呪人に。七森のように両親のどちらも呪人の場合、子供は0.05%の確率で呪人になる。現在日本には、約千人の呪人がいるという。日本人口で比較すると、約0.00001%しか存在しないのだ。

「やぁやぁグッドモーニング、みんなおはよう。今日も朝から仲が良いね」

食堂に着くと、先にご飯を食べていたのは柊葵。この人は俺の叔父であり、関東本部の関係者でもある。この人ももちろん呪人だ。

「先生は今日も健康的な朝ごはんだね」

「まぁね〜、僕らは体が資本だからさ。きみたちもしっかり筋肉つけなさいよ〜」

「はーいっ」

「瀧田、取りに行くぞ」

「おー。じゃあね先生」

「はいはーい」

ご飯は三食付き。もちろん必ずではない。食べるか食べないかは自分で決めてもいい。が、先ほど先生が言っていたように俺たちは体が資本。食べない理由はない。

「先生今日もクマやばかったね」

「知ってて話しかけたのかよ」

「うんまぁ」

「……髭も剃れないくらい時間がないんだろ。夜に寝る時間が確保されてる俺たちとはちがうんだよ」

「寝れないくらい忙しいなら支部に応援要請すればいいじゃない」

「支部も人が足りてないんだよ、知ってるだろ」

俺たちが過ごしているこの施設は、関東本部と呼ばれている。その名の通り関東地方に置かれている本部で、場所は東京だ。支部は各地方に一ヶ所ずつ、南から、九州支部、四国支部、中国支部、近畿支部、中部支部、東北支部がある。特に九州支部と東北支部は人が足りないらしい。まぁ、範囲が広いから仕方がない。特別人が足りない場合は各支部から全所へ応援要請が来る。昼間であれば俺たちも駆けつけることがあるが、夜間は二十歳未満の出張が禁止されている。つまり、夜間に来た応援要請は、出張可能である二十歳以上の大人が出向かなければならない。人がとにかく足りないのだ。

『いただきます』

「柳瀬相変わらず少ねえね」

「瀧田のが多すぎるんだろ」

「でもアンタガリガリじゃない」

「七森に言われたくない」

「あたしのは全部胸に行ってんのよ」

「言ってろ」

「あぁ?!」

「ヤンキーかよ……」

「あ!生姜焼きの追加きた!取ってくる!」

施設で暮らす上で特に不自由したことはない。施設内は自由に移動できるし、時間制限もない。授業に遅刻しなければ、ギリギリまで寝ていてもいいし、ギリギリまで部屋着でも構わないのだ。

「んなぁ柳瀬、あとで部屋行ってもいい?」

「ん」

「アンタたちほんと仲良いわよね」

「なんつーかねぇ、ひとりより柳瀬といるほうが気が楽なんだよなぁ」

「ガキん頃から一緒にいたんだし、そのせいだろ」

冒頭にもあったように、エイプルは生まれつきのものではない。発症は一歳から六歳まで。発症してからは施設で過ごすことになっている。俺は六歳の頃にこの施設に入ったが、瀧田は二歳で発症し、それからずっとここにいる。

「七森は何歳のときだっけ?」

「五歳ね。まぁ、両親は落ち着いていたらしいわ」

「両親かぁ」

瀧田は両親の顔を覚えていない。正直、この施設にはそういった人間が多い。俺や七森のように物心ついてから施設に入った人間は少なく、幼い頃に発症している人間がほとんどのため、両親の顔を知っている呪人はごくわずかしかいない。

「両親ってか、たしか柳瀬と先生っていとこなんだっけ」

「従兄弟じゃねえ。先生はただの叔父だ」

「ただのってなによ〜ひどいなぁ颯真」

「げっ」

三人で朝食を取っているところにやってきたのはもちろん、先生であり俺の叔父でもある柊葵だ。食べ終わったのか、トレーの中には空の食器がある。

「食べ終わったんなら少しでもいいから寝てきてくださいよ、どうせ昨日も寝てないんでしょう」

「うんまぁ、でもみんなの顔見たら元気出ちゃった」

「嘘をつくな、クマひどいし、目や声にまで光がない」

「あっ、気付いちゃった〜?さすが颯真。僕のことちゃんと見てるねぇ」

「いいからさっさと寝ろ」

「んもぉ、ちびっ子だったときのあの可愛い颯真はどこへ行ったのやら。じゃあねみんな、また授業でね」

「うん、おやすみ先生」

授業が始まるのは九時ごろ。現在の時刻は七時だから、今からギリギリまで寝たら約二時間の睡眠時間を確保できる。たった二時間だが、寝ないよりはマシだろう。

「柳瀬って口は悪いけど根は優しいよな〜」

「んなんじゃねえよ」

「またまたそんなこと言って〜、照れたら口元隠すの変わらないよな〜ッブ!」

とりあえず瀧田には肘打ちをかましておいた。


***


第一話【 呪人 】


***


「やぁやぁグッドモーニング、今日もいい日だねぇ」

そしてその二時間後、教室に現れた先生の顔は、朝より随分マシに見えた。

「先生ちゃんと寝たんだね、クマがマシになってる〜」

瀧田にそう言われた先生は、フッと笑顔を見せた。いつもの先生だ。

「じゃ、前回は凪沙について勉強したから、今日は颯真の勉強をしようね〜」

「言い方」

「それ誤解招かない?」

「この変態教師」

「え〜ひどい言われよう。も〜みんな素直じゃないなぁ」

先生はああ言っているが、つまりこれは属性の話だ。俺たち呪人はそれぞれ属性を持っている。主な属性は火、水、風の三属性だ。俺たち三人は偶然にも全員がちがう属性を持っている。俺が火で、七森が水、そして瀧田が風だ。

「颯真が持っている火属性は、その名の通り火や炎を自由に操れる力のことだね。三属性の中だと二番目に多いけど、実はいちばん扱いづらい。まぁ、風属性と力を合わせればかなり強いけどね。火属性というだけあって火に強くて水に弱い。けど寒がりが多い傾向があるよ」

「たしかに、柳瀬って極度の冷え性だし、夏でも長袖よね」

「そういう七森は水属性なのに暑がりじゃねえか」

「言わないでよね、案外コンプレックスなんだから」

「ああ……わりい」

「うん、颯真の言う通り水属性の呪人は火属性の呪人とは真逆で暑がりな者が多いね」

「先生、なんでそうなの?」

「属性がそれだからだよ。火属性の呪人が暑いの苦手だと困るでしょ?同じように水属性の呪人が寒いの苦手だと困っちゃうの。それぞれの属性に合った体になってるんだよね」

「不便なんだよな、この体質」

「んで、そんな火属性の呪人が使える体術がこちら!」

突然こちらに視線を集めた先生。披露しろということなのだろう。正直、実際の現場や特訓でないのなら、少しの披露であれど体力を消費するのには変わりないのであまり使いたくはないのだが仕方ない。

「散華」

呪説を口にして、小さな火を出す。これだけでは戦力にはならないためこの火を大きくしなければならない。火が小さいうちは消えやすいので集中する必要がある。火を大きくするには、ただひたすらに力を入れ続ければいい。たったそれだけだ。

「お〜、成長したねぇ。前はもっと時間がかかってたのに」

現在でも大きな炎にするには三分ほど時間がかかる。これでも早くなったほうだ。

「うん、じゃあいいよ〜ありがとね」

俺の頭を撫でた先生のその言葉にやっと力を抜く。力を入れるだけなのに、疲労困憊だ。

「じゃ、次は祟人の話に移るからね。颯真、気分悪くなったら医務室行きなね」

「はい……」

先生が次に話し始めた祟人というのは、俺たち呪人もなりうるものだ。

「知ってる通り、簡単にいえば祟人は呪人が凶暴化したもの。右腕に黒いあざが広がるのが特徴的だね」

祟人は、呪人の体の中に住み着いているエイプルが文字通り凶暴化した最終形態だ。つまり、今ここにいる四人全員が今すぐに祟人になる可能性もなくはないということ。呪人と祟人とは紙一重の関係だ。初期段階では呪人と眼人と呼ばれる人間でないと確認ができないが、それが悪化すると一般人にも見えるようになる。そしてそうなれば、一般人に危害を加える可能性が高くなる。初期段階では注射による特効薬の投与で治る可能性が高いが、放っておくといずれ人を殺すほどの危険性がある。そして、一定のレベルまで危険度が上がった場合、その祟人を弱体化させたうえで専用の小型ナイフを使う至近距離での対処が必要となる。殺し方についてはほかにも方法はあるがその殺し方が一番ポピュラーだ。

「火属性の呪人が祟人になった場合、周りを火の海にする可能性がいちばん高い。さらに力の強い呪人だと放射能を放出する可能性もあるらしい。今のところ、そこまで力の強かった呪人が祟人になったことはないけど、レベルによってはかなり注意が必要だね」

「先生、この前の風属性の授業で、三属性の呪人が祟人になった場合、いちばん厄介なのは風属性だって言ってたけど、放射能放出の可能性がある火属性の祟人と比べたらどっちのほうが厄介になる?」

「んーまぁ、それで比べるんだったら断然火属性の祟人だね。僕たちは病気にはかからないけど、放射線まで遮断できるっていうデータはないから一応防護服を身につけないといけないかもだし。それに僕たちも被爆する可能性があるんだったら長時間戦闘はできないしね」

「そっかぁ」

ああ本当に、厄介な体だ。

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