表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

2話 見崎渚と美少女たち、噂に包まれる(2)

 いろいろとドタバタはあったが、なんとか出発の準備は整った。


 海夏が朝ごはんを食べ終わったところで、ようやく俺たちは家を出ることに。


 ったく、グズグズしてるからこんなに時間ギリギリなんだよ。これ以上もたついたら、本当に遅刻確定じゃねぇか!


「忘れ物とかないか?本当に大丈夫か?」

「だいじょーぶ!全部完璧!」


 胸をドーンと張ってそう宣言する海夏を見て、俺もようやく一息ついた。


 俺は自転車を引っ張り出して、後ろの荷台にクッションを敷いてやる。


「ほら、乗れ」

「はーい!」


 準備オーライ。出発だ。


 俺はペダルを一気に踏み込む。海夏は後ろから俺の腰にしっかりしがみつく。


 本当は自転車で二人乗りは違反なんだけど、家には一台しかないし、今さらそんなこと言ってられない。


 もちろん俺には、お巡りさんを華麗に避ける熟練スキルが備わっている。伊達に毎朝これやってない。


「それじゃ、レッツゴー!」

「また不運が降りかかって事故らないようにね~?」

「……人がこれから頑張って送ってやるって時に、呪いをかけるな」

「だってこの前、車にぶつかって頭割ったばっかじゃん?これは心配と愛情からくる忠告なの!お兄ちゃんの最愛の妹・海夏からのね!」


 そう言って、海夏はさらにぎゅうっと俺の腰に腕を回し、ほっぺを俺の背中にすりすりしてくる。


 くっそ……こんなの、照れるに決まってるだろ。


 ちなみに先週俺が不良と殴り合いして怪我した件は、「道で車とぶつかって転んだだけ」ということで海夏には説明済み。


 本当はその日、自転車なんか乗ってなかったけど、海夏は俺より先に家を出たし、自転車はいつも裏庭に置きっぱなしだから、確認しない限り嘘はバレない。


「はいはい、わかってますって」

「てへ~じゃあ急いでね!遅刻しちゃうよ!」

「遅刻しそうなの、お前がもたもたしてたせいだろうが」


 俺は一度深く息を吸ってから、踏み込む足にさらに力を入れた。


 もちろん安全なのは一番。限界までスピード出してるように見えて、実際はまだ余裕ある。だが、こっちは命かけてんだぞ。


「わーい!風きもちい~!お兄ちゃんはどう?」

「お前だけな!俺はつらい!」


 本来なら涼しい朝の風が気持ちいいはずなんだが、俺は汗だくだ。


 少しでも早く送るためにペダルを全力で漕いでるせいで、脚はパンパン。呼吸も荒れまくり。


 ……これのどこが「気持ちいいサイクリング」だよ。


 とはいえ、こっちもさっさと学校行かなきゃいけないわけで。


 そんなこんなで……


「はーい、着いた!じゃ、降りるね!」


 猛スピードでなんとか登校時間ギリギリ、授業開始の十分前に学校へ到着。


 海夏は子どもみたいにピョンっと飛び降り、そのまま校門を駆け抜け……


 と思ったら、いきなり振り返って叫んだ。


「Brother!道中お気をつけて!」

「はいはい、いいから早く入れっての……」


 まったく、最後の最後までよくわからんやつだ。


 俺は大きくため息を吐き出し、ポケットからスマホを取り出して時間を確認する。


 ……よし、まだ余裕はある。こっちはゆっくり行くか。


 そう思った矢先……ピコンッ。


 スマホが鳴った。画面を見ると、送信主は当然ながら、海夏だ。


『Brother!今日の夜ごはんいらないよ!週末が誕生日でしょ?友だちが週末忙しいから、今日の夜に誕生日パーティーしてくれるって』


 ……ああ、そういや今週末が海夏の誕生日だったな。


 プレゼント、何も用意してないなぁ。


「はいはい、早めに帰れよ」


 そう返信を送ってから、俺は再び自転車にまたがった。授業開始まで少し時間がある。


 なら今のうちに、海夏の誕生日プレゼントを買いに行くしかない。


 海夏はスカートが好きだ。だから近くの服屋で、白いワンピースを一着購入。


 サイズは……まあ、多分合うだろ。合わなかったらまた買えばいい。俺は優しい兄だからな。


 さあ、あとはゆっくり学校へ……と、思ってた俺がバカだった。


「はぁ!?さっきまで晴れてたよな!?なんで急に雨!?」


 空が急に暗くなったと思ったら、次の瞬間にはゲリラ豪雨。全力でペダル踏んでも、結局びしょ濡れになる運命は変えられなかった。


「うあぁ……びしょ濡れになったぞこれ……」


 髪までべっちゃべちゃ。制服もぐしょぐしょ。唯一救いだったのは….


「ワンピースは……無事!袋!グッジョブ!」


 プレゼントだけは奇跡的に無傷。そこだけは神に感謝しておく。


 下駄箱で上履きに履き替えながら、俺はずぶ濡れの上着を脱ぎつつトイレへ直行した。


 シンクで上着をぎゅうぅぅっと絞りながら、思わず独り言が漏れる。


「なんか最近……マジでツイてないな……」


 絞ったはずの水がまだ滴り落ちる。ぬちゃぬちゃする靴下が気持ち悪い。最悪だ。


 そして教室に向かう途中。


「……ん?んん?」


 なぜか、廊下を歩く生徒たちの視線が、俺に刺さりまくっている気がする。


 いやいやいや、見んなよ。見るなよ。ほんとやめて……


 そう祈りながら、俺はびしょ濡れのまま教室へ歩き続けた。


「見崎くん!」


 教室の前まで来たところで、不意に男子に呼び止められた。


 こいつは……確か同じクラスの上野、だったか? 一度も話したことはないが、顔だけは覚えている。


「お、おう、上野か」

「どうしたんだその状態!?傘持ってなかったの?」

「持ってないよ……まさか急に降るとは思わねえだろ」


 さっきまで晴れてたのに、数分でゲリラ豪雨。誰が予測できるかっての。


「そっか、運が悪かったなぁ」

「で、何の用だ?」

「ああそうだ、聞いたんだけどさ、うちのクラスの恒川さんと、E組の中野さんと里浜さん……なんか君と仲良いんだって?」

「え?」


 やばい。絶対アレだ、こないだ医務室に担ぎ込まれたときのやつだ。誰かに見られて広まったなこれ。


「今じゃ校内中に噂広がってるぞ。三人と手ぇ繋いで歩いてたとかさ」

「おい待て誰だよそんな脚色したやつ!?俺は負傷してただけだ!手、引っ張られてただけだ!!」


 なんで手をつないでイチャついてたみたいな話になってんだよ!?


「でも、見たって証言が……」


「証言とかいいから!とにかく誤解だ!俺とあいつらは別に仲良くないし、知り合いってほどでもない!」


 ほぼ怒鳴り気味にそう言い捨てて、俺は上野を無視して教室のドアを開けた。


 誰だ……誰がこんなクソみたいな噂流した。


 教室に入った瞬間、さらに衝撃的な光景が俺を待っていた。


 恒川まで男どもに囲まれていた。


 やっぱりかよ。どう見ても原因は例の噂だ。


 ところがその恒川の対応が、まさかの「完璧」だった。


「で?それ聞いてどうするの?」


 男子たちが「お前、見崎と付き合ってるの?」とか「電車で一緒だったってマジ?」と質問攻めにする中、恒川は全部その一言で返していた。


 肯定もしない、否定もしない。ただ、「なんでそれ聞くの?」と逆に質問して黙らせるスタイル。


 ……すげぇ。マジで模範解答じゃん。


 とはいえ、俺たちが一緒に歩いてたのは事実。たとえ当事者がどれだけ否定しても、周りは勝手に盛り上がる。


 はぁ……やっぱ面倒くせぇ。こういうのマジで無理。


 全部無視する!無視一択だ!誰にも何も言わない!訊かれたら上野に言ったのと同じ返しでいい!


 いや、無理だろ!こちとら噂が収まらない限りずっと落ち着かないんだよ!


 こんな注目浴びるとか地獄以外の何物でもねぇわ!


 だからこそ俺はこの学校に転校してきたんだ。できるだけ目立たず、空気のように過ごすために、余計なことは一切喋らないって決めてたのに……


 でも……あの日、あいつらが俺の怪我を心配してくれたのは事実で。だからこうなったからって、恒川も中野も里浜も責める気は一切ない。


 悪いのは、事実を勝手に捻じ曲げて広めてる連中だ。


 むしろ「俺が三人同時に付き合ってる」とか言ってるやつ、正気か?どんな脳みそしてたらそんな発想になるんだよ。


 この世は歪みすぎてる!全部ゼロになれ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ