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3話 そして、カフェのリニューアル計画が始まる(1)

「ようやく終わった!」


 放課後、俺は佐々木先生に呼び出されて、職員室で先生の机の上を片づけさせられていた。


 あの山のように積み上げられた書類の数々……見ただけで頭が痛くなるレベルだったが、どうにかこうにか処理を終えて、先生からも「助かったわ」と一言もらえた。


 で、そのまま帰るかと思いきや、俺の足は自然と教室を離れて、あの例の場所、つまり部室へ向かっていた。


 ……そう、例の「文芸部」だ。


 あの噂が校内中に広まってからというもの、もともと「空気みたいな存在」で通してきた俺も、今ではすっかり有名人扱い。


 廊下を歩けば、やたら視線を感じるし、陰でコソコソ話されるし……もう最悪だ。


 もちろん、同じく被害者の中野桜花、恒川紅葉、里浜彩奈の三人も注目を浴びている。


 けど、あいつらの場合はちょっと違う。もともと学校一の美少女として人気抜群だったし、周囲も驚きの反応止まりだ。


 一方、俺は……と言えば、転校してきてまだ一ヶ月、名前すらまともに覚えられてない「無名の新入り」。


 そんなやつが突然、美少女三人とつるむようになったら、そりゃ男子の視線が痛いわけで……


 敵意、嫉妬、そして好奇心。


 まるで見世物にでもなった気分だった。


 でも、そんな最悪の状況も、長くは続かなかった。


 救いの手を差し伸べてくれたのは、俺たちの担任、佐々木先生だ。


 先生は「文芸部」という設定を使って、「この子たちは同じ部活の仲間だ」という情報を学校中に流してくれた。


 おかげで、噂は少しずつ沈静化。


 今では廊下でヒソヒソ話をされることも、ほとんどなくなった。


 ……まあ、その代わりに、放課後は毎日部活に顔を出さなきゃいけなくなったけどな。


 活動内容はと言えば、ただ本を読んでるだけ。


 運動もなければ、会議もなし。つまり、「部活」って名ばかりの静かな時間ってわけだ。


 あ、ちなみに俺、一応勉強はそこそこできるよ!


 授業は真面目に受けてたし、テストもまあまあの成績。


 苦手なのは国語と英語くらいで、理数系は得意な方だ。前の学校だと常に学年三十位以内。トップじゃないけど、悪くもない。


 だからまあ、妹に勉強教えるくらいは余裕なんだよな。


 話を戻そう。


 毎日部室に来た俺ができることと言えば、本を読むくらいだ。


 マンガでも小説でも、あるいは物理学や生物学の教科書でも、とにかく手元に一冊あれば時間は潰せる。


 部室での俺の活動内容なんて、要するに「読書」という名の暇つぶしだ。


 一方、他の三人、つまり中野たち三人はというと、中野は毎日スマホいじりに夢中、恒川は俺と同じく本を読んでいる。


 ただし、彼女の読んでるのは純文学っぽいやつで、俺には内容がさっぱりわからん。


 そして、最大の問題児が、里浜だ。


 あの子、まるで落ち着きがない。


 毎日部室で空手を練習してて、ずっと「ハッ!」とか「セイッ!」とか叫んでいる。


 注意しても聞かない……


 しかも、あの子、俺のことをナギっちって呼ぶのをやめない。最初にそう呼ばれた時点で全力でツッコんだのに、「だって可愛いじゃん」とか言ってニコニコしてやがる。


 ……もう好きに呼べばいいよ。


 そんなわけで、俺たちの「文芸部(仮)」は今日もゆる~く活動中。


 みんなそれぞれ勝手に好きなことをやって、たまに雑談して、以上。


 もはや「部活」というより「居間」だ。


 ちなみにこの部は、文芸部の支部ってことになってるけど、実際は噂を沈めるために佐々木先生と文学部長がでっち上げた臨時部活。


 要するに、形だけの部だ。解散は時間の問題。ただ、いつ解散するかは佐々木先生次第ってわけ。


 だから俺は、今日も仕方なく部室に足を運ぶ。


「よっす」


 ドアを静かに開けた、その瞬間。


 バサッ。


 視界に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。


 え、なにこれ。え、ちょ……うそだろ!?


 部室の中には上半身にブラジャーだけの女子が二人!?


「え?お、俺、教室間違えた……?」


 まさかの光景に、俺の思考は一瞬でフリーズした。


「きゃああああっ!へ、変態っ!」

「み、見崎くん!?は、早く出てって!」


 耳をつんざく悲鳴。


 ようやくその声で我に返った俺は、目の前の光景に凍りついた。


 ……って、ちょっと待て。今ここにいるの、中野と恒川じゃねぇか!?


 なんで二人とも、そんな格好……っ!?


「死ねぇ変態っ!!」

「えっ?」


 ドゴッ!!


 次の瞬間、俺の鼻に直撃する衝撃。


 世界がぐるりと回って、目の前が真っ暗になった。


「いってぇぇぇぇぇ!!」


 鼻から伝わる激痛に、思わず地面を転げ回る俺。


 な、なんなんだよ、いきなり!?


「見崎くん!?だ、大丈夫!?」


 中野が慌てて駆け寄り、俺を抱き起こす。


「アハハハ~ごめんごめん、ナギっち!まさか君だとは思わなかったんだ〜女の子の着替えを覗く変態かと思ってさ~」

「お前かぁぁぁっ!!」


 ……まぁ、そうだよな。


 この一撃の破壊力、うちの中でそんなことできるのは里浜以外にいない。


「いや~本当に悪かったって~つい、反射で手が出ちゃってさ☆」

「いやいや、☆つけて言うセリフじゃないだろそれ!」


 まるで悪びれる様子もなく笑う里浜。


 絶対こいつ、微塵も反省してねぇ!


「ま、まあまあ、彩奈もわざとじゃないし、許してあげてよ」


 恒川が慌ててなだめに入る。


「それよりさ、なんでこんなとこで着替えてんの?」

「えっとね……さっき紅葉ちゃんとトイレ行ったら水道がぶっ壊れてて、水がドバーッて出てきて、服がびしょ濡れになっちゃったの。だから見崎くんが来る前に着替えようと思ってたんだけど……」

「で、ちょうどそのタイミングで俺が来たと」


 ああ、もう最悪だ。


 よりによってそんなときに来る俺も悪運強すぎだろ……


 いや待て、それ以前に……


 お前ら!普通こんなとこで着替えるか!?


 俺が来るってわかってたくせに、「まだ来てないし大丈夫~」とか思ってたんだろ!?


 どう考えても悪いのそっちだよな!?この件に関しては俺、完全に被害者だよな!


「ご、ごめんねぇ、見崎くん」


 中野が気まずそうに笑いながら謝ってくる。


 ……いや、実際に殴られたのは事実なんだけどな。もうどうしようもない。


「……はぁ、ツイてない。まあ、いいや」


 俺はため息をひとつついて、肩をすくめた。


 本当に、今日は運が悪い。


 仕方なくカバンから一冊の本を取り出し、いつものように席に腰を下ろしてページをめくる。


 中野はスマホをいじり始め、恒川は静かに本を開き、里浜は、相変わらず落ち着きなくストレッチを始めている。


 騒がしかった部室も、しばらくしていつもの静けさを取り戻した。

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