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第6部 開戦。

 この部では、いつもの視点である<ブルーリーフ>から離れて、別の視点からの戦争を見てみたいと思う。

 偉大洋を挟んだ大国同士の戦い。その開戦劈頭の様子を取材した部分である。



★カークウォール空襲のこと。


 私は約束通りの時間に、約束した場所の扉をノックした。

 これから会う相手は、とある事情から本名どころか戦争中の所属も伏せるという条件で取材を許可してくれた人物だ。よって取材した場所なども曖昧にしなければならない。ただ、あまりにも漠然とした話になってしまうので「戦時中は飛行兵だった」ということだけは記すことを許可してもらった。

 私が取材した相手は、かつてモイラ帝国にて飛行兵をされていた人物である。

 以上の理由によって本名ももちろん表すわけにはいかないので、仮名としてイワン飛行兵とさせていただくことを読者諸兄に了解していただきたい。

「まず、あなたの事を話してください。もちろん、出来る範囲で」

「いいでしょう」

(筆者注:本来ならばモイラ帝国人らしい訛った言葉であったが、ここでは標準的な言葉に置き換えさせてもらう)

「モイラ帝国は、前の戦争(中原戦争)の時に国内で共産革命が起きて、ほうほうのていで皇帝は帝都イティルを脱出して、極東のマーチャーシューグラードまで逃げてきました。マーチャーシュー辺境伯が貿易に成功して、あの極東の街を大きくしていたのです」

 現在、モイラ帝国の首都はマーチャーシューグラードということになっているが、あくまでも借りの(みやこ)で、首都は共産政権が首都としているイティルから変わっていないという立場である。

「私の家族は戦争の前から商都として栄えていたマーチャーシューグラードに家を持ち、ささやかながら商いを営んでいました。それで逃げて来たパービエル皇帝(筆者注:モイラ帝国の言葉で「ポール皇帝」)が奠都(てんと)という形で居座ることになったわけですが、(皇帝と一緒に)後から来た連中と、元から居た住民と、イザコザとなりました。しかし共通の敵である革命軍が居たので、結局は一丸となって内戦で勝利を掴むことができたわけです」

 イワン飛行兵は内戦で勝利と表現したが、結果的に帝国西側はチェルナラボンチャ連邦として共産主義者主導による史上初の共産国家が成立する事となった。我々からすれば、良くて引き分けであろう。ちなみにマーチャーシューグラードはモイラ帝国の言葉で「聖マシュー・バーグ」という事になるが、意訳すれば「この地を開拓した初代辺境伯の地」という意味となる。

「で小学校、中学校と上がる頃には軍国主義で国内は固まっていまして、私も大きくなったら兵隊になると思っていました。飛行兵を選んだのは空を飛びたかったからです。単純な話でしょう」

 当時のモイラ帝国には空軍が存在せず、陸軍と海軍それぞれで航空隊を所持していた。

「海軍を選択した理由は?」

「街頭広告に騙されてですよ。ほら外国へタダで行けるという奴です。王国でも似たような広告を見た時は、つい笑ってしまいました。どこの国でも同じなのですね」

「飛行兵になるまでの話も興味ありますが、今日は我慢しましょう。まず私が訊きたい話題から取材させていただきます」

「どうぞ」

「最初にカークウォール軍港を空襲するという作戦を聞いた時はどう思いましたか?」

「またとんでもないことを言い出したな、というのが最初の感想です。王国の人は、我々が精緻な計画を何年も前から練っていたと誤解されているようです。しかし、あの作戦を現場の人間が聞かされたのは10月29日のことでしたよ。北方洋艦隊司令の(イゴール・)クリモバ提督が、壁に貼ってあった偉大洋の海図を見て思いついたとか。それで幕僚たちが色々と調べてみたら『こいつはできそうだ』となったようです。現場の航空隊では10月になって泊地を襲撃する想定の演習ばかりになって首を捻っていました。なんでこんな演習を繰り返すのだろうと。そうしたら『じつは…』と編隊長に明かされたのが最初です」

 モイラ帝国海軍のイゴール・クリモバ大元帥は、当時は海軍大将で北方洋艦隊司令の地位にいた。モイラ帝国は北氷洋、偉大洋、バトル海、ポントス海、ハザール海に面しており、それぞれに艦隊を持っていた。しかし大陸西側から皇帝が追われた結果、偉大洋のみが彼らに残された海洋となった。だが帝国としては失った大陸西側も自国領という立場を崩しておらず、海軍は各艦隊司令部を組織する事は続けていた。

(筆者注:同じような事は陸軍でも行われていた。また城塞伯爵の称号は、かつての帝都イティルを防備する名家に与えられた名であり、領地は失っていたが貴族位に残されていた)

 北氷洋はモイラ海軍では伝統的に重要視されている海で、北氷洋艦隊は5個艦隊の中で最も序列が上とされていた。

 海を失ってからは5個艦隊の上部組織であるモイラ帝国艦隊総司令部において、北氷洋艦隊司令部は戦略的な作戦を扱う集団となっていた。

「その後、海軍内部でも大反対だったらしいですが『貴様がやるなら』ということでクリモバ大将(当時)が総司令官に就任して、カークウォール軍港奇襲計画が動き出しました」

「演習内容を具体的に話せますか?」

「もう古い話ですから。(帝国北方にある)クリール諸島のイトウルップ(島)で空母機動部隊を編成しましてね。湾に停泊している味方の戦艦や空母に向かって雷爆撃の演習を繰り返すわけです。地形や気候がカークウォール(軍港)に近いからです。泊地内への攻撃ですから、魚雷は使えません。3人乗りの<97番軍用機>は水平爆撃での攻撃を練習しました。その頃、私が乗っていたのは<99番軍用機>で、これは急降下爆撃機でした」

 その2つの艦上機は後継機が登場しても、その使いやすさから各戦線で終戦まで活躍する機体であった。<97番軍用機>は3座の雷撃機であり、機動部隊の目として前路哨戒や敵との触接をも担った。もう一方の<99番軍用機>は複座の急降下爆撃機であった。

 王国軍務省情報部では数字だけの分類では識別が難しいという事で<97番軍用機>を<バーク>、<99番軍用機>を<ビーグル>と識別名をつけていた。

「2機種とも新鋭機でした。それまでは複葉機だったのが単葉機になって100キロは(筆者注:キロメートル毎時のこと。モイラ帝国人はこういう省略をよく用いる:約54ノット)速くなりました。ただ。まだ脚は出しっぱなしの固定脚でした。でもそのおかげで少々乱暴に着艦しても壊れることはありませんでした」

 モイラ帝国では軍需省が航空機の開発生産を担当していた。そこで造られた飛行機を陸海軍双方へ支給するという形を取っていた。このやり方は部品の共通化などに貢献した。モイラ帝国が国力の割に兵器生産数が高めだったのはそういう工夫がされていたからである。

「泊地攻撃に魚雷が使えないのは、水深が浅いからです。雷撃機から航空魚雷を投下すると、その勢いでグッと一回深く潜ってから、巡航深度に浮かび上がって進むわけです。その投下直後の勢いが消せないと、浅い海域では海底に魚雷が突き刺さってしまって、無駄になるのです」

「今ではミサイルがありますからね」

「ミサイルには水深は関係ありませんね。それで爆撃だけでやろうということになりました。しかし戦艦を爆撃だけで攻撃しても、有効打が出せるか不安がありました。もちろん戦前に航空爆弾の徹甲弾を試しに投下して、どれほどの威力があるのかは調べてありました。水平爆撃で高度3000メートル(我が王国の単位で約15ハロ1チェン。以下同じ)から投下して150ミリ(ミリメートル:約6ネイル)の装甲板を貫通する能力があることが分かっていましたが、実戦での命中率は未知数です」

 ちなみに王国海軍航空隊の水平爆撃の命中率は3パーセントである。

「魚雷ならば確実に敵艦の水線下に穴を開けることができますから、1発でも当てれば大破以上が確実なわけです。そこで雷撃機部隊は『やっぱり魚雷が使いたい』ということになりました。その内、誰かが『魚雷に羽をつければ、投下後に沈みすぎないのではないか』と言いだしましてね。おそらく7020戦隊の誰かだと思います」

「現場からの声が大本だったのですね」

「はい。そこで(空母)<ビビェルナ>の(モイラ帝国の言葉で「ワイバーン」の意。以下同じ)工作部が合板で翼を作りましてね。この翼つき魚雷を試してみたところ見事に浅い海域でも海底に刺さらずに航走させることができたのです。この実験の成功で、慌てて合板を大量に発注することになりました。しかし作戦当日まで工作が間に合わなさそうな事と、岸壁へ2列以上の横列に係留されていたら、内側の艦には魚雷は届きませんから、半数は水平爆撃で行く事になりました。まあ私は急降下爆撃機だったので、あまり関係はありませんでしたが」

「急降下爆撃での攻撃力はどのくらいだったのですか」

「戦前の実験だと装甲貫通力は30ミリ(約60キュビト)ぐらいでした。物を落とす時、より高い所から落とした方が、威力が高くなります。同じ石でも2階から落とすより3階から落とした方が当たった時に痛いというわけです。ですが急降下爆撃は爆弾を切り離すのが500メートル(約2・5ハロ)ぐらいの高度なので、貫通力が下がるわけです」

 高さは位置エネルギーと同義である。高ければ、それだけエネルギーが大きいという理屈である。

「しかも水平爆撃に使う徹甲弾は800キロ(筆者注:これもキログラムのこと。約1600セクタルとなる。以下同じ)爆弾ですが、急降下爆撃に使うのは250キロ(約500セクタル)爆弾です。重さも3分の1ですから、より威力が減るわけです。そのかわり命中率は高かったですがね」

 これを練習戦艦として改装した<ブルーリーフ>に当てはめると、水平爆撃であると主砲塔以外の場所に当たると、確実に貫通されるということだ。逆に急降下爆撃であると、当たりどころさえ悪くなければ何とか持ちこたえてくれそうな数値である。

「魚雷が使えるとなって雷撃機部隊は喜んでいましたね。ただ戦後に合板で羽を作る発想(アイディア)は航空本部の技術課が発案という事になっている事を知って、ちょっと眉を(ひそ)めましたね。確かに言い出したのは搭乗員の誰かのはずですが、その功績を横取りしたような物ですから」

 補足すると正規の装備ではない合板製の羽を量産するために、航空本部技術課の名前を持ち出したのであって、発想は艦隊側にあったとモイラ帝国海軍の正式記録に残っている。

「そうやって演習を繰り返して『こいつでいけそうだ』となったのは1ヶ月後でした。つまり準備から何から3ヶ月ぐらいでまとめ上げた作戦だったわけです」

「航空隊が自信を付けたから作戦が実行されたのですか」

「そうです。いくら軍隊でも無理や無茶を強要はできません。少なくとも戦前はそうでした。月が替わって11月の26日にイトウルップ(島)を出港しました。普段の艦隊出港だと軍楽隊の勇ましい送迎の演奏がつくのですが、あの時は無かったです。代わりにマリーヤ皇女殿下のお見送りがありました。皇室ヨットの<プレズニナバーニャ>(モイラ帝国の言葉で「吉兆」の意)が、わざわざマーチャーシューグラードから来航しましてね。艦隊が出港する時に前甲板にマリーヤ皇女殿下が立たれて、手を振って下さいました。手すきの者はみんな甲板に並んで答礼しましたよ」

 マリーヤ・ペトロベーナ皇女はモイラ皇帝であるアレクセイ2世と皇后エリザベータの間に生まれた長子であった。マーチャーシューグラードに奠都後に急死したパービエル皇帝の皇孫にあたる人物だ。彼女は、我が王家の女子は海軍にて学ぶという伝統を尊び、自らも海軍にて様々な事を学んだ人物であった。オーガスト4世戴冠記念の観艦式にも皇室ヨット<プレズニナバーニャ>にて来国され、齢14にて皇帝の代理として臨席された。

 シャーロット殿下とも交流があり、既述の観艦式において午後のお茶会を共にして友情を育んだ仲である。シャーロット殿下においては、この年下の友人を「マーシェンカ」と愛称で呼ぶほどの間柄となり、マリーヤ皇女側も実の姉と慕ってくれたほどである。しかし少女たちの友情は、厳しい国際情勢でお互いを敵同士と立たせることとなった。

「それから作戦開始日までは霧の中ですよ。知っての通り北部偉大洋は年がら年中霧がかかっている海域でしょう。もう空母から艦上機が飛び立てないのです。最初の内は哨戒任務が無くなって喜んでいましたがね。これが2、3日と続くと、白く染められた舷窓を恨めしそうに眺めるだけです。やることが無くてというより、空が飛べなくて鬱屈しましたね。でも、その霧のお陰で王国本土へ忍び寄ることができました」

「航海中はずっと船室にいたのですか?」

「やることが無いですから。真面目な何人かの飛行兵は敵味方識別表とか、格納庫に入っている愛機の操縦桿を握って操作訓練とかしていました。でも大部分は飯を食ってゴロ寝していましたよ」

「なにもなかったのですか?」

「たしか3日目かな。機動部隊にくっついてきた油送艦と、護衛の駆逐艦が衝突しちゃって大騒ぎになりました。でも私たち飛行兵には関係ありませんから。ただただ霧が晴れるのを待っていましたね」

「訓練された艦隊でも事故を起こす海域ということですね」

「ええ。だからこそ外国船に目撃されることなく航海できたと言えます。結局、霧が晴れたのは(日付変更線通過後の)12月6日になっていました。周囲をやっと見渡せることができて、心底ホッとすると同時に、顔色が青くなりましたね。西側に霧の壁があって、そちらは見通すことが出来ませんでしたが、他は水平線まで何も無かったからです」

「島も無かったと」

「島どころか友軍の艦艇すら1隻も視界に入りませんでした。(空母の)艦長は私たちよりも青くなっていましたね。いま開戦したら、敵前で空母1隻だけポツンと取り残されていることになるわけです。それでは生き残れるわけがないですから、顔色も変わろうというものです。慌てて<97番軍用機>が四方八方へ飛び立ちましてね。まあ、なんとか旗艦を見つけてくれたのはいいのですが、隠密作戦中だから電波を出すわけにはいかない。結局、伝説の鳩に導かれる方舟のように、空母の前を飛ぶ<97番軍用機>の(機)尾を追っていって合流しましたね」

「やはり霧の海は航海に適さないということですか」

「そうですね。なにせ機動部隊が再集結するのに丸1日かかりましたから。戦隊司令部の将校なんて予定期日に攻撃開始地点へ辿り着けないのではないかと、これまた青くなっていましたね」

「やはり予定通りにいかないと困るということですか」

「なにせ我々の攻撃で開戦するという段取りでしたから。陸軍は二列列島西部の各島へ上陸するために行動していましたし、海軍の他の部隊だってそうです。もう1つの部隊の都合で予定を変更できないところまで来ていました」

「モイラ帝国軍全体の話しになっていたわけですね」

「そうです。12月7日だけで戦争の準備を全部終わらせなければなりませんでした。私は飛行兵ですから航空地図を何回も確認しましたね。そして翌日は開戦日とされた日でした。まだ星が瞬いている時間から空母を飛び立ちました。空中集合に時間がかかったので、カークウォール軍港へ向かって進軍を始めた時はもう朝日が見えていました。私が所属していた急降下爆撃機編隊は、まあ悔しい事に機動部隊で一番ヘタクソということになっていました。だから目標は艦船では無くて、陸上の飛行基地を爆撃するように命令されていました」


 そしてカレンダーは聖歴2164年12月8日金曜日を、時計は午前7時を迎えた。


 カークウォール軍港は王国本土北方にある海軍の重要拠点である。王国本土とカークウォール・メインソイル島、そしてホイ島に囲まれた広大な入り江である。

 蒸気機関が軍艦に採用され装甲艦が海軍の主力となった頃から演習場として利用されてきた。それが巨砲混載艦とも言われる前弩級戦艦の時代になって艦隊泊地として使われるようになった。ある歴史家が言うには「帰るのが面倒くさくなったから」だそうだ。

 しかし大陸西岸から距離があったことから、弩級戦艦の時代になり重要性が増した。発達する航空機から艦隊を守るためには何か手だてが必要だった。だがカークウォールまで大陸から離れれば、当時の貧弱な航続距離しか持たない航空機に対してその距離は有効に働いた。事実、中原戦争の間で、カークウォール軍港まで航続距離が届いたプロニア空軍爆撃機はいなかった。(筆者注:ただし飛行船はじゅうぶんに行動範囲内であった)

 そのカークウォール軍港が、モイラ帝国海軍機動部隊の奇襲を受ける事となった。王都ケンブルのワイアットヴィル城にて駐在大使の手から外務大臣へ宣戦布告にあたる「帝国政府の対王国通牒覚書」が手渡された数分後であった。

 この時、王国海軍の主力部隊と言える本国艦隊のほとんど全ては泊地の浮標に係留されており、普段と同じ金曜日を迎えたところであった。

 この時のモイラ帝国海軍機動部隊の編成は以下の通りであった。


 モイラ帝国海軍機動部隊

 総旗艦:皇室ヨット<プレズニナバーニャ>:肩書では総旗艦であるが艦隊出港を見送っただけである。

 第7010戦隊

  空母<クラスナヤ・ステナ>(「レッド・ウォール」直訳すれば「赤い壁」であるが「鮮血に染まった処刑場」の意):機動部隊旗艦を兼務

  空母<プライズン>(「セレブレイション」の意)

 第7020戦隊

  中型空母<シンニ・ドラークワ>(「ブルー・ドラゴン」の意)

  中型空母<ビビェルナ>

 第7050戦隊

  空母<リタイツ>(「フライ」の意)

  空母<フィーニックス>(「フェニックス」の意)

 第1031戦隊

  戦艦<ハンコ>(かつての戦勝地の地名である)

  戦艦<アベチャ>(かつての戦勝地の地名である)

 第2080戦隊

  大型軽巡洋艦2隻

 第1100戦隊

  軽巡洋艦1隻

  駆逐艦7隻(本来は8隻だが衝突事故で1隻は本国へ回航した)

 第7011戦隊

  駆逐艦2隻

 第6021戦隊

  潜水艦3隻

 第6001戦隊

  潜水艦5隻

 第1補給隊

  油送艦4隻

 第2補給隊

  油送艦3隻(本来は4隻だが衝突事故で1隻は本国へ回航した)


 搭載機は以下の通り。

  艦上戦闘機(96番軍用機)<フロスティ>

  艦上雷撃機(97番軍用機)<バーク>

  艦上爆撃機(99番軍用機)<ビーグル>

  注:()内はモイラ帝国での正式名称。<>内はルイス王国側がつけたコードネーム(以下同じ)


 この時にカークウォール軍港に在泊していた王国海軍艦艇は以下の通り。

 本国艦隊

 第1艦隊

  第1戦艦戦隊

   戦艦<ロード・クライド>(BB41)

   戦艦<ロード・ウォーデン>(BB42)

  第2戦艦戦隊

   戦艦<インペリューズ>(BB30)

   戦艦<イモーテリア>(BB32)

  第3戦艦戦隊

   戦艦<ヒーロー>(BB23)

   戦艦<ハンター>(BB24)

  第6戦艦戦隊

   戦艦<ハーキュリーズ>(BB25)

   戦艦<ヘカテー>(BB26)

  第1魚雷戦戦隊

   軽巡洋艦1隻

   駆逐艦18隻

 第2艦隊

  第6巡洋艦戦隊

   重巡洋艦2隻

  第9巡洋艦戦隊

   大型軽巡洋艦4隻

  第2魚雷戦戦隊

   軽巡洋艦1隻

   駆逐艦8隻

 本国艦隊付属

   駆逐艦4隻

  第1機雷戦戦隊

   敷設巡洋艦1隻

   敷設駆逐艦6隻

   砲艦1隻

  第2機雷戦戦隊

   敷設巡洋艦1隻

   敷設駆逐艦6隻

   砲艦1隻

 潜水艦隊

  艦隊付属

   潜水艦4隻

 特務艦隊

   掃海艇10隻

   補給艦3隻

   給兵艦1隻

   給油艦1隻

   潜水母艦1隻

   潜水艦救難艦1隻

   駆逐母艦2隻

   水上機母艦6隻

   工作艦3隻

   病院船1隻

   係留練習艦<オーシャン>(YX13)

    (筆者注:実際は弾薬ハルク。軍縮条約にて退役することとなった<紋章級巡洋戦艦>とも呼ばれる<オールド・イーグル級巡洋戦艦>1番艦<オールド・イーグル>がその前身であった。改名の理由は明らかではないが、王家の紋章の名前を持つ艦を倉庫代わりにするのは気が引けたというのが有力な説である)

 ケンブル管区隊

   雑役船2隻


 この他にカークウォール・メインソイル島2箇所、本土側1箇所に王国空軍の戦闘機基地が存在し、さらに海軍航空隊の基地がホイ島に1箇所あった。


 取材メモに戻ろう。

「攻撃隊は大きく2つに分かれて進軍しました。これは意味がある行動では無くて、空母の発艦能力によるものでした。モイラ帝国海軍では空母用の射出機(カタパルト)の開発が遅れていて、次々に発艦させることができなかったのです。ですから先に上がった半分が空中集合出来たところで進軍を開始し、残り半分は後から上がる副空中指揮官が乗る<97番軍用機>(艦上雷撃機)に任せたわけです」

 ちなみに王国海軍の航空母艦には艦上機用の油圧式の射出機の開発に成功していた。

「私らの編隊は先に進む部隊でした。目標が飛行場という事で、攻撃隊が軍港を空襲している間に、王国空軍が介入しないように滑走路を破壊することが任務でした。当日は雲量2で、地上の観察に不安は無かったです。先ほど申した通り、爆弾は高い所から落とすと威力が高まるので、私たちの編隊は高度を高く取りました」

「急降下爆撃では無いのですか?」

「いえ。水平爆撃です。目標の島が見えてきたところで雁行陣に編隊を組み直して、隊長機が爆弾を落としたのを見て、私も爆弾の投下(レバー)を引きました。急降下爆撃機は地上の様子が見られるように、操縦席の床に窓がありましてね。そこから落とした爆弾が白く見える滑走路へ吸い込まれるように落ちていくのが見えました」

「そんなに見える物なのですか?」

「見えますよ。私が落とした爆弾は、目標を外れて格納庫に命中するのが見えました。庫内に航空機があったのでしょうね。その格納庫は火の玉を噴き上げるように爆発したのを見ました。滑走路の方は隊長機が落とした爆弾が見事に命中しました。タバコでうっかりして上着に焦げ跡がついた事があると思いますが、あのような感じで白い滑走路に黒く丸い跡がつきました」

「泊地の様子は目撃しなかったのですか?」

「出撃前の説明では、空母に帰って追撃の準備をするという話だったので、攻撃隊はすぐに引き返すことになっていました。ただ戦果確認を空中指揮官がやることになっていましたが、当時の(艦上戦闘機)<96番軍用機>は航続距離(あし)が短くてカークウォールまで来られなかったので、私たちの編隊が護衛する事になっていました。モイラ帝国海軍では急降下爆撃機の任務に戦場の制空権の確保というのもあったので、いちおう空中戦の訓練は重ねていました」

「勝てるものですか?」

「複座の爆撃機で戦闘機と空中戦をしたって敵わないのは解っていました。ですから私は王国空軍の戦闘機が来ないようにと祈っていましたね」

 カークウォール軍港の防空は王国空軍の第10戦闘機集団が担っていた。しかし当日は基地に奇襲を受けて、1機も上空に上げる事ができずに航空隊は破壊されていた。破壊を逃れた機体もあったが、滑走路が破壊されたため飛び立つことが出来なかったのである。

 奇襲を受けないように空軍のレーダー基地の整備は進んでいて、その警戒網でカークウォール軍港も守られているはずであった。しかし初期のレーダーは故障しやすく、また空襲があるとしたら偉大洋側からではなく、大陸側からプロニア帝国空軍によるものという先入観があった。そのため、せっかくレーダーが捉えた大編隊を虚探知(ゴースト)と判断して、警報を出すのが遅れたのである。

 軍務省内部では、モイラ帝国の攻撃を予想はしていた。対抗策などは半年ごとに更新していたが、正確に現場へ伝わっていなかったのである。海軍は伝統的に二列列島の突き当りであるモスアゲート島へ敵艦隊が来襲することを想定しており、陸軍は大陸情勢の方に気を取られていた。そして空軍は既述した通りであった。

 戦後の検証では、軍務省情報本部は「12月上旬にモイラ帝国は王国に対して宣戦を布告する可能性が高い」と正確に予想していたが、情報は部内だけにとどまり、統合作戦本部や幕僚長会議にまでは伝わっていなかった。

「空中指揮官はのんびりと飛んでいましたね。今考えれば戦果確認を確実にするために空中写真を撮っていたのでしょう。私は(王国の戦闘機が)いま来るか、いま来るかと気が気ではありませんでした。でもカークウォール・メインソイル島側の泊地で横倒しになっている戦艦を見ました。あれは(戦艦)<ハンター>だったと思います。その内、第2次攻撃隊が戦場に到着しました。そこからは副空中指揮官が戦場の指揮を執ることになるので、翼を返して母艦へ向かいました」


 この攻撃により王国海軍は大打撃を受けた。以下は、その損害の表である。

  戦艦<ヒーロー>(BB23)大破着底

  戦艦<ハンター>(BB24)転覆沈没

  戦艦<ハーキュリーズ>(BB25)小破

  戦艦<ヘカテー>(BB26)前部弾薬庫が誘爆し沈没

  戦艦<インペリューズ>(BB30)小破

  戦艦<イモーテリア>(BB32)大破着底

  戦艦<ロード・クライド>(BB41)小破

  戦艦<ロード・ウォーデン>(BB42)大破着底

  大型巡洋艦1隻、小破

  敷設巡洋艦1隻、転覆沈没

  軽巡洋艦1隻、中破

  駆逐艦2隻、転覆沈没

  駆逐艦1隻、中破

  駆逐艦母艦1隻、小破

  水上機母艦1隻、中破

  工作艦1隻、大破着底

  係留練習艦<オーシャン>(YX13)誘爆大破着底


 この攻撃により王国海軍本国艦隊は壊滅と言っていいほどの損害を受けた。救いだったのは航空母艦が1隻も在泊していなかった事である。




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