2. 発覚した事実 ~Demon with green eye~
妖広辞苑
マルコシアス
その姿はグリフォンの翼と大蛇の尾を持った狼でありその口からは
絶えず炎を吐き出している。召喚者が望めば人の姿となり
この時のマルコシアスは比類なき力量を有する強大な戦士である。
義に厚く正直な性格であり、その事柄がかつて天使だった面影を覗わせる。
何事にも正々堂々がマルコシアスの本分であり、筋の通らないことや
曲がったことはマルコシアスにとっては唾棄すべき事柄なのである。
http://izfact.net/ より
声をかけようとした次の瞬間、キョウが青年の顔面に助走をつけてダイブを決行。見事に張り付いた。
「すみません、怪我はないですか?」
俺は慌てて謝り、キョウを引っぺがす。黒髪、深緑の目をした高身長の青年は落ち着いた様子でこちらを見た。
「大丈夫ですよ。僕はこんなことで怪我はしませんから。それにしても可愛い使い魔ですね」
使い魔? 意味深な単語が青年の口からこぼれる。
「僕は五班に所属することになった‘ディラン・ジェファーズ’と申します。
これから三年間宜しくお願いします」
ディランが自己紹介とともに握手を求めてきた。少し考え込んでいて反応が遅れたが、互いに握手を交わす。
「お、俺は五班の‘稲葉 仁’で、こいつはイタチのキョウです。
こちらこそ宜しくお願いします」
ベルナール高等学院では入学と同時に生徒を男女各二人ずつ、四人一組の班に分ける。そしてその班は三年間ずっと変わらない。ディランがやさしそうな印象を持った人で安心した。
何せこれから学園生活を共にするのだから。
俺は話を切り出す。つい先ほどから気がかりだったことを尋ねてみた。
「ところで、使い魔って何?」
ディランは口をポカンと開けて、目を丸くする。
「知らないで入学しようとしたんですか?ベルナール学院は正式名称を‘ベルナール高等魔法学院’。つまり世界中から妖怪の集まる高校です。現に僕は‘マルコシアス’という悪魔ですよ。そして、使い魔というのは一般に、僕たちが契約を交わして使役する妖怪のことをを指します。妖怪が妖怪を使うというのも変な話ですけど」
今度は仁が唖然とする番だった。
「妖怪? 悪魔? いやいや、俺はいたって普通の人間だよ。どうにかして入学をキャンセルできないか?」
信じられるか、妖怪の通う学校だなんて。認めたくない。待ち合わせ場所がアルプスの中腹もどうかと思う。しかし俺は妖怪の存在を信じざるを得なかった。六月に俺達はそれらに出遭ってしまったのだから。
「・・・何を言っているんですか。君だって妖怪でしょう?匂いで分かりますよ。人間と妖怪の匂いは全然違いますから」
ディランはため息をついたかと思うと、今度はキョウに向き直って一言。
「君のご主人は変わってますね、人間を名乗るなんて」
「キィ!」
キョウも呆れた? 顔で返事をして俺を見てくる。
「ちょっと待った! なんで二人してそんな顔して俺を見てくんだよ。妖怪なんて知らない。信じてくれって」
仁は必至に人間であることを主張する。終いには土下座までする始末。プライドなんて気にしない。今はこの前代未聞の状況をどうにかしなければならない。
最終的に、凄まじいアピールにディランが折れることで決着がついた。
「人間というには認めませんが、妖怪を知らないことについては信用します。まずはこれからの二次試験をどうするかが問題です。この段階では入学したわけではありませんからね」
「その試験に落ちるって方向じゃダメ?」
「駄目です。四人一組の団体実技試験ですから、仁だけ落ちることはできません。僕らまで落ちるのは嫌ですよ。とにかく、受かりましょう。最大限のフォローはしますが、せめて自分の身を守ることはできませんか?」
「度合いによるけど、空手やってたから少しはいけるかな・・・うん」
自分の身を守るってなんだよ。取り敢えずは渋柿を噛んだ表情をしつつも頷いてみる。あ、ヤバい。本当に口内が渋くなってきた。対してディランは元の微笑みを取り戻す。何を考えているのやら。
「前向きに考えてみてください。ここで受かってさえしまえば、学校で魔法が習えるんで以後何とかなりますよ。それに四人分の入場券を手に入れさえすればそこで試験終了です。終わらせてしまえば良いんです。とにかくベストを尽くしましょう」
そう言ってディランは仁の肩に手を回す。そんな眩しい笑顔で言われたら、やるしかなくなる。さすが悪魔。うまく丸めこまれたなぁと思った。
物語と言いつつ、始めは説明ばかりになってしまいますが
首を長くして気長に待っていただければと思っております。
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