1. 高校進学 ~Let's go to school~
こんな山奥に高校なんてあるのだろうか。
ふと頭の上に疑問符が浮かんだ。
俺は今、生活必需品を大きめのリュックにつめてアルプス山脈を登山中である。後ろからは相棒もとい家族のイタチ、キョウがテクテクと付いてくる。案内書の地図に命運を託し、通常の登山道を外れた獣道を歩みながら何かの間違いだったのではないかと、今までの行動を振り返ってみた。
今年の七月のこと。
俺の学校では中学の勉強を三年生の一学期までに終わらせ、比較的早くから受験勉強を始める。公立中学のくせして、文部省の定めた授業進度を完全無視だ。
そういうマイペースな校風のおかげだろうか。俺はかねてからの希望だったスイスの「ベルナール高等学院」に留学ができることになった。親が発見した学校であるが‘生徒の個性を最重視する’学校方針や
さわやかなアルプスの雰囲気が特に気に入っていた。普通の学校ではありえない、ペット同伴も可能とのこと。更に入学試験は書類審査のみという安易さ! ……ついつい有頂天になってしまう。
しかし、この学院にはどうも表ざたにできない秘密があるらしい。その一つにはキョウの真実を知ることができることも含まれているとか。
入学は九月。同学年の友達よりも一足早い。二ヶ月間の準備を終えて、キョウと共にスイスに向けていざ出発した。
そして今に至る。回想を終えるころには足場の悪い道を抜け、大きな湖のほとりに出ていた。エメラルドの水をたたえる湖の周りには、高原の花が咲き乱れ、まさに美術館の絵の中に入ったのかの様な光景で俺は思わずその景色に見入ってしまった。
一通り湖を見渡した後、待ち合わせ場所を探す。案内書によれば俺たち五班の待ち合わせ場所はエーデルワイスが周りに咲いている湖のほとりの大岩。だがエーデルワイスの花期は六~八月だ。季節が若干ずれている。果たして咲いているのか。嫌だよ、枯れた花の前に集まるのは。と心の中で突っ込みを入れてみる。誰かしら場所を勘違いして、遅刻するだろうと瞬時に確信を得た。絶対そうだ。
が、幸運なことに俺は迷子にならないで済みそうである。余計な心配もいらなった。湖の向かい側には苔の生えた大岩があり、周囲に雪のように白い花が咲いていた。一人の青年が岩に寄りかかって本を読んでいる。隣には旅行用には少し小さいくらいのスーツケースが一つ。
「五班の班員かもしれない」
そう思って、俺とキョウは湖の向かい岸へと駆け出した。