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真夜中のフェーン  作者: あじポン
第一章
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21. 防御結界 ~A cruel senior ~

 ベルナール学院をすっぽり覆う巨大な赤い半球。それが地鳴りを伴ってゆっくり縮んでゆく。段々空が迫ってくるような、圧迫感が襲ってくる。

 サラは目を丸くして固まってしまった。一方レベッカはアワアワとパニックになってしまっている。


「なななななな何よあれ。あれが結界破り!?」


 妖怪である二人には結界破りな重大さが俺よりも分かっている。だからこそ


「結界さえ壊せば、イルミナティの数の力で押しきれる。抵抗は止めて諦めるっぺ」


 笑うリザードマン。俺達はどうするべきか、皆目検討が付かなかった。とそのとき、少し離れた場所から、羽の生えた巨大な狼が空へと飛び上がったのが見えた。狼は真っ赤な火を吐きながら壁に向かって突進していく。しかし、あろうことか火も狼本体もするりと壁を通り抜けてしまった。


「なっ!?」


「へへっ。こいつは特殊な術だっぺ。対結界にしか効果はない分、他の何をも受け付けないっぺ。但し、発動の代償は大きいけどな」


 言葉に含みを持たせてゆっくりと言い放つフィリップ。なんて術を使いやがる。これがイルミナティ……って呆けてる場合じゃない!


「引こう!ここは危ないよ!」


 そういって女子二人の手を引く。はっと二人が我に帰る。そのとき、シレーナ先輩が大声を上げながら茂みを抜けて走ってきた。


「あの術は物質じゃない。実態を持たない波長そのものだから、こっちの攻撃は全部すり抜ける。どっちにしろ私たちじゃどうにもできない。一旦、体勢を立て直すよ」


 先輩に促されるように俺達は門の内側へと急いだ。上空では狼が何度も壁の破壊を試みるも効果は無い。南門の方でも、同様のことを試みているのか。巨大な白い鳥が飛び回っている。


「残りの先輩達は大丈夫なんですか?」


「平気平気。ほら言ってるそばから戻ってきたよ」


 俺は顔だけを門の外に向けた。そこにはリザードマンを一人ずつ小脇に抱えた先輩達が凄まじい形相で走ってきた。フローズ先輩とティア先輩はそれぞれ先に襲撃を仕掛けたコンビを一人ずつ、黒谷先輩はシレーナと戦っていたトリスを抱えて回収している。一瞬だけ見えたが全員の手足が石化している。黒谷先輩がやったのだろうか。あのときの翼と同じように。


「不味いな。あれが結界に触れた時点でアウトだ。今のうちに防御力の高い結界を新しくメイン結界の外側に張って相殺する。幸いにあの術は進行が遅い。今のうちに人数集めろ」


 ティア先輩が指示を飛ばす。しかしそれを妨害するようにしたっぱリザードマンは嘲笑う。ティア先輩が脇に抱えているほうである。


「ははっ無駄無駄無駄!その程度じゃ止められないぜ」


「煩いよ。ちょっと黙ってて」


 普段のおっとりした黒谷先輩の様子からは直接結びつけられないほどの殺気が零れた。帽子に手をかけてほんの少しだけ上げる。すると喚いていたリザードマンの一人の口元が石と化した。

 慌てて反論しようとも、まるでお口チャックされたようで開くことができていない。体をくねらせ全身で怒りを表現するも、精々むーむーと喉から声が漏れているだけである。訂正しなければ。翼と比べてはいけない。実力が段違いだ。


「殺すつもりはないよ。聞きたいこともあるし。だけど、邪魔をするのなら容赦しない。消えてもらう」


「なめてんじゃねーよ糞がき!捕虜になるくらいなら俺達は死を選ぶぞ!」


 したっぱの片割れがフローズ先輩に向けて口を開き、至近距離から炎を放射した。いや、しようとした。気づくとシレーナ先輩が背中に白い翼を広げている。純白と称したくなるような眩しい白だ。リザードマンは口を開けたまま低くうめき声を上げている。


「苦しいでしょ? 音波で喉を潰したからね。そんなんで火を噴こうなんて愚の骨頂なのだ。はっはっは~」


 対照的なシレーナ先輩の高笑いに思わずゾッとしてしまった。先輩たちが怖い。妖怪同士の戦いにおいてだからののだろうか。敵とはいえこんなあっさり一生モノの器官を壊せるなんて。


「抵抗するならもっとやっちゃうよ。一応話は聞きたいから、死ねないくらいに加減するけど」


「副会長、その辺で止めといたほうが」


 ちょうどそこにジックのメンバーが隊列を組んで現れた。小隊のリーダーらしき小柄な少年が恐る恐る声を発する。


「分かってるって。脅しただけだよ~」


「絶対嘘ですよね。それくらいは察せますって」


 一度咳払いを挟んで小隊長の少年は続けた。


「ティア隊長、即席ですが、防御結界の組み立てが完了しました。直ちに展開します」


「ようやくか。待ちくたびれたぞ。リザードマン共は纏めて縛っておけ。見張りはシレーナ。後は結界破り打破に協力してくれ」


「はいはい」


 先輩たちはさっさと自分の配置に戻っていった。俺はジックが空気を変えてくれたことにこっそり感謝した。


「よし。防御結発射ぁぁぁっ!」


 ティア先輩の勇ましい雄叫びと共に白く濁った半球の結界が防御結界の外、学校の外堀ギリギリに現れ、そして凄まじいスピードで外側に向かって膨張していく。同時に、フローズ先輩も叫ぶ。


「全員耳を塞げ! 鼓膜がやられるぞ!」


 次の瞬間、白と赤の二つの結界が黒板を引っ掻く音を耳元で聞いたかのような、生理的に受け付けない音が大音量で響いた。


「なんて音よ。頭が痛くなるわ」


「数秒だから我慢ですわ。」


 脳を激しくシェイクされているようだ。そんな中、黒谷先輩が口を開く。


「結界破りの進行は止まってる?」


 ティアはじっと衝突面を見据えている。


「隊長、波長が合いません。やはり即席で防ぎきるのは厳しいですね」


 ジックの一員が早口に叫ぶ。やがて音が止み、白い結界に亀裂が入り始めた。そこから同心円状にヒビが広がっていく。それを見たサラが眉間に皺を刻んだ。これでは時間稼ぎにもならない。考えろ。結界に対して効果を持つ妖怪は……。


「おいサブノック」


 そこへ羽の生えた黒い狼が戻ってきた。空中で結界に火を吹いていたあの狼だ。


「マルコシアスか。その姿とは珍しいな。気紛れか?」


「嫌な予感がするもんで、早めに敵を片付けようとしただけだ。……別に他意はありませんよ」


 狼はみるみる縮んでいき、やがて青年になった。


「ふん。相変わらずの猫被りめ」


「猫とは例えでも嬉しくありませんね。僕は狼の悪魔ですし」


 青年、ディランは肩をすくめて微笑した。しかしティア先輩は固い表情のままである。


「その程度とうの昔から知っている」


「もしかして僕のこと嫌ってます?」


「言わずとも態度で分かるだろ」


 ディランがムスッと口の端を結んで不服の態度を示すも、先輩は軽く受け流すだけ。この悪魔たちの関係がこのやり取りで伺える気がした。


「では本題ですが、どう説明しましょう」


「勿体ぶるな。とっととあの結界の情報を教えろ。幾度とすり抜けておいて手土産無しはは認めん」


 ティア先輩は大剣クレイモアの鋒を向けて続きを煽った。


「分かっています。ああ、仁も来てください。協力が必要かも知れません」


「俺の協力?」


 強大な結界同士の競り合いに何ができるのだろう。カマイタチの力も上手くに扱える訳ではないし。疑問に思いながらもディランとティア先輩に駆け寄った。





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