20. 覚悟 ~Trio vs Philip~
ディランが赤鉢巻のリザードマン、ポールの相手を務め戦いを繰り広げる一方、俺たちは三人がかりで緑鉢巻きの相手をすることになった。
「仁さんは無理に戦わなくてもいいのですわよ。本当にいいのですか?」
サラが心配そうに声をかけてきた。気持ちは嬉しいが、俺だってベルナール学院の一員だ。入学試験で自分が少し戦えるということは分かっている。
「友達が命懸けで戦場に身を置いてるのに自分だけ安全なところになんていられない。サルノフッタチと戦ったときとは違うんだ」
サラとレベッカはじっくりと仁の目を見つめ、そしてクスリと笑った。
「それを無鉄砲って言うのよ。命の保証なんて無いからね」
判ってる。これはゲームじゃない。俺たちが倒すべき相手は一人敵の応援が来なければの話だが。ともかく今のところはこちらに数の利がある。敵のリザードマンもそれを感じているのだろう。先ほどの火の玉攻撃以来、隠れて様子を伺っていると見える。
「攻撃は最大の防御なりと言います。攻めますわよ。」
サラが前に出て弓を構える。
「援護はいるかしら?」
さもやる気といった表情のレベッカ杖をペン回しの要領で回している。
「大丈夫ですわ。自分の攻撃に集中してください。」
サラは手に力を込めると光の矢が出現する。弦を軽く絞り矢と矢の間隔を短めに次々と放つ。左から右へ順々に草を切断し地面へ刺さっていく。
凄い。雑草が見事に刈られていく。
「草木を蹴散らしていくとはなんて女だっぺ。待ってるっぺ! あんたらの敵はおいらが必ずとるっぺ。……しっかしどうするっぺか。今出ていいってもハチの巣になるのは目に見えてるっぺ」
時間が経つにつれ、徐々に身を隠す盾は減っていく。だがなかなかリザードマンが姿を現そうとはしない。早くも痺れを切らしたレベッカが炎系の呪文を唱え、サラに続いて木々を焼き払っていく。
「隠れてないで出てきなさい」
「このままでも戦況は変わらずっぺか、なら致し方ない。男は度胸だっぺ!」
ふうっとリザードマンは肺に大きく息を吸い込み一喝。
「おいらの名前はフィリップ!! いくっぺよ、くそ餓鬼ども!!」
言葉とともに飛び出すフィリップ。流石は戦い慣れした傭兵。無駄のない動きで一気に距離を詰めてくる。
「来ましたわね。」
標準を動き回るフィリップに合わせて矢を射るサラ。
「甘いっぺ」
左右へのステップをうまく使って次々と飛んでくる矢を次々とかわす。
「なっ、やるじゃない。あたしも援護するわ」
レベッカの泥岩系呪文で沼と化した足元の地面が不自然に沈む。
「足を絡め取ったらこっちのものよ!」
「のわっ。だけどおいらはこの程度じゃ止められないっぺ」
フィリップは口から吐いた火を推進力にロケットの要領で回避する。しかし、僅かにバランスを崩してしまったために、サラの追撃の矢をくらい足を地面に縫い付けられる。
「っ!!」
足の傷口からボタボタと血が滴り落ちる。かろうじて声を上げてはいないが、痛みはかなりのものだろう。
「ちっくしょう。三対一なんて卑怯っぺ。ガキ相手に劣勢になるとは傭兵の名がなくっぺ。でも残念。おいらの役目はすでに果たしたっぺ」
役目? 門には誰も入っていない。侵入が目的ではなかったのか?
「始まったっぺ」
その瞬間、地鳴りが響く。
「なんなの?」
「まさか、結界破りの術でしょうか。しかし外部からの結界解析には通常相当な時間がかかるはずでは。」
フィリップがニヤリと笑う
「結界を破る方法ならいくつかあるっぺ。裏ワザ、禁術、なんでもござれってんだ。作戦上、おらたちはただの囮だっぺ。囮とは言ってもベルナールの見込んだ妖怪どもが相手だかんな、強さに自信のある奴の役割だっぺ。
まぁつまり、おらたちが倒れてもあとは大勢の援軍がやってくれるっぺ」
「援軍ですって!? 攻め入るとなればやっぱり来るわよね。せっかく来ないように願ってたのに。
それよりどうするのよ。イルミナティ大人数じゃ分が悪すぎるじゃない!」
レベッカの叫びにサラも頷く。
「しかしこちらも魔法府に援軍を呼んであるようですし、それまでは持ちこたえましょう。」
「ふふん。どっちにしろ間に合わないっぺ」
フィリップは不敵に笑み、更に口元を吊り上げる。
「どういうことだよ」
「見るっぺ」
ふと三人で顔をあげて空を見る。なんだあれは?
いつの間に出現したのだろうか。雲まで届くような巨大な半透明の赤い半球の壁が、ベルナール学院とその周りの森をすっぽり覆うようにして立っていた。壁はが太陽の光を不自然に反射して不気味に光っている。
「あれがリザードマン傭兵部隊オリジナルの結界破りだっぺ」
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