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真夜中のフェーン  作者: あじポン
第一章
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19. リザードマン傭兵部隊隊長 ~Dylan&Sirena~

 さも自慢げに高笑いをする先輩。どうやら火の玉を全て反射したらしい。


「へーい。そこの侵入者さん、こそこそしてないで出ておいでよ」


「ばれてたっぺ」


 草むらから新たに姿を表したリザードマンは三体。赤い鉢巻のポール、青い鉢巻のトリス、緑の鉢巻のフィリップである。


「さっきの火を弾いたからって調子に乗るなよっ。だいたい生徒がたったの五人で俺等の相手するってかっ?」


「本当は八人で相手するはずだったんだけど、逃げた奴を深追いして三人どっか行っちゃったんだよ」


 あたかも友人のように軽いノリで会話する二人だが目が全く笑っていない。気持ちの込もっていない笑い声を上げた後、先輩は急に声音を低める。


「逃げた奴ってそっちの囮役でしょ?」


「だとしたらっ」


「安っぽい手だね。みんな騙されちゃったけどさ」


「引っ掛かる方が悪いのさっ。俺たちだって頭使って見張りを引きつけてるつもりだぜっ」


「ムカつく。ミーに何されても文句言えないよ」


「こっちだって負けるつもりは毛頭ないぜっ。なぁ兄貴!!」


 青鉢巻は隣の赤鉢巻に目で戦闘開始の合図をくれと訴えかける。応じるように赤鉢巻は一声。


「勿論。行くぞお前ら」


「イエッサー」


それを機に三体のリザードマンがバラバラに動き出す。身を再び雑草の中に沈め木陰に隠しながら距離をじわじわ詰める。


「ミーであの青鉢巻を相手するから一年生はあとの二人をお願いね」


 そう叫んで先輩は森に向かって駆け出す。




「青鉢巻言うなっ! おいらにはトリスっつー名前があるんだっ」


 ふとシレーナが口元をつり上げてぼそっと何かを呟き、方向転換した。トリスの喚き声と葉の動きを頼りに居場所を突き止めたのだ。草むらのある一点を目掛けて小柄な体格に似合わない威力で回し蹴りを繰り出す。


「っ!!」


 トリスはとっさの判断で後ろに飛んで攻撃をなんとかかわす。外れた蹴りは樹木に当たる。

 数秒のタイムラグで樹木がゆっくりと倒れる。直撃した場所から蜘蛛の巣状に割れ目が入り、幹がボロボロと崩れていった。


(な、なななななんなんだよこの女っ。幹を蹴りでへし折るんなら仕組みは分かるけど、ヒビ入れて崩すって芸当ともなれば普通の蹴りではありえねぇ)


 トリスは慌ててシレーナから離れ、一旦呼吸を落ち着かせて頭をフル回転させる。

 ただの蹴りではないことは確か。能力か道具かで破壊力を増しているに違いない。


(おいらが見破ればおいらの勝ち)


(ミーが見破られなければミーの勝ち)


「ありっ? 外しちゃったか。しょうがないからもう一発いっくよ~」


「来いよっ。その蹴り技のカラクリはおいらが見破ってやるっ」


「「おおおおおおおおお」」


 互いの咆哮が重なる中、再びシレーナの回し蹴りが宙を斬る。




               *




「ディラン!! あんた自分で強いって言ってたわよね。あたしたちで仁を援護しながら緑鉢巻をどうにかするから、一人で赤鉢巻を食い止められる?」


「了解です。やりましょう」


 ディランはレベッカの要請に快く応え、俺達三人とは逆方向に走り出す。

 向かった先の茂みから火炎放射が放たれる。赤鉢巻のリザードマンによる攻撃だ。だがディランも剣先から真っ赤な炎を噴出して攻撃をかき消す。

  炎同士の衝突により辺りを熱風が一気に吹き抜けた。


「今の火炎放射を止めるとは。お前、只者じゃねぇな」


 熱風をものともせず、リザードマンが右手で首筋を掴もうと突っ込んでくる。手には鋭い爪。掴まれれば肌どころか肉ごと引きちぎられる。


「お褒めいただき光栄です」


 リザードマンを目前にしても涼しい顔を崩さず、笑みまで浮かべるディラン。


「お前の名はなんと言う?」


「そういうことはまず聞き手から名乗っていただきたいものですが」


 突き出された右手を左の剣の側面で受け流し、右の剣を心臓目掛けて前方に突き出す。


「俺はポール。リザードマン傭兵部隊を率いるリーダーだ」


 ポールは受け流されたことを利用し、右足を軸に回転し剣を避ける。続いて回転の勢いを以ってディランの背後に回り込む。そしてすかさず後頭部目掛けて腕を振りかざす。

 寸での所でディランは腰を折り曲げて回避。 


「僕はディラン・ジェファーズ。ソロモン七十二柱の悪魔マルコシアスです」


「……!!」


 ディランはポールの体が一瞬強張ったのを見逃さない。前屈みの状態から左足を後ろに蹴りあげる。

 スラリのした細身の体格からは想像もつかないような重い攻撃。どごっという鈍い音がポールの腹から響く。

 そのまま数メートル吹っ飛ばされたリザードマン傭兵部隊隊長。背中が地面に叩きつけられたこともあり、内臓系がダメージを受けたのだろう。口の中に鉄の味が充満する。


「まだ立てますよね?」


「っく、当たり前だ」


 軟らかい言葉遣いの裏から威圧感がじんわりとにじみ出る。


「まだまだ序の口だぜ」


 ふらつく体を無理やり動かして立ち上がるポール。そこでふと正体不明の異和感に襲われる。


「一つ、訊いていいか?」


「今更何でしょう? 先程名前は答えましたが」


「お前のような力のある妖怪がなぜ高校に通ってんだ? 地位も名声も富も部下も全部持ってんだろ。特別な目的でもあんのか?」


 今度はディランの方が強張った。余裕の笑みはない。


「ただ単純に学生というものに興味があったこと。もう一つは地位も名声も富も部下も嫌になっただけですよ。あの場所はどうにも落ち着きません。

 そしてマルコシアスの地位を捨て、一人の生徒として学校に来ました。もし僕の友人を傷つけるようならば加減はしません。遠慮なく潰させていただきます」


 ソロモン七十二柱の悪魔の本気。

 下級・中級妖怪からすれば死刑宣告。


「面白い。お前面白いよ。じゃあ特別に俺達の目的ってのを教えてやる」


 現在ポールは間違いなく断頭台の上に首を乗せている。刃を落とすかどうか決めるのはディラン。


「ベルナール学院の制圧。そして歯向かう糞共の処刑。因みにその糞共ってのには今俺達と交戦している生徒並びに先公が含まれる。例外はねぇ」


 言い終わるや否やディランの全身から妖気が噴き出し、みるみる体の輪郭を変えていく。その姿を形容するなら巨大な狼。両手の剣が左右の犬歯になり、背中には白い翼、尻尾は蛇のように鱗に覆われてている。これがマルコシアスの真の姿。


「本気で潰すと言ったはずだ。少しは相手になってくれよ」


 今、ポール目掛けて巨大な刃が落とされる。



 事情あって続きは第零章が終わり次第となります。それまでしばらくお待ちください。

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