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真夜中のフェーン  作者: あじポン
第一章
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17. 新たなる不安材料 ~Solomon's devils~

 リザードマン部隊は目的別にいくつかのグループに分かれている。結界破りに専念するグループ、ポールの率いる突入を行うグループ。そしてこの二グループが迅速な活動をできるようにサポートするのが監視体制の調査と囮役を行うグループである。これらのグループは先程のポールの命令により二~四人の少人数に細かく分けられ、バラバラに行動している。つまり現在ベルナール学院を囲む森の中には東西南北平等にイルミナティが分布しているのだ。


 そして今まさに囮グループの一つが一・三年生の佇む北門へとたどり着いた。


「ここが北門だな。やっぱ見張りがいるぜ」


 草むらから僅かに顔を出して様子を伺うリザードマン二人組。

 見張りは男女合わせて四人。四人とも服にカモミールの校章を付けていることから生徒だと分かる。まだ敵の存在には気付いていない。


「力ずくで黙らせられそうっすよ。先制攻撃しかけちましょうか」


「駄目だ。軽率な行動なんざ取るんじゃねぇ。まずは作戦プランAを実行する」


「イエッサー!!」


 大声で返事をする馬鹿トカゲ。勿論気付かれないわけがない。一斉に見張りが振り向く。


(ばぁっか野郎。居場所がばれちまうだろうが)


 上司の制止も虚しく草むらから顔を出す部下。哀しきかな。見張りと思しい銀髪の男と目が合ってしまう。両者の間に流れる微妙な空気。慌ててリザードマンは身を隠す。


「やっちまった―!!」



               *




 おいおい、見つけちまったよ。今確かに爬虫類と目が合った。味方なら無論隠れないだろうし、というより報告で聞いたリザードマンだよな。


 フローズは手をかざし冷気を付近の木に向ける。パキパキと音を立てて幹、枝、葉、地面の雑草と順に凍りついていく。


「冷てぇ!!頭のてっぺん掠りやがった」


 リザードマンは再び草むらから飛び出し、ゴロゴロと地面を転がる。


「……出やがったな」


 緊張から真剣味を帯びていくフローズ。対してリザードマンは戦闘経験の賜物か。へたり込んだまま余裕の態度で頭を撫でている。


「あーあー、何してくれてんだよ」


 ゆっくりと立ち上がり手の関節を鳴らし威嚇をするトカゲ。

 敵の登場にシレーナと翔一も瞬時に戦闘態勢に入る。ティアは他の三年生とは対象にニヤリと危ない笑みを浮かべる。

 

「やるな生徒会長。だが手柄は渡さん。潰すのは私だ」


「別にフローズ君だけが手柄を持ってけるとは限らない。僕だってイルミナティ壊滅を狙ってんだよ」


 ティアの発言に対して翔一が珍しく闘争心を燃やす。加えて更に拍車をかける言葉がシレーナより放たれる。


「いっその事、誰が一番活躍するか勝負しない?」


「望むところだ」


「いいね。賛成するよ」


 勝負の誘いに即答するジックの隊長・副隊長。


「全く……。血の気が多すぎるのも困りものだな」


 呆れつつも地味にフローズも参戦。


 三年生が勝負に燃える様子を見てリザードマンが凶暴な笑みを顔に貼り付ける。


「もう手柄の話かよ。気が早いなぁガキども!!」


 言葉を切ると同時に深く息を吸い込み、一気に口から真っ赤な炎を放射する。炎は周囲の雑草を焼き払いながら一直線に向かってくる。


「そんなもの効くか」


 ティアは一歩前に踏み出し大剣(クレイモア)を一閃。黒い衝撃波を生み出し、それを正面から炎にぶつける。激突の瞬間に爆風で砂埃が舞い上がる。


 結果は衝撃波の勝利。炎を吹き飛ばし更に地面を抉る。

 しかしリザードマンは横には跳んで回避。砂煙の中に隠れて攻撃体勢を整え直す。


「我が名はティア・サブノック。誇り高きソロモンの悪魔である。砂に隠れてないで出てこい。私が叩き潰してやろう」


 辺り一面に響く声。予想だにしなかった強者に出現にリザードマンは焦りを露わにする。


(ソロモンの悪魔だと! んな化け物がいるなんて聞いてないぜ)


 ソロモンの悪魔とは紀元前にバビロン国王ソロモンによって封印され、その後ヨーロッパの十字軍によって解放された七十二体の莫大な妖力を持つ悪魔たちのことを差す。階級でいえば例外を除き全員が上級妖怪にあたる。対してリザードマンは中級妖怪。タイマンともなれば十中八九ソロモンの悪魔であるサブノックが勝つ。


 どうする?


 戦闘慣れしているからといって恐怖感が湧きあがらないわけではない。手のひらに汗がにじみ出る。


(だぁ――、くそったれ、震えてんじゃねぇよ)


「何してんだボケ」


 そこに先程から身を隠していたもう一人のリザードマンが姿を現し、凄みのある口調で部下を一喝。しかし部下は冷静さを失っている。


「どういうことっすか。イルミナティからの依頼では相手が手だれなんて聞いてないっす。俺は嫌っすよ。無駄に強い奴に勝てねぇ喧嘩を吹っ掛けるなんざ。

 前回の依頼だってテンプル騎士団を敵に回してたなんて俺達には知らされなかったじゃないっすか。そのせいで返り討ちに遭って仲間を大量に殺されたり捕まえられたりしたじゃないっすか!!

 これじゃその時の二の舞っす」


「……情けねぇんだよお前は。悪魔だろうがなんだろうが学校にいればそいつは所詮学生。ボコボコにして大人社会の恐ろしさってのを教えてやんだよ」


「でもソロモンの悪魔っすよ」


 完全に二人の世界に入って口喧嘩をするリザードマン。砂煙がすでに晴れ姿が丸見えにも関わらず、全く気にとめてもいない。この状況で困るのは我々の方。


「攻撃しちゃっていいの?」


「……もう少し待とう。真剣に話しこんでるしあの調子なら降伏するかもしれない」


「だといいがな」



 所変わってリザードマンサイド。上司と部下の二人は真剣に話し合っていた。


「お前の主張は分かった。確かに俺達は前回の任務に失敗して仲間を大量に失った。だがよ、これはプロの傭兵としての任務だ。逃げることなど許されない」


「分かってるから、ちょっと待ってくれ。状況をいったん整理しよう」


 イルミナティからは相手は戦闘経験の無い学生集団と少人数の教師。反撃は恐れるに足らない。結界さえ破ってしまえば制圧は楽勝との話。

 しかし実際、見張りにはトップレベルの悪魔が存在。加えて防御は自警団の分厚い壁。よって教員の大半は森の中を嗅ぎまわることに専念できる。

 つまり与えられた情報と現実が一致しない。騙された可能性が浮かび上がる。


「仕方ない。隊長の所まで戻って報告だ。いったん引くぞ」


「イエッサー」


 相談が終わったのだろうか。チラッとこちらに目を向ける二人。だがすぐに身を翻して森の奥へと姿を消してしまった。


「待て。逃がさん」


「俺も行く。援護するぞティア」


 間を置かずにフローズとティアが後を追う。

 あっという間に二人もいなくなる。


「んじゃあミーも行ってきますか」


 急にやる気になるシレーナ。屈伸・伸脚・アキレス腱、と体操を行いクラウチングスタートの体勢へと移行する。


「よーいドン」


「ストップ」


 翔一は華麗なスタートダッシュを決めようとするシレーナの襟首を掴んで引き寄せる。同時に掴まれたシャツが彼女の首を絞めるため、うぐえええとキチガイな声が発される。


「けほっけほっ。何すんのよ」


「僕の方が入り組んだ森の中での後方支援なら上手い。それに一年生、特に仁君が心配。シレーナはここで待ってて」


 どことなく迫力を帯びた真剣な同級生の様子に渋々ながらも身を引くシレーナ。


(相手が相手なだけにピリピリしてんのね。大人しくしてた方が無難かも)



「一年生!! 聞こえてる?」


 黒谷先輩は顔だけを門の内側に入れ、俺たちに向かって大声で話しかける。


「今からリザードマンを追って森に入る。一年生はシレーナと一緒に外側で見張りを続けて」


「なっ……相手の戦力はまだ判明していません。下手に動くと危険すぎます」


「いいや、奴らは一度撤退した。なんらかの不都合が出たんだろう。せっかくの畳み込むチャンス。逃したくない。というかすでに二人行っちゃったから追いかけなくちゃいけないんだよ」


「ですが」


 言葉を詰まらせるディラン。納得がいかないのか必死に考えを巡らせている。


「心配無用ー。ミーたちこれでも学園最強の班なんだよ。大丈夫大丈夫」


 能天気にケラケラと笑い声を上げる先輩。そのノリが逆に心配の元となっているのだが、当の本人は全く気にもかけていない。


「じゃ任せたよ」


 そう言い残して黒谷先輩は軽やかに走り去っていった。


 残ったのは鼻歌を口ずさむ先輩一人。

 三年生が一気に抜けたため、結局は全員で北門を外側から警備することとなる。先程立てた作戦は丸つぶれもいいトコロ。


「すっげぇ心配になってきた」




誤字訂正・一言などは感想まで。励みになるので時間のある方は是非ともお願いします。

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