16. 忍び寄る敵 ~lizardman~
妖広辞苑
リザードマン
二足歩行するトカゲ(トカゲ以外にもワニの様に描かれる場合もある)。前足(手)は道具を使える。そのため、剣や盾などで武装した姿がよく見られる。知性はそこそこある(独自の言語を持ったり、人間と会話できるものもいる)が、特筆するほど思慮深くもない。人間よりも腕力があり、戦闘能力も優れている。戦士として有能なため、単独でも強敵となるが、集団となったリザードマンはさらなる恐るべき存在となる。見た目とは違って邪悪な存在ではなく、生命を脅かしたり、生息地を侵したりしなければ、敵対することは少ない。ただし、攻撃的な性格。
wikpediaより
数刻前、ベルナール学院近くの森に侵攻した数十体のリザードマン。彼らは人間ほどの大きさに扮し、木々の間を縫うようにして移動する。その統率された動きは訓練を積んだ軍隊にも勝るとも劣らない。全員迷彩服に身を包んでいるが、露出した腕や首には緑色の鱗。まして顔はまんまトカゲである。
(だいぶ距離も近くなってきたな。ここから先は慎重に二・三人で隠密に進むか。大人数で移動して狙い撃ちされたらたまったもんじゃねぇ)
学校の塔のてっぺんが遠巻きに見える辺りで赤い鉢巻を巻いたリーダーらしき個体が指示を回す。
すぐさまリザードマン達は少人数に分かれ、散り散りに動き始める。目的地侵入まで時間はそうかからない。
*
北門の物置の影、俺達五班は円になって作戦会議中。
「そういやニコラス先生からはここを守れって言われたけど、門以外は見張って無くて大丈夫なのか? 柵を乗り越えたり、てのも侵入の手口だと思うけど」
「何かしら対策はしてあるでしょ。危険レベルも上がったことだしね」
「あー、それについては心配無用よん。常に先生が学校を覆うように結界を張ってるから」
第三者の乱入により一瞬にして空気が凍る。
「……あれ? シレーナ先輩は確か門の外にいたのでは。なぜここに?」
先輩はにっこりと笑い、そして一言。
「あんまりにも見張ってんの暇だから来ちゃった」
うおぉぉぉい!!
頼むからサボんないでくれ――!!
もう少し真剣に仕事をしてくださいですわ――!!
絶句する俺とサラ。ディランも僅かに口を開けて固まっている。
暇だからって、暇だからって手抜きは駄目だろ。相手はイルミナティだぞ。
「ちょっと!! 今攻めてこられたらどうすんのよ」
唯一、一年の中で言葉を発したレベッカが先輩に食ってかかる。
「一大事なんでしょ。真面目にやりなさいよ」
「大丈夫。まだ攻めてきても門の中には入ってこれないよ。結界が発動してるからね」
「なら、あたしたちがわざわざ見張る必要は無いじゃない」
「いや。見張りは必要不可欠だよ。この結界には致命的な弱点があるの」
致命的な弱点?
*
リザードマングループの内リーダー格のいる三人は念入りに侵入ルートを確認しつつ進んでいた。僅かにだが警報の音が聞こえてくる。いつ向こうの反撃が来てもおかしくはない。
三人はほぼ同じ顔立ち。いわゆる三つ子である。三兄弟を見分ける手っ取り早い手段は頭の鉢巻。長男は赤、次男は青、三男は緑の布をそれぞれ巻いている。
「兄貴~。もしかしたらさっきオラの姿見つかっちまったかも知れないっぺ」
緑の鉢巻きの三男フィリップが背後を気にしながら弱弱しく口を開く。
「なにやってんだっ!これからが本番だってのによっ。だからオメ―はいつまで経っても駄目なんだよっ」
「んだと!トリスの兄貴と言えど聞き捨てならんっぺ!」
「見つかる方が悪いんだよっ」
「オメーら喧嘩すんな」
長男ポールの低く鋭い罵声がトリスとフィリップの鼓膜を揺らす。
「今は大事な任務中だ。分かってんのか?」
「へいへい。分かってるっ」
「ところでお前らの仕掛けた爆弾ってのは本当に使えんのか?」
「それについては問題ないっぺ。順々に仕掛けてるっぺ。後は他のグループの奴らが指定した場所に置くのを待つだけっぺ。準備ができたら花火を打つらしいから、それを合図に一気に爆発させるっぺ」
「くくっ。にしても楽しみだなっ。平和ボケしたルイ・ベルナールの野郎に一泡吹かせるのがよっ」
「だな、そのためにもまず結界を破る。いくぞお前ら」
「イエッサー!!」
*
イカンだろ。結界に致命的な弱点はイカンだろ。つーか敵に知られてたら意味無いじゃん。
そんな俺の心を察してか先輩が口を開く。
「門周辺だけが特別な作りになってんのよ。普通の結界って内側と外側を絶対的に遮断しちゃうから、行き来はできないの。でもここは違う。指定した相手(主に生徒・職員・来賓客)だけを通過させられるのよ。便利でしょ? 但し普通の結界よりも脆くなっちゃうけど」
「それじゃあ大妖怪みたいな妖力の強い妖怪でなくても結界破りの術を使えば破れちゃうじゃない」
被害があってからじゃ遅いのよ、と眉間にしわを寄せるレベッカ。俺も自身の血の気が引いていくのが分かった。
「そう。でも対策はあるのよ。門なら妖力の強くない下等妖怪・中等妖怪でも狙える。
つまり|イルミナティは四方どこかの門から必ず侵入する《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》」
「なるほど。だから僕らとジックを見張りに配置したんですのね」
「でもシレーナ先輩。今だけでも結界の種類を変えられないの?」
「それができたら苦労しないよ~」
先輩は俯いて首を横に振る。いかにも悔しそうな表情が前髪の間からちらりと見える。自分たちではどうすることもできないと言いたげだ。
「……魔法府絡みですか」
唐突にディランが呟いた。
「正解よく分かったね」
「魔法府って国会とか内閣みたいなもの? それが関係してんのか?」
「ええ。昨年でした。魔法府のトップが交代したんですよ。同時に教育機関に対して異常にまで細かい法律が定められました。僕は結界の種類や警備体制についても強制的に決められてしまったと聞いていますが」
「そんな。理不尽にも程がある。絶対そのトップって奴はイルミナティと組んでるわ。自分たちに有利なように法律を変えていくつもりなんじゃないの!!」
レベッカが血相を変えて叫んだ。
「残念ながら詳しくは存じません」
あまりの迫力にディランが申し訳なさそうに目を逸らす。
不平不満を述べるレベッカに同感する中、シレーナ先輩の背後からゆっくりと男の腕が忍び寄り、頭をがっしり掴んだ。不意を突かれた先輩が「ほにゃ」と謎の悲鳴を上げる。
「おい。いつまでふざけてるつもりだ。真面目に仕事しろ」
手の正体はフローズ先輩であった。
「えー。ヤダよ。……ちょっと聞いてんの」
抵抗虚しくズルズル引きずられていくシレーナ先輩。
「……行っちゃったね」
「……ですわね」
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