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真夜中のフェーン  作者: あじポン
第一章
22/28

15. 震える手 ~Fear of illuminati ~

 場所は北門。レンガ造りの別棟校舎(地上五階、地下二階建てで全ての階が丸ごと図書館となっている)の裏に位置する通称裏門。常に日の光が校舎と木によって遮られるために暗い印象を受ける場所。

 地下の風通しを良くするための通気孔が地面から一メートルの高さまで飛び出ている。その横には古い馬車や車輪が入った物置が一つ。イ〇バ物置と書かれたシールが側面に貼ってあることから百人乗っても大丈夫ということが伺える。


 相談により三年生が門の外で、一年生が門の内側で武器を構えて敵を待ち伏せることとなった。俺が戦闘に加わる可能性を少しでも減らそうとしてくれた先輩の優しい配慮だ。もっとも戦闘可能な七人よりも大人数でこられたりしたら終わりなのだが。

 まず目標は生き残ること。入学早々殺されました、じゃ話にならない。


「なぁ、イルミナティがベルナール学院に攻めてくる理由って何なんだ? テロリストが学校に用でもあるのか?」


「理由でしょうか。僕はルイ校長が狙いだと思いますよ」


 校長?


「もしや校長は組織の裏切り者であって生徒のために日夜奮闘する一方、組織には命を狙われてるってことか!」


「そんなわけないでしょうが」


 良い人じゃないかと一人で頷く俺に白い目を向けるレベッカ。


「その想像力、いや妄想力をもっとマシなことに使いなさいよ」


「はいはい分かったって。じゃあ本当のとこはどうなんだ?」


「ルイ・ベルナールは守人(アルケ―)の一人。四大元素の土を守護する方ですわ。詳しく説明しますと四大元素の火・水・風・土の力を用いて世界の均衡を保つ四人の賢者ということ。彼はその一端を担う妖怪ですわ。もしかするとイルミナティの欲する何かと深く関係しているのでは」


「……世界の命運を担ってるのかよ」


 俺はルイ校長を見くびってた。なんというか次元が違いすぎる。


 ピピピ……

 会話を遮るようにトランシーバーに通信が入った。


『こちら西門より一キロ。校舎から見て北西の方角。リザードマンを一体確認しました。イルミナティの構成員と思われます。リザードマンの性質からして数十体の群れの可能性があります。直ちに危険レベルを四に引き上げてください。繰り返します……』


 危険レベル一は各自が周囲に注意を払うのみ。

 二は教師による校内循環が強化。生徒会やジックなど収集された生徒も校内循環する。

 三は教師及び生徒会やジックの戦闘参加の義務化と戦闘要員の変化(へんげ)の解禁。

 四は生徒は有志を除いて全員避難。

 そして最大の五は全員に変化の解禁と戦闘参加の義務。つまりは全面戦闘。危険レベルが上がるほど、命の危機に晒される可能性も二次関数のように跳ね上がっていく。


 ベルナール学院は人間社会にうまく解け込むことを理念にしているため、他校よりも厳しく変化(へんげ)(人間時の姿から妖怪本来の姿に戻ること)を禁止している。現在はその変化解除令まで出されている状況から更にレベルが上げられた。事態の重みがずっしりと体にのしかかる。今までに一回もこの事態を経験したことがなくてもだ。現場に来れば自ずと分かってしまう


(イルミナティってどんだけヤバい奴らなんだよ)


 考えれば考えるほど鎌を握る手が震える。嫌な汗がじっとりと背中や靴下まで湿らせていく。


 その手を軽くしかし力強く握る手があった。俺よりも一回り小さいのに一回り大きく見える手。ちょっぴり先の尖ったエルフという妖怪の手。


「敵を恐れないでください。私たち三人が傍に付いていますわ。それに私エルフにとって妖怪から人間を守るのは当たり前のことですわよ。安心してくださいませ。」


 その上から重ねてくる手もあった。儚そうで揺るぎない決意を持った手。人間と全く同じ暖かい体温の魔女の手。


「人間保護をエルフの特権みたいに言わないでよ。魔女だって少し力を持っただけで人間よ。同族の人間を守るのは当たり前じゃない。とにかくあたしに任せなさい」


 そして更に大きい手が女子の手を包み込むように被さる。悪魔らしくおぞましくも天使のように優しい手。狼のように鋭い爪をもつマルコシアスの手。

 ディランも「悪魔だっていつもいつも人間を誑かしているわけではないんですよ」と呟いている。


 数百メートル離れた地点から爆音と火柱が上がり始めた。ついに戦闘の火蓋が切って落とされた。


「けっこう近いですわね。作戦はどうしましょう。待ち伏せですしここから動けない以上、イルミナティが攻めてきた際は真っ向勝負に他ならないですわ。面を切って守りながら戦うのは少々難しいですし……」


「そうねぇ。移動さえできれば図書館の中とか死角から狙い撃ちって方法もあるんだけど」


 考え込むサラとレベッカを余所にディランが案をひらめく。


「攻撃は最大の防御と言いますし、玉砕覚悟で自分から突っ込んでみてはどうでしょう?」


「え……人間がどうやって鎌一本で突っ込むんだよ!?」


「一人ではありません。僕と仁とレベッカの三人です。仁を中心に僕が右側を、レベッカが左側を守ります。敵が近付いてきたら突撃します。サラは後方から援護射撃をしてください。物置の上からがいいですかね。

 つまりは先手必勝です。防御に徹するとなれば下手な攻撃ができませんから。先手を打ってイルミナティと僕らの攻守を逆転させてしまうんです」


 にやりと笑みを浮かべるディラン。それにレベッカも乗っかる。


「なーるほど。やられる前にやれってことね。実行は敵が先輩たちのガードを潜り抜けて敷地内に侵入したらでいいかしら。それまで木の陰で待機してましょ」


「そうですね。防御は仁の分まで僕がします。仁は死に物狂いで戦ってください。妖怪が相手だからって恐れることはありません。五班という仲間がいるんですから。

 安心して背中を任せてみませんか?」


 気付くと震えはいつの間にか収まっていた。

 仲間。

 仲間か。

 守ってもらうだけじゃない。お互いに守りあう。

 こんな弱い俺を仲間と見てくれるやつらがいる。信じてくれるやつらがいる!!

 なら恐れることは無い。誓ったじゃないか。強くなると。例え敵がイルミナティとかいうトンデモナイ妖怪が相手でも立ち向かってやる。



誤字訂正・感想・一言などばしばしお寄せ下さい。

そろそろ登場人物が増えてきたのでキャラ紹介を入れたいと思います。このキャラのここが知りたい。あるいは分かりにくいからとにかく詳しく、など意見がありましたら活動報告・感想まで。

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