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真夜中のフェーン  作者: あじポン
第一章
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13. 決意 ~Moved atmosphere~

妖広辞苑


サブノック


サブノックが秘める武力は凄まじく、サブノックに負わされた怪我は瞬時に腐り始め一ヵ月後には蛆が沸き始めると伝えられている。

また、サブノックの武力は単に戦闘能力だけに留まらず、戦争に関するあらゆる能力を含めた武力なのである。その為、召喚者が望めばサブノックは強固な城や塔を作り出し、必要とされる武器を用意することも可能である。



「神話」解説&イラストサイト :IzFACTアイズファクト http://izfact.net より



 生徒会の緊急ともいえる集会。仕切るのは勿論会長フローズ・ヴィトニル。


「いきなり呼び出して済まなかった。けど大事な話なんでね。

 その前に自己紹介していないメンバーもいるし、サクッと終わらせちゃおうか。ティア、翔一、ワンファン、ジョットの順にどうぞ」


「私はティア・サブノック。ソロモン72柱の悪魔だ。そしてジックの隊長を務めている。以後宜しくな」


 藍色の髪を逆立てたウルフの髪型の女性。上下赤のジャージを着こなす姿はまるで不良校の某熱血教師を連想させる。傍から見た印象は爽やかなスポーツマン。しかしその爽やかさも隣に身の丈ほどの大剣であるクレイモアを控えていることで台無し。一気に禍々しいものとなる。


「僕は黒谷翔一。ジックの副隊長。お互い楽しくやっていこうね」


 大きめのベレー帽を目が見えないほど深くかぶったおとなしそうな草食系男子。低い身長、細い手首、整った顔立ちから中性的な印象を受ける。ややひ弱に見えるが、見た目とは裏腹にジックの副隊長を務める実力者。侮ってはいけない。

 そして俺はこの人のもう一つの側面をを知っている。いわゆる近所のお兄ちゃんだ。昔馴染みではあるが、先輩の方は関係を伏せているようだ。一応、こちらも合わせる形でそれに倣っておく。


「我はワンファン。明からやって来タ。まず何事も車到山前必有路あんずるよりうむがやすし。これから宜しくネ」


 言葉に独特の訛りを持つアジア系女子。黄色いチャイナドレスがよく似合う。先程から約一名に集中砲火される毒舌からして俗語の語彙力は相当なもの。更に体術も極めている。二年生の中で最も敵に回したくない。

 それより明って室町幕府と勘合貿易してたあの明か。ぜひ一回は訪れてみたい。


「ラストは俺様ジョット・ベルティー二。生徒会以外にも放送部も掛け持ちしてる。因みにさっきの呼び出しは俺がやったんだぜ。生徒会なんて片っ苦しい肩書なんざ気にしねぇではっちゃけていこうや」


 腰まで伸びた銀髪(普段髪の毛は後ろで一つに結んでいるらしい)の不良系男子。ワンファンに手綱を握られているため、プライドの高い性格が災いしただのいじられキャラと化している。一言告げるとしたらお気の毒に。


 欧米風に互いに握手を交わしたところで本題。


「カマイタチについて資料が出てきたのは事実。だがそれを見せるには条件がある。

 お前ら五班全員(・・・・)が生徒会に入ることだ。生徒会ってのは校長直々に出される特殊な任務があって、その危険性ゆえに一人ではなく一班で入会する規則になってる。自ら志願する班が滅多にいないから毎年強制的に連行してくる訳。でもって一度入会すると退会できない。どうする?」


 自己紹介から一気に雰囲気がピリピリしたものへと変わる。

 生徒会でなくても情報なら手に入れられるだろう。しかし実際に力を付けるためには絶対的に入会が必要になってくる。そして代償として自身を生命の危機に晒す機会を増やす。

 危険を極力回避して身を守るか。危険を体感することで身の守り方を覚えるか。どちらにしろ死ぬ可能性は高い。ここは妖怪がはびこる世界。甘くは無いのだ。


「…………、」


 考え込む俺に呆れたティア先輩がため息交じりに言う。


「どうした迷ってるのか。フン、度胸のないガキだな。私も鬼ではない。最低限の訓練くらい見返りなしで行ってやるから安心しろ」


「流石ジックのたいちょー! カッコイイよー」


「茶化すなシレーナ」


「…………、」


 サラが「顔色がよろしくありませんわ。大丈夫ですか?」と顔を近づけてくる。


「なにも焦って決めなくてもいい。また一週間後に集まるか?」


 フローズ会長は前かがみだった体勢を変え、ソファーの背もたれに深く寄りかかった。解散時という空気が徐々に流れ始めた。


「……入ります」


 ぼそっと呟かれた一言に緩みかけた緊張の糸が再び張り詰める。同時に視線もただ一人へと集まって行く。そう俺に。


「入ります!」


 二度目ははっきりと叫んだ。


「事実として俺は情けないくらいに弱いです。でも、強くなりたい。守られてばかりじゃ立つ瀬がない。

そして知りたい。何故俺がカマイタチの力を持っているのかを。どうすればキョウを元のイタチの姿に戻してやれるのかを。キョウは俺にとって大切な家族だ。物として武器として扱うことなんてできない」


 沈黙。




 それを破ったのはシレーナ先輩だった。


「言うじゃーん! 気に入ったよ」


 先輩は小さい体を生かした俊敏な動きでその場からからジャンプし、テーブルを飛び越えて俺の前に着地する。目の前にはお椀を逆さにしたような形の二つの揺れる物体x。そして終いには抱きついてきた。物体xが顔面に直撃する。


「――――!!」


 突然の出来事に反応の仕方が分からない。とにもかくにも息苦しい。両手両足を使って必死の抵抗を試みるがやはり小さくても妖怪。全く振りほどけない。

 だが後から冷静になって考えてみれば抵抗しなくても良かったかなと思う、思春期な俺。


 シリアスがコメディーに切り替わったまさにその瞬間。居合わせた十名の反応は多種多様。顔を背ける者、固まる者、にやにや笑う者、鼻血を出す者、などなど。張り詰めていた糸などハサミでちょん切ったようにプッツリ切れてしまう。


「フローズー教えてあげてもいいんじゃないー?」


 原因を作った先輩が俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でながら、この場の最高責任者に呼び掛ける。おかげで髪がぼさぼさであるが先輩は気にしていない様子。


「言われなくてもあんな言葉を聞いたら見せてあげたくなるよ」


 フローズ会長は部屋の隅に置かれた事務机から一枚の羊皮紙を手に戻ってきた。 

「カマイタチについてのレポートだ」


 キョウを元に戻してやれるかもしれない。そう思うと胸が高鳴った。シレーナ先輩も心中を察したのかすぐに解放してくれた。



『カマイタチ

 日本や中国に棲む大妖怪。能力は魔術返し(カウンター)とされるが詳しくは不明』



「これだけですか?」


「残念ながらこれだけだ」


 たった二、三行? おいおいカマイタチの情報ってそんなすくないのかよ。


「カマイタチって謎に包まれた妖怪なの。もともと数が少なかった上に、数百年前に絶滅したらしいから。アタシも挿絵でしか知らないわ」


「この短いレポートも古い文献を父から借りてきたものだヨ。我が父は昔戦ったことがあると言っていタ。話を聞いた限りでは能力は確かに攻撃を跳ね返ス。だがそれが魔術返し(カウンター)によるものかどうかは分からなイ」


「俺は噂で自分からは決して攻撃してこないってのを聞いたことあるぜ」


「自分から攻撃できない理由があるから、相手の攻撃を返して戦ってるんじゃないかと俺たちは資料から推測してる」


 順に二年生が解説してくれた。ライアン先輩曰く、カマイタチの出身の中国付近でさえ情報が少なすぎるとのこと。

 地元のワンファン先輩もお手上げのようだ。

 しかしここで引っ掛かる点が出てくる。


「そういえば俺は入学試験で自分から攻撃してガーゴイルにダメージを与えた筈ですが」


 ワンファン先輩がその一言を聞くや否やテーブルに身を乗り出した。


「詳しく説明しテ」


        *


「意識を鎌に集中しろ。空間ごと切り裂くつもりで斬れ」


力の加減、タイミング、考える前に体が動いた。助走をつけて強振すると鎌から風が渦を巻きながら噴出し、ガーゴイルの左腹部を斬る。同時に石の破片を数メートル先まで吹っ飛ばした。


        *


「恐らくキョウであろう声に指示されるまま確かに斬りました。でもこれではカマイタチの能力が魔術返し(カウンター)ではないことになります」


「確かに風を纏わせていましたね。僕もあれは魔術返し(カウンター)とは違っていると思います」


 ディランも思い出したように話に割り込んできた。


「……なんでディランがそれを知ってんだ? ガーゴイルが一体と俺しかいなかった筈だけど」


「見てましたから。崖の上から」


「だったらもっと早くに助けてくれよ。マジ死ぬかと思ったぞ」


「だからギリギリで助けましたって」


 笑顔で言い返してくるディラン。ここがこの悪魔のムカつく所だ。言ってもこいつは直さない。取り敢えず怒りを発散したい。


「まあまあ落ち着いて下さい。話を戻しますと、仁さんの話と資料が矛盾するってことですわね。」


 つまりこういうことである。仮にカマイタチの能力が魔術返し(カウンター)だとしよう。相手の攻撃を跳ね返す場合、まず相手の攻撃を受けなければならない。しかし俺の場合は相手の攻撃を受けずに自分から攻撃を仕掛けていった。よって矛盾が生じているわけだ。

 全員考え込む。説明ができない以上資料は間違っていると判断せざるを得ない。結局は何一つ情報を拾えていないことになる。


「えらい辛気臭いなお前ら」


 突如飛び込んできた一人の若い男。


「先生って飛び入り参加好きだね」


 黒谷先輩がその男に声をかけた。


「割り込む感触がたまんねぇんだよな」


 そうニコラス先生である。


「先生ってカマイタチについて知ってることありましたっけ?」


「なんも知らねぇな。つっても昔会話だけならした気がすんな。いろいろあってお互い顔は見えなかったが」


「「知ってんじゃないですか」」


 一同声が合う。


「ちょっと話しただけだ。姿もまして戦ってるのなんて見ていない」


「珍しく先生が役に立つと期待したアタシが馬鹿だったわ」


 セレナ先輩が堂々と言い放った。ニコラス先生はこめかみに筋を浮かべる。更にニコニコする先輩。

 あ、殴った。なんと大人げない。


 「それより緊急任務だ。イルミナティが敷地のすぐ外をうろついてる」










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