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真夜中のフェーン  作者: あじポン
第一章
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12. 呼び出し ~Misunderstanding~

妖広辞苑


シームルグ


 中東・インド洋地域の伝説に登場する巨大な白い鳥。象を持ち去って食べてしまうくらい大きく力が強いとされる。伝説の起源は不明だが、マルコ・ポーロの口述とされる『東方見聞録』にマダガスカルにいたとの記述されることから、同島に生息していた象のように巨大な鳥エピオルニスを始めとする、近世までに絶滅してしまった大型の鳥類などが誇張されたと考えられる。

 特に有名な伝説は千夜一夜物語の中のシンドバッドの話であり、イスラム世界やアジアでは広く伝わっていた。



 俺達四人は息を切らせて生徒会塔へと到着した。何しろこの学校は敷地が広い。東Oドーム三十個分だとか。迷いに迷ってようやくたどり着いたのだ。しかし疲れ切った俺達の前に現れたのは塔の変わり果てた姿。


「なによ、これ」


 半壊の扉、崩れ落ちた壁……。まるで台風が通り過ぎた時のよう。不安と驚きがぐるぐると体中をめぐっている。声にもならない。


「襲撃にでもあったようですね」


「ですが、先程の放送からは微塵も緊張感が感じられませんでしたわ。異常事態なら他の生徒も行動を起こすはずですし。」


「サラの言う通りよ。大きな戦いがあって誰も気づかない訳が無い。それに考えてみなさいよ。仁に用がある妖怪なんていないに等しいわ」


 言い切った――。言い切られた――。


「一理ありますね」


 そこ納得しない!


 顎を手でいじりながら考え込むディラン。


「俺の扱い酷くない? そんなにどうしようもないか?」


「今更気付いたの?」


 オブラートに包むどころか、毒針を仕込んで俺のハートにストライク。ごはっ。


「……大丈夫ですか。魂が飛んで行ってしまいそうですわ。」


「仁はこれくらいでへこたれる様な男ではありません。心配いりませんよ。(多分)

 とにかく今は状況把握が先決です。中へ入りますよ」


「行くわよ。あんた男でしょ。しっかりしなさい。」


 お前が落ち込ませたんだろ、とは口が裂けても言えずに、のそのそ三人に付いていく。





           *




 途中の廊下。大理石の破片とガラス、さらに白い羽が斑に散らばっている。結局俺はなんだかんだで前に押し出され、先頭を走る始末。すぐ後ろでは三人とも武器を構え、戦闘態勢に入っている。いつ敵が飛び出しても問題は無い。

 角をまがった瞬間、何かを踏んだ。ふにゃっとした感触が足の裏に伝わる。


「ふにゃ?」


 恐る恐る足元に目をやると、体の至る所に切り傷と焦げ目をつけた銀髪ロン毛の男性が倒れていた。入学式の際に騒いでいたあの沸点の低い先輩だ。

 すぐ横には見た中で最も大きい穴があき、戦いの凄まじさを物語っている。


「激しい戦いだったのですわね。」


 無言で頷く。傷が生々しすぎる。本当に俺が関係する事件なのだろうか。戦いだとしたら尚更呼び出された意味が分からない。



「いつまで……乗っかって……やがる」


「す、すみません」


 先輩の唸るような低い声に慌てて足をどけた。先輩はフラフラと立ち上がり、独り言を呟きながら壁を殴りつけている。


「あんの野郎……次こそは捻り潰してやる。俺が……シームルグの俺が……負けるわけねぇ」


 傍から見たら近寄りがたい変な人。人でもないが。

 よっぽど悔しかったらしい。 


「大事には至ってないみたいだし、あたしたちは先を急ぐわよ」


 レベッカが先立って走りだす。


「おい! どこ行きやがる」


 角を右に曲がろうとしたところで呼び止められるが、すぐに返事を返す。


「談話室よ。放送で呼ばれたから急いでるの」


「……逆だ。そこの角を左に行け。つーか俺も行くからついてこい」


 どうやら案内してくれるらしい。


「何のために呼ばれたのか分からない以上、ここは素直についていくのが妥当ですわ。」


 サラの意見に俺とディランも首を縦に振った。




         *



 案外元気なロン毛先輩は談話室と札の付いた扉を勢いよく開け放った。扉を入ってすぐのテーブルをソファーが右・左・奥と三方向から囲んでいる。先輩たちは茶菓子をつまんで、ゆったりとした時間を過ごしていた。


「戻ったぜ。一年共も一緒だ」


「よう、生きてたのカ。随分としぶとい焼き鳥だネ」


「うるせえぞ、ワンファン」


 ロン毛先輩を見るや否や喧嘩を吹っ掛ける黒髪の先輩。にやにや笑いながら左手の中指を立てている。

この先輩も入学式のときに騒いでいた先輩だ。私服と思われる黄色のチャイナドレスがよく似合っている。この学校は入学式等の学校行事以外では私服が許可されているので、どんな服装だろうが全くもって問題なし。パンツ一丁などの例外は除いて。


「誰が焼き鳥だ。テメェが焼きやがったんだろうが。勝ったからって調子に乗るんじゃねぇぞぉ」


 早くも切られる啖呵。戦いの始まりを告げるゴングが鳴り響いた。もちろん空耳である。


「また始まったね」


 そこにセレナ先輩が慣れた口調で仲裁に入った。


「さっき戦ったばかりでしょ。二人ともいい加減にしなさい。それに一年生が困ってるよ」


 今にも飛びかかりそうだった二人がピタリと静止した。


「……さっきは悪かったネ。仲直りしよウ。ジョットも座りナ」


 挑発口調を止めたワンファン先輩は、自分の隣の空きスペースをポンポン叩いて座るように催促した。ロン毛……ではなくジョット先輩は無理やりな展開に納得していないのか、舌打ちしつつもワンファン先輩の隣に腰を下ろす。

 案の定これで終わるはずがない。ソファーの下にブーブークッションが敷かれており、体重がかかった瞬間にぶふぅといやらしい音を立てた。


「何でこうも簡単に引っ掛かるのかネ」


「てえんめぇぇぇぇぇ!!」


 鼓膜が破れるかと思うほどの大音量で怒声が轟く。

 立ち上がった勢いで犯人(ワンファン)を蹴りあげるも相手の方が一枚上手であった。ギリギリの所を拳法のごときしなやかな動きでかわし、空ぶってバランスを崩したジョット先輩を逆に抑えつけてしまった。

 

「くそ、離しやがれこの野郎」


 必死になって手足をバタバタさせるロン毛先輩。


「落ちつけ落ち着け」


 傍観していたライアン先輩が二人の間に割り込みジョット先輩をなだめたことで、ようやく場が収束した。


「やっと収まった。ジョットもワンファンも少し落ち着いてよ。

 ごめんね、アホな喧嘩見せちゃって。一年生も突っ立ってないで座りな」


 セレナ先輩の言葉に促され、俺達も別のソファーに腰を下ろした。


「さて全員揃ったことだし話を始めようか」


 フローズ会長の一声で一気に緊張感が部屋に広がった。


「話って生徒会塔の襲撃についてですか?」


「違うよ~。塔が崩れてんのはそこのお馬鹿二人の限度を知らない喧嘩の所為。襲撃になんてあってないから安心して」


 シレーナ先輩がいたずらっぽく笑って二年生の方を向いた。原因の二人はそろって目が泳いでいる。


「そのくらいにしといてやれシレーナ。これから言うことは仁にとって重要な話だ」


「なんですか?」





「カマイタチについて調べが付いたのさ」





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