11. 授業 ~Four secret majics~
「続いて教科書六ページの一段落目から音読してください」
授業開始五分、女教師は黒板のど真ん中の席で寝ていたツワモノを指名。ツワモノもとい男子生徒は渋々立ち上がり、いかにも面倒といった様子で指定の箇所を読み始めた。
相当眠たかったのか、それともただの怖いもの知らずか。どちらにせよ肝が据わった妖怪であると思われる。
ただ今魔法史とやらの講義中。元の世界では歴史にあたる教科だ。しかし人類自体が教科書にほとんど載っていない。出てくる気配さえ無い。ああ、眠たくなってきた。
「では次を仁君。四大秘術について答えてください」
空が青いなあ。
(仁、仁、当たってますよ)
背中をつつかれて我に返ると真っ先に感じたのは先生の視線。やっちまった!
「四大秘術について説明してください」
ちょっと待った! 秘術って何?
慌てて教科書を捲って該当箇所を探すも見つからない。
「分かりません」
「次回からはある程度予習してくるように。四大秘術とは‘土’‘風’‘火’‘水’の四大守護妖怪の力を引き出し我が物にする奥義のことで、会得するには封じられた力を解放することが不可欠です。またこの奥義を会得した者を‘秘儀使い’と言います」
……パードゥン?
頭上に疑問符を浮かべ、首をかしげる俺に三人が口々に解説してくれた。
「つまり封印を解けば属性最強の必殺技を身につけることができるのですわ」
「但しどこに封印されているか知られていない以上、悪用される危険性があるのが問題よ。イルミナティなんかに渡ったら大変でしょ」
「イルミナティって秘密結社みたいな集団?」
「いや、盗賊団の方が正しいですかね。目的は知りませんが各地で略奪行為を繰り返していると聞きます」
「実際殺された妖怪もいますわ」
「怖!」
「そこの四人。私語を慎みなさい。課題が欲しいならいくらでもあげますよ」
先生の脅しとも取れる言動に教室全体が一瞬静まる。
(あーあ怒られた。あんたの声が大きいからよ)
(お前の方が音量あっただろ)
ほどなくして各地からくすくす笑いが漏れ始めた。恥ずかしさから顔が熱くなっていくのが自分でも分かる。
「はいはい。みなさん、授業に戻りますから黒板に注目してください」
先生は手を二三回叩いて場を静めると、黒板へとチョークを流れるように走らせた。
***
「はぁ」
放課後の教室。俺だけに出された机上の課題に頭が重く感じる。口から発するはため息、背中から発するは負のオーラ。
今日の時間割は英語・数学・化学の基本教科に薬学・魔法史の魔法教科が加わったもの。前者の三つは今のところ差し支えなし。問題は後者の二つ。
「はあぁー」
「そんなに気に病まないでください。人間界とは勝手が違うんですからついていけなくて当然ですわ。ゆっくり慣れていけば大丈夫ですわ。」
「そうよ。昨日今日でこっちの世界に来た奴が授業に出てるだけで凄いことなのに」
「でも俺だけ追加課題出されたし、絶対目を付けられたって。妖怪じゃないってバレたかな?」
「このくらいではバレませんから安心してください。それに課題くらい協力しますよ。とっとと片づけてしまいましょう」
「うう、ありがとうみんな」
暖かい言葉にジーンときたよ。仁だけにって訳じゃなくて。こんな仲間思いな奴らと同じ班で良かった。
[ピンポンパンポーン。生徒会よりお知らセ]
教室に残っていた俺たちを除く数人の生徒もピタリと話を止めた。みなが一斉にスピーカーへと耳を傾ける。
[稲葉仁とその班員は大至急生徒会塔の談話室に来るよう二。繰り返しまス、いな]
[稲葉仁とその班員は今すぐに生徒会塔談話室にダッシュしろ。以上。ピーンポーンパーンポーン]
[ちょっと、我のセリフ取らないでヨ]
[いいじゃねーか。内容は変わんねーだろ]
[変わるヨ。何であんたはいつも……]
ぶちっ
………………
なんだ今の突っ込みどころ満載な放送は。口でチャイム言ってるし、途中でアナウンスに横やりが入ったし、口喧嘩も入っちゃってるし。グダグダじゃねーか! 感動が台無しもいいところ。
「とにかく行ってみましょう。あの生徒会のことですから、遅れると非常に面倒臭い展開になりそうな気がします」
「同感よ」
ただならぬ予感に身を引き締め、俺たちはわき目も振らずに生徒会塔へと急いだ。
更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。言い訳は活動報告にて後悔しております。興味のある方はぜひこちらもご覧になってください。
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