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真夜中のフェーン  作者: あじポン
第一章
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10. 屋上の攻防 ~Power gap~



 屋上に刃物同士がぶつかる音が響く。流石ディラン。フローズ先輩と一進一退の攻防を繰り広げている。


「あいつメッチャ強いじゃん。向こうは任せて大丈夫そうね」


「彼はソロモン七十二柱の一柱を担う悪魔マルコシアスですわ。問題ありません。」


「じゃあ俺たちはもう一人を三人で囲もう」


「よそ見して話し合いなんてしないでよ。置いて行かれた感が虚しいじゃない」


 さっきまで遠間にいたはずのシレーナ先輩が視界に映る。繰り出されるは鋭い回し蹴り。女子を庇って腕で受け止めようとするものの、防ぎきれずに吹っ飛ばされる。


「うっ!」


「仁! 大丈夫!?」


 腕が痺れる。ガーゴイルとは比べ物にならない威力だ。


「我、知覚せん。水よ、出でよ」


 レベッカが呪文を唱えると、杖の先から鉄砲水が発射された。


「ヘルメス魔術の使い手なんだ。珍しいね。でも甘いよ~」


 右に大きく跳躍し、いとも簡単に避けてしまった。


「逃がしませんわ。」


 サラが光の矢で追撃をするが、これもかわされる。


「ではこれならどうでしょう。フォーメーションBいきますわよ。」


「任せて。今度は決めるわ」


 レベッカは杖から水を連射する。しかし全て避けられてしまう。


「直線で来るから簡単にかわせるよ~」


 先輩はからかうようにチャポンと水たまりの上に着地。水しぶきが跳ねる。


「連発しても疲れるだけだ! 一旦攻め方を変えないと」


「問題ありませんわ。わざと外しているのですから。」


 よく見れば水たまりがあちこちにできている。レベッカの狙いは当てるのでは無く、この場の水を利用することか。でもどうやって使うんだ?


「渦巻け」


 呟きに反応して先輩の足もとの水たまりが激しく渦を巻き始めた。


「えっ!? 足が抜けない!」


 先輩は口をパクパクさせる。そうか。足を絡め取ることで動きを封じているんだ。これなら攻撃を当てられる。


「時間を稼いでいただいたおかげで、矢に多くの魔力を込めることができましたわ。」


 サラは身長ほどの光の矢を弓にかけ、そして放った。

 矢が当たる直前、突如として先輩の姿が消えた。その場に残るのは巨大な矢によって抉られた大理石だけ。


「どこにいったの?」


「レベッカ、上ですわ!」


「遅いよ」


 空中からの踵落としがレベッカの右肩を捉える。衝撃で杖がはたき落されてしまった。転がっていったそれを先輩が拾う。


「よく渦巻から抜け出せたわね。思いっきり引きこんだのよ」


「甘いって言ったじゃん。なめないでよ~。それより杖が無いと困るんじゃない?」


 痛みを堪えてしゃがみ込むレベッカだが、目だけは立ちはだかる先輩を見据えている。


(確かにどうしようもない。隙を見つけて取り返さないと)


(まだ諦めないって顔してるな~。それよりミー悪役になってるよね。後輩を苛める意地汚い先輩じゃん。やだ~)


 今なら油断してる。俺は後ろから近づき、勢いよく鎌を振り下ろした。があっさり止められた。


「バレバレだよ。そんなんじゃ勝負に……」


 先輩は言葉を途中で切って俺たちから離れた。避ける前の場所には矢が数本。


「外してしまいましたわ」


「危な~。今年の一年は油断も隙もありゃしない」


 大きく間合いを取って構える四人。互いに様子を窺う。こっちは俺とレベッカが腕を痛めている。フルで動けるのはサラだけ。対して先輩は無傷。こりゃ不味い。

 考えを巡らせる俺たちの目の前に二つの影が現れた。先程まで離れて戦っていた剣士二人が間に割り込んできたのだ。


「会長の底力見せちゃえ!」


 互角の鍔競り合いからディランが徐々に押され始める。


「押し負けるな頑張れ!」


「応援も来たことだし、そろそろ魔術でも使うか」


 フローズ先輩は短剣に魔力を集め、剣先から氷柱を連射した。


「僕もそう簡単には負けませんよ」


 ディランも剣から火を出して応戦する。火柱と氷塊が激突し、水蒸気があっという間に広がった。


「何も見えませんわ」


「視界が晴れるのを待とう」


「そうはいかせないよ」


 近距離からシレーナ先輩の声がする。サラがいち早く反応し、弓本体で先輩を叩く。


「痛っ」


(直接攻撃かよ。何気に攻撃が当たってるけど、それ有りなのか)

 

 加えてふらついた体をレベッカが取り押さえた。


「今よ!」


 今度は鎌に風を纏わせて大きく振りかぶる。先輩がここにきて初めて本気で焦りの色を浮かべた。

 しかし攻撃を当てることはできなかった。突然何かがぶつかってきたのだ。そして現在、下敷きにされている。


「……重い」


「すみません。大丈夫ですか?」


 なんと錘の正体はディランであった。


「案外怪力でしてね、吹っ飛ばされてしまいました」


 大分息も切れ、体も浅くだが所々切り裂かれている。


「これが先輩との差か」


 いや、弱気になっている場合じゃない。シレーナ先輩の方はどうなった。


「さっきは惜しかったね。でもこれじゃあ、すぐに擦り抜けられるよ」


先輩はレベッカの腕をするりと潜り抜け、逆に女子二人を抑え込んでしまった。


「勝負ありだな。俺らの勝ちだ」


 フローズ先輩はディランに剣を向けて言い放つ。


「随分判断が速いですね。僕たちはまだ戦えます」


「そうですわ。この距離なら矢は外れませんわ。」


「杖は取り返せたわ。体さえ動けばこっちのものよ」


「踏ん張るね。だが締めといかせて貰うぞ」


 フローズ先輩は短剣を構え、次には一瞬で間合いを縮めてみせた。




「おっとそこまでだ」


 先輩とディランの間に若い男がやぶから棒に割り込み、先輩の一撃を受け止めた。


「ニコラス先生!」


「き、教頭先生が何故ここに。確か顔も校長先生と瓜二つのはずですよね?」


「教頭の他に生徒会顧問も兼任してる。でもってこれは仮の姿の一つさ。オレはどんな奴にも化けられる特技があってね。それはいいとして、お前ら後輩相手にムキになりすぎだ」


 先輩二人は顔を見合わせると、恥ずかしそうに俯いた。


「もっと軽いスパークリングのつもりだったんだけど、つい夢中になって……」


「すぐ熱くなるのがお前らの悪い癖だ。もう夕飯の時間だから解散しろ」



                *



 到頭、決闘は教頭によって無理やり幕を閉じることとなった。シレーナ先輩曰く途中で妨害されたから引き分け。だが中断されずに続行されていたら、間違いなく俺たちは負けていただろう。圧倒的な力の差がそこにはあった。

 このままでは先輩レベルの妖怪が本気で殺しに来たら確実にやられてしまう。強くなりたい。改めてそう思った。




誤字・脱字、見つけた方は感想まで。良い点、悪い点、一言もガンガンお寄せください。

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