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真夜中のフェーン  作者: あじポン
第一章
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8. 生徒会 ~Trespasser~

 目が覚めると高い天井。いつも寝起きに見る天井は低かったはずだが。

 

 ああ、そうだ。妖怪の通う学校に入学したんだった。


 自分の頬を指でつねってみる。夢おちであることを期待するが思いのほか痛く、逆に現実であることを痛感させられた。僅かな希望を断たれたことに落ち込みながらも、本日の行動を開始する。


 寝室から出ると、サラが談話室で教科書の整理をしていた。


「おはようございますわ。よく眠れましたか?」


「おはよーう。そりゃもうぐっすり。こんなに(精神的に)疲れたのは久しぶりだよ」


「今日は早めに荷物の整理を終えてください。生徒会長さんがお見えになる前に、仁さんには妖怪の最低限の基礎知識を教えますわ。人間が想像しているのと実際では少々ズレがありますから。

 あと、もうすぐ朝食の時間ですからディランさんを起こしてもらえますか?」


「了解っす。レベッカはもう起きてんの?」


「はい。今は部屋の侵略を開始してます。私も知らない魔具を陳列してますわ。」


 何だそれ? ちょっと気になる。よし、後で見に行ってみよう。

 だがまずはご飯。晩飯を食べずに寝たから、腹が減って仕方がない。とっととディランを呼び覚まして食堂へレッツゴーだ。



 ベッドでは幸せそうな顔をした悪魔が寝息を立てている。起こすのがもったいないくらい、良い寝顔だ。しかし朝食のためなら遠慮はしない。


「お――い朝だぞ――! 起きろ―― 」

 

 反応なし。軽く肩を揺さぶりながら、次は耳元で言ってみる。


「お――い朝だぞ――! 起きろ―― 」


「耳の近くで声出すんじゃねぇ。もう少し寝かせろ」


 !?

 口調変わってるぞ。朝から機嫌悪すぎだろ。さては本性を表したか?


 ああ、布団をかぶってしまった。いいや俺はめげない。あきらめんぞ。

 意を決して布団を奪おうとするが、なかなか離してくれない。


「う~ん。しつけぇ」

 

 ディランは唸り声にも似た声で呟くと、蹴り飛ばしてきた。


 ぐぼぁ! いい所に入ったぞ、この野郎。



「何してんの。さっさと食堂行くわよ。初日から遅刻はごめんだわ」


 俺が悶えているのを見てか、レベッカがずかずかと男子寝室に進入してきた。ベッドの前で仁王立ちになる魔女。よく確認はできないが、手に何か握っている。


「見てなさい。寝起きの悪い奴には、あたし特製の唐辛子目薬よ」


 もはや殺人兵器だよ。目に入れたら死ぬぞ。


「目に入れるのは流石に可哀想だから、ほっぺに垂らしてみよっかな」


 右頬に数つかの水滴が落ち、着地した部分がじわじわと赤くなっていく。突如としてディランが飛び上がって叫んだ。


「熱っ熱っ! ほっぺが痛いです! 何事ですか!?」


「あんたの目覚ましよ。目はバッチリ開いたでしょ」


真っ赤な液体を見せつけ、得意げにするレベッカ。対してディランは目を潤ませ、口をパクパクさせるのであった。そして俺は絶対寝坊をするものか、と誓うのだった。




               *




 朝食後、再び部屋。一通りの片づけを済ませ、現在はお茶をすすって休憩中。


「いやはや、すみません。低血圧で寝起きが非常に悪いんですよ。うっかりしていると口調もキツくなってしまうんです」


「怒ってないよ。気にすんな」


「本当にすみません」


こじんまりと部屋の隅に佇むディラン。背中からは哀愁が漂っている。



「ディランさんが蝉の抜け殻のようになっていますが、そっとしておきますわ。朝に予告しておきましたが、仁さんに‘妖怪’というものを軽く説明しましょう」


「主に天使、悪魔、精霊、魔物、物の怪、一括りに妖怪ってのは沢山種類がいるの。

 各妖怪には属性があって、自分の属性と同じ属性の魔法を使うことができるわ。稀に他属性の魔法を使える奴もいるけど例外よ」


「仁さんはカマイタチですから、私エルフと同じ風嵐系ですわ。ディランさんは火を吐くので火炎系ですのよ。」


「因みにあたしは例外に属するわ。魔女とか錬金術師はベースが人間だから、属性を気にする必要が無いの。但し、他の妖怪よりも体力や妖力が低いのが欠点ね」


「へぇ――。じゃあどうすれば魔法を使えるようになるの?」


俺は身を乗り出して女子の話に聞き入る。


「特訓ですわ。個々の能力や得意分野がありますから、一概にこうするとは言えませんの。仮に私と仁さんで武器を取り換えたとしましょう。カマイタチは弓を使いこなせますか? 

 恐らくできません。同じ風嵐系でも使える魔法はおのずと違ってきますわ。」


「要は自分で何とかするしかないってことか……」


「でも教頭先生とか生徒会に協力が求められるんだから、大分楽になると思うわ」


「そうそう、やれる範囲で協力するよ~。けど結局は自分の努力がものを言うから、油断は禁物ね~」


 え? いつの間にか小柄な金髪の女性が隣に座り、会話に加わっている。しかもコイツ、俺のお茶飲んでるよ。


「ミーは案内を任された、生徒会のシレーナ・トラグージよ~! 宜しくね」


「どっから入ってきたの!?」


「あそこ~」


 指を差した方向にあったのは開けっぱなしのクローゼット。


「もしかしてあなたが生徒会長ですか?」


 不法侵入を平然とやってのける先輩に対して、恐る恐る確認をとってみる。


「違うよ」


 ああ、良かった。会長じゃなくて。行動を見れば分かる。この人は間違った方向に生徒を引っ張っていきかねない。


「ミーは生徒会副会長。会長はまだ来てないわよ~」


 本当に一瞬。つかの間の安心だったよ。

 困った顔のディランと目が合う。でも俺にはどうすることもできない。ため息がこぼれてくる。



「おいシレーナ!エレベーターの前で待ち合わせにしたじゃないか。何で先に行っちゃうんだよ」


 振り向くと本日二人目の不法侵入者。


「あなたはどこから入っていらっしゃったのですか?」


 サラ、オーラが怖いよ。燃え盛ってるじゃないか。


「玄関だ。ノックをしたのだが返事がなくてな。そこの金髪が面倒事でもやらかしてるかと思って入ってきた」


「遅いよフローズ会長。約束五分前には来てるもんだよ」


「俺は十分前から待っていたぞ。時間を守ってないのはお前の方だ」


「ミーだって待ってたよ。ダクトの中で」


「それは待ち伏せだ!」


 不毛な言い争いをする先輩方。ま、大半が副会長の一方的な言い訳への会長のツッコミなのだが。俺も含め、一年生は呆れかえっている。


この調子では学校案内はどうなるのやら。不安だけが積もってゆくのであった。




今回は妖広辞苑はお休みです。新しい妖怪が出てきた話で設けますので。


誤字・脱字等がありましたら気軽に感想まで。

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