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真夜中のフェーン  作者: あじポン
第一章
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7. 寮生活スタート ~Ceremony that starts by mischief~

妖広辞苑


エルフ


 ヨーロッパにおいて、丘や地下に住むといわれる北欧起源の妖精の一種。時代が下るにつれて小人の妖精だと考えられるようになった。元は見た目も大きさも人間くらいで、男女ともに若く美しく、人間が見ると一目惚れしてしまうといわれた。ただ、人間と違って背中がへこんでいるので区別することは可能だという。


音楽好きでしばしば丘の上などで皆で踊りを踊っているというが、人間の家に棲み付いていたずらをする者もいるといわれる。


神魔精妖名辞典より



 馬車は仁たち四人を正面玄関の前で降ろすと、何事もなかったかのように校舎の奥へと走り去って行った。

 セレナ先輩を見送った後、中へ入ろうと玄関の取っ手に手をかけようとするや否や内側から扉が開いた。


「待っておったぞ。儂についてこい」


 紺色の着物にカモミールの紋章を刺繍した薄い水色の羽織、そして下駄を履いた厳ついお爺さんに案内されるまま、大理石の床を進む。


 一つのドアの前で立ち止まると「この部屋で待機しておれ。長くてあと一時間だわい」と言い残して来た道を戻ってしまった。兎にも角にも部屋に入る。


 大学の講堂を思わせる広めの教室にはすでに数百の生徒らが椅子に座っていた。仲のよさそうな班もあれば、そうでない班も見受けられる。

 俺たちは入口を入ってすぐの椅子に座ることにした。



「流石魔法学校ね。強力な結界が張ってあるうえに、いたるところに魔法がかけてあるわ」


「セキュリティが万全を期している分には安心ですわ。こんな所で学べるなんて感激ですわ。」


「同感です。案内していただいた先生も只者ではありませんでしたからね」


「俺はどうにも落ち着かないよ」


「心配ありませんわ。すぐに慣れますわよ。」


 サラの笑顔が眩しく感じられる。確かエルフは妖怪より妖精と言った方が正しいんだったっけ。この笑顔には学校生活の中での心の癒しだ。そんなアホな考えを脳内で構築しつつ、周りを見渡す。一応人間の姿をとることが決まりとなっているらしいが、髪や瞳の色はさまざま。黒、茶、白、金、銀、赤、はたまた青やピンクや緑なんてのもいる。

 本当に妖怪の学校に来ちゃったんだ……



「定員の四百名を満たしましたので、これより入学式に移ります。大ホールに移動しますので、着いてきてください」


 ……もう少しセンチな気分を味わいたかった。

 感傷に浸る間もなく、若い女の先生の指示に従い再び長い廊下をぞろぞろと歩いてゆく。一行は正面玄関まで戻り、入ったときに見かけた三メートルほどの扉をくぐった。


 光が目に飛び込んできた。


 ホールの天井には大量のシャンデリア。壁には燭台が並び、それらが綺麗に装飾されている。右手に二年生、左手に三年生がすでに座っていた。一年生はベルトコンベアーのごとく流れ作業で座る。最後尾が着席するまでの短い時間だが暇な時間。背中あわせに座っていた銀の長髪を後ろで束ねた先輩に声をかけられた。


「いよっ一年!楽しくやろうぜ!まずは親交を深めるために酒でも飲むかぁ」


 突然の御誘い。未成年なのでここは丁重にお断り。


「コラ、あんま茶化さないノ。ごめんなさいネ、うちの馬鹿ガ」


 隣に座っていたアジアンビューティな女の先輩の毒舌に、ロン毛先輩の眉毛がぴくっと動く。


「馬鹿とか言ってんじゃねーよ!ジョット様舐めると怖いぜぇ」


「相手にしないでネ。空気だと思っていいかラ」


 再び毒を食らうロン毛先輩。おでこに見事な青筋が浮き上がる。


「てめぇぇふざけたこと言ってんじゃねえぞ」


「ちょっかいを出したのはそっちでしョ。脳みそ足りない癖に調子こくナ」


 ぶちっ

 何かが切れた音がした。


「表出やがれ!進級した俺の実力を見せてやる」


「ハッ!やってやろうじゃン」


 随分と喧嘩っ早い先輩もいるもんだ。だがこの時にはホールを出て行った先輩たちと知り合うなんて思いもしていなかった。本当に恐ろしい妖怪であったと寒気を覚えるのはもう少し後の話。




 ***




 ニコラス先生がステージに上がると、生徒たちのざわめきが収まりしんと静まり返った。


「これよりベルナール高等学院の入学式を開始します。一同起立、礼、着席。続いて校長先生の挨拶です。では宜しくお願いします」


 マイクと教卓を譲り、ステージを降ようとした瞬間。ほんの一瞬の出来事。


 ひゅっ


 突如バスケットボールが宙を舞い、教頭の後頭部を直撃。失神へと誘う。


 上級生の中からは「やっちゃったな」「給料減らされるな」との同情の声とくすくす笑いが起こる。対して新入生は呆気にとられている。


 暗幕の裏からバスケットボールを華麗に操った人物が現れた。なんと教頭と瓜二つの顔。


「毎度のことですが今回はおふざけが過ぎています。聞いていますか?」


 気絶してます、あなたの所為で。


「え~おほん。落ち着いてください。私が本物の校長、ルイ・ベルナールです。そこに転がっているのは本校の教頭です。彼の真の顔は・・・気が向いたときにでも見せてもらってくださいな。

 さて仕切り直して挨拶を致しましょう。我が校の教育目標は一.人間との共存を目指し、良い関係を築いていくこと。二.妖怪として強靭な心と体を研くこと。三.本校の名誉を守り、言動に責任を持つこと。そして人間界での生活に慣れるため、特例を除き正体を明かすことを禁じます。以上を守って楽しい学園生活を送りましょう。これで入学式を終わります。二年生諸君は新入生を寮に案内してください。では解散」


 言うだけ言って校長はその場から姿を消してしまった。教頭は他の先生たちによって救護室に運び込まれた。


「え、終わり? 職員の紹介も無いの? てっきり長時間の式典かと思ってた」


「人間界と違って無駄をとことん省いてるのよ」


 仁の疑問に答えたのは突然出現したセレナ先輩。知らない先輩も一緒にいる。


「さっきは言うの忘れたけど、アタシたちの担当はあんたたち五班なの。ということでまたまた宜しくね。因みにこいつはライアン」


「どうも、オレはライアン・マーキュリー。宜しく。本来なら班員揃っての仕事なんだが、諸事情によりオレとセレナだけでの案内になる」


「事情ってほどでもないよ。喧嘩して入学式の直前に出てっ行っちゃっただけ」


 その二名心当たりあるぞ。


「仲が悪いんですか?」


「仲は良いんだけど、相性が悪いんだよね。片や毒舌、片や短気。喧嘩なんてしょっちゅうだよ」


「オレたちには当たり前の風景と化してる。見かけたら巻き込まれる前に逃げろ。正体を明かさない、なんて規則を生徒会員自らが破ってどうすんだか」


「あ、生徒会長に紹介すんの忘れてた。この四人生徒会に入りたいんだってー。会長に言っといてよ」


「ん、別にいいよ。明日は荷物整理用に一日休みが取れるから、紹介ついでに学校案内してやる。極力整理は午前中に全部済ませとけ」


「分かりました。わざわざありがとうございますわ。」


「いえいえ~。毎年迷子が絶えないからね。それに、少しでも早く馴染んでほしいし。ほら話してるうちに寮塔に着いた。一階は大浴場、二階は食堂だよ。」


「お前らの部屋は四階の四〇五号室だ。鍵は一人一つだから失くすなよ。じゃオレらはここで」


 先輩方は寮塔の四階まで見送ってくれると、さらに階段を上へと上って行った。姿が見えなくなる前にお礼をしっかりとしなければ。


「「ありがとうございました~!」」





 学校生活の基盤となる第二の我が家、四〇五号室の前に立つ。ちょっとした期待が胸をくすぐる。レベッカにいたっては目を輝かせている。


「いいですか?空けますよ?」


 ディランが鍵を空けると、すぐさま全員部屋へと流れ込む。何という豪華な内装!まるで高級ホテルのよう。(実際に入った事は無いが……)入ってすぐに談話室。端には小さいキッチンと水周りが完備。奥の二つの扉はそれぞれ男子用女子用の寝室。


 俺は荷物を下ろし、ベッドに転がる。ああ今日は疲れたな。談話室のテーブルにおかれた夕ご飯には目もくれず、深い深い眠りへと落ちていった。





感想バンバンください。お待ちしております。

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