6. 異世界の学びや ~Secret sharing~
妖広辞苑
魔女(魔法使い)
超自然的な方法を用いて他人あるいは社会に害を及ぼすとされる。意図的に他人に災いを与える呪術、用いる邪術師である。
しかし一方で、狭い意味で、中世から近世ヨーロッパの邪術師を魔女とよぶことも多い。箒にまたがって空中飛行したり、大釜で呪薬を調合したりといった魔女のイメージは、このヨーロッパの魔女像によるものである。
Yahoo!百科事典 より
車輪の音が心地よく響く馬車の中、騎手エレナ・デル・カーノ先輩に質問を投げかけた。
「あとどれくらいの時間で学校に着くんですか?」
「んー、二時間くらいかな。それにしてもあんたたち随分と遠くで試験受けたわね。ここからなら人間界行けちゃうわよ」
あれれ?人間界って単語が聞こえたぞ。アルプスの樹海から異世界に突入したか?
……取り敢えずディランに訊いてみよう。
(なあ、ここって人間界じゃないの?)
(正しくは人間界であってそうではありません。仁からしてみれば五百年前の世界ということですね。
つまりは僕たち妖怪の世界と、仁たち人間の世界は時間のずれたパラレルワールドって訳です。ただ僕らは未来の世界をこの世界と区別して人間界と呼んでいるにすぎませんがね。
もちろんこの世界にも人間はいますよ。この間は南アメリカ大陸を見つけたと騒いでいました)
今更ながら言葉が出ない。五百年前、しかも妖怪がはこびる裏の世界へタイムトリップしたなんて。
(いっそのこと女性方に暴露した方がいいんじゃないですか?二人なら力になってくれますよ)
確かに俺は力もないし、この世界を知らない。サラとレベッカなら出会ったばかりだが信用できる。悪魔のささやきが理にかなっているのは承知している。
(けど女子に守ってもらうのは男として恥ずかしいというか・・・)
(そこはプライドを捨てて我慢しなさい。)
(あんたたちーさっきから何コソコソ話してんのよ)
(一体何を暴露するのですか?)
ヤバい!! 話に首を突っ込んできたよ。
誤魔化そうと言い訳を考えつつ、ディランに目配せをする。こいつは口車に乗せるのがうまいからな。(体験談)。話をうまい具合につじつま合わせすればなんとかなる。
(聞かれちゃいましたか。正直に言いますよ。仁は人間で、先の試験で初めて妖怪の力を使いました)
呆気なくバレた! てかバラされた!
(なんで言っちゃうんだよ!)
(黙ってても仕方ないでしょう。真実を話しておいた方が後々手助けがしやすくなります。……それに嘘をつくのは僕自身が最も卑しむ行為ですから)
(会った時から分かってましたわ。その時は全く妖気が感じられませんでしたから。ガーゴイルを倒したあたりから僅かに感じれましたけれど。)
(全然気付けなかった。てっきり妖力の弱い妖怪だと思ってたわ)
なんだ。サラは始めから分かってたんだ。
(仁の妖気の源は相棒のイタチ君ですよね?彼は今どこに?)
仁は腰に下げたひと振りの鎌を取り出し、神妙な顔つきで口を開いた。
(コイツだよ。いきなり変化したんだ。どうやってイタチの姿に戻すのか分からないんだ)
(その鎌だったんですか。僕にはカマイタチのことは分かりかねます。昔に滅んだ日本の大妖怪としか知りませんし……)
(あたしも知らないな。でもイタチの姿をとるってことは使い魔でしょ?召喚術でどうにかならないの?)
(無理だと思いますわ。本体を異次元から呼び出すわけではありませんから。どちらかと言えば変身術ではないかと。)
(どっちにしろ、そんな魔法はあたしたちには使えないわ)
しばしの沈黙。四人とも黙りこんでしまった。
「な~るほど! そりゃ大変ね。良ければ生徒会が力になるわよ」
騎手席に座っていたセレナが首を百八〇度回して軽くウィンクした。
「聞こえてたんですか!?」
一瞬首が千切れたのかと勘違いして飛びあがってしまったが、彼女はデュラハン。首がもともと途切れている妖精。しかし真に驚くべき点は小声の相談が聞こえていたということだ。
「アタシ耳良いの。丸聞こえだったわ。君が今現在人間ってこともね」
あっという間に先輩にまで広まってしまった。とにかく最小限に食い止めなくては。
「くれぐれもご内密にお願いします」
「ふふっどうしよっかなぁ?
でも条件として生徒会会員になってもらうよ。支援するからには極力接触している時間を増やさないとね。それに生徒会の顧問は変身術の権威‘ニコラス・リンドマン’よ!話も聞けて助けも借りれて一石二鳥じゃない?」
「もしかしてニコラス・リンドマンって人間界で“ビックリ人間コンテスト~俺たちは新世界を創る~”に生出演してたでしょ!あたしテレビで見た!あのお腹の顔は忘れられないわ」
「あれね副会長のアイディア。皮膚の細胞を魔法で変えて、もう一つの顔を腹に造ったのよ。もうただの腹に戻しちゃったけどね」
せこっ! 一般的にそれをズルというのでは。
つーかいいのか教頭! 職務はどうした!
「よかったじゃないですか。イタチ君のこと、もといカマイタチについて分かるかもしれませんよ」
「それに生徒会なら仁を妖怪たちと対等に戦えるように指導していただけるかも知れませんわ。」
「人間でも妖怪の力さえあればいいのよ。魔女だって魔法の使える人間なんだから」
「そうよ!生徒会には普通の妖怪よりも強い魔法使いも錬金術師も半妖もいるわ。恐れる必要なんてないわよ」
「ありがとうございます。励ましていただいて。俺もカマイタチの力を使いこなせるよう精進します」
「よく言った!こりゃ特訓が楽しみね。去年一人の半妖が冬休みに生徒会指導の強化合宿をしたの。生と死の淵をさまよって、命からがら生還したわ。その後そいつは学年最強って裏で言われるようになったの。君を特訓してもらうようにアタシから頼んでみるね」
「僕も手伝いますよ。火炎系の魔法ならお任せください」
「あたしも手伝う!簡単なら一通りどんな系列の魔法ならできるわ」
「私も弓や風嵐系魔法なら任せてください」
あれ?話が変な方向に……半妖が死にかけるって人間には相当キツイよね。確かに自分で強くなりたいと言ったけど、難易度高いだろ。それ本当にやる気?
「では私が第二段階を……」
って担当まで決まりかけてるし!!
はぁ、早くも生きた心地がしない。
こうして仁の不安を余所に四人はさも楽しそうに会議を開いていたとか。
「おっ!見えてきたよ。ようこそベルナール魔法学院へ」
目前にそびえるは巨大な古城。遺跡として保存されているような立派な中世の建築物だ。大小数知れない塔が周囲をぐるりと取り囲み、中央を一際高く広い建物が陣取っている。
近づくにつれ、淵を薔薇の彫刻で象った校門が乾いた音を立てて、自然と開いていく。
「第五班の到着です」
先輩の報告と共に馬車は軽快な足取りで門をくぐった。
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