勇者だった、僕たちは
「勇者の花嫁はバカなのか」セドリック視点のお話です。
ざまぁはありません。
懐かしい香りに振り向く。
たくさんの人が行きかうマルシェで立ち止まった俺は、焦げ茶色の髪の背の高い男と目が合った。
「セドリック」
驚きながらも俺の名前を呼んだその男は、俺が勇者だった頃の仲間の一人だった。
俺の両親は貴族にしては珍しく恋愛結婚だったらしい。
幼い俺の目から見ても、父と母の仲は良く、二人はいつも一緒だった。
それが変わったのは、俺が九歳、弟が六歳の頃。
母親が突然、消えたのだ。
母を愛していた父親は血相を変えて母親を探した。
屋敷で時折見かける程度になった父の顔色は悪く、眼は落ちくぼんでいた。自分の父親だというのに、まるで死神のようなその容貌にゾッとしたことを覚えている。
三か月程経ったある日、母は棺桶の中に入って帰ってきた。
急病で亡くなったことにされたのは、失踪の末の死では外聞が悪かったからだろう。
「セドリック、お前は父さんの傍を離れないでくれ」
そう言って父は俺を抱きしめて泣いた。
俺は母親似だと周囲の人にはよく言われていた。
母親によく似た面立ちの俺の顔を見ることは、父にっては慰めとなるらしく、朝も昼も夜も、何度も呼ばれては顔を見せてくれと請われた。
母が亡くなって二年、短かった俺の髪は肩につくほど伸びた。さすがにドレスを着ろとは言われなかったが、白のフリル付きのシャツにシンプルな黒のトラウザーズといった男装の麗人のような中性的な服を使用人に渡される日々。
その頃になると、父親が俺を通して母親を想っていることに気付いていた。母親の代わりをさせられるようなことはなかったが、俺はもう、彼の眼には息子としては映っていなかった。
愛する妻を思い出させてくれる人形、そういった存在だっただろう。
領地が隣り合っているロドンディ男爵家とは、親同士、子供同士の年齢が近かったからか、母親が生きている頃から、家族ぐるみの付き合いがあった。
母が亡くなってからその頻度は減ったものの、時折続いていたその食事会で、俺は一歳年下のモニカのスカートが捲れていることに気が付いた。
お手洗いに行ったときに捲れてしまったのだろう。注意することで彼女に恥をかかせるのも悪いと思った俺は、誰にも知られず戻してあげようと彼女に近寄り、スカートに手を掛ける。
何かを感じ取ったモニカが振り向き、その拍子に俺の手からそれは離れ、ヒラリとスカートは舞う。
「きゃあ!! 何するのよ!!」
甲高いモニカの声とともに下から突き上げるような衝撃を顎に感じて、気が付くと俺は床に倒れていた。
「うちの息子が申し訳ない」
「子供のすることですから」
そんな親同士のやりとりを聞きながら、ジンジンと痺れるような熱さを感じる顎を抑えたまま、モニカを見る。
「スカート捲りなんて子供みたいなこと、最っ低!」
涙目で俺を睨みつけるモニカに言い訳もせず「ごめん」と小さく謝る。
その次に会ったのは、モニカの誕生日パーティーだった。
「セドリック、来てくれてありがとう」
俺が贈った花束を胸に抱えたモニカのスカートを、俺は勢いよく捲った。
「きゃーーーー!!!!」
叫ぶモニカに、俺は声を出して笑う。
「もう! 信じらんない!! 馬鹿セドリック!!」
そう言いながら、腰の回転を利かせた左フックが俺のみぞおちに決まった。
目が覚めると見知らぬベッドの上で、またも涙目のモニカがいた。
モニカの左フックをまともに食らった俺は気絶してしまい、彼女の家の客室に寝かされて、今日の主役だというのに、モニカは俺に付き添ってくれていたようだ。
「加減したつもりだったんだけど、ごめんなさい。でもあなたがスカート捲りなんて幼稚なことするから悪いのよ」
言葉では責めながらも心配そうに俺を覗くその目に映るのは、俺だけ。
父にとって母親を想いだすための人形で、屋敷の中でも俺は父親の機嫌取りの道具で腫物のような扱いだった。
弟は俺が優遇されているのだと思い、小さなヤキモチの積み重ねが拗れ、最近はあまり口をきいてくれなくなっていた。
「モニカがあんまり可愛くって、ごめんね」
ボンッと顔が赤く染まったモニカが可愛くて、痛む体なんてどうでもよくなった。
「ドレス、似合ってる。誕生日、おめでとう」
「パーティーの途中だった。戻らなくっちゃ!」
「セドリックはまだ休んでいてね」そう言ってモニカは部屋を出て行った。
一人になった部屋を見渡すと、壁にかけてある額縁に目がいく。
絵ではなく、文章の、表彰状のようなそれを近くで見ようとベッドを降りる。
それは拳闘技八級と書かれていた。
モニカが習い始めた拳闘技の昇級が嬉しいのだろう、誇らしげに客間に飾らっている彼女の家族が微笑ましくて、いいな、と思う。
それがたった数年で異例の速さで免許皆伝までいくことは、この時の俺には知る由もなかったが。
俺は家に帰ると、父親に馬鹿なことをするなと叱られた。
父の望まぬ行動をした俺の目を、彼は見ない。
ただ、親として義務であるから注意をしているだけ、といった様子に、俺は改めてガッカリした。
「モニカは髪も目も綺麗な色で、数年もしたらどこかいいところの貴族に見初められてお嫁にいっちゃうのかな」
ハッとした表情の父は今、モニカを思い出していることだろう。
妻であり、俺の母親だったあの人によく似たプラチナブロンドにエメラルドグリーンの瞳を。顔つきこそ似てはいないものの、その色合いはまるで親子のようによく似ていた。
「関所に繋がる道を舗装する申請が出てたよね? うちの領地と隣のロドンディ男爵家の領地を通してもっと大きな街道にするっていう案が以前出てたと聞いたけれど、そっちの話は進んでないの?」
父親の傍にいることが多い俺は、領地の内政についても耳に挟むことがあった。
俺の言葉に黙り込んだ父は、数日後、業務提携を前提にロドンディ家に俺とモニカの縁談を申し込んだ。
俺は婚約者になったモニカに会うたびに、相変わらずスカートを捲ろうとするが、二度も捲られたモニカはひらりと身をひるがえしてそれを躱す。
得意げな彼女の顔が可愛くって、俺は何度もそれを繰り返す。時折成功した暁には、どんどん強くなる彼女の拳を受け止めるはめになったけれど。
明るくって頭がよくって、俺の瞳をまっすぐ見てくれるモニカ。
俺は彼女が大好きで、いつも傍にいたかった。
母が亡くなってから数年は俺を傍に置きたがった父親も、男らしく成長していく俺に次第に興味を失っていったようだった。
それでも、父と俺と弟の関係は歪なままで、居心地の悪さからか屋敷で働く使用人の入れ替わりは多かった。
彼らは仕事の引継ぎのついでのように俺の両親の話を新人に聞かせて、それを俺は偶然にも何度も聞く羽目になる。
話をつなぎ合わせると、恋愛結婚だったというのは父親側の認識のようで、母は恋仲の使用人がいたが、家の都合で父と結婚したようだった。
俺の記憶では父に愛され幸せそうに見えたが、実際には使用人だった男と逃げて、父に見つかり、死体となって我が家に帰ってきたという。
母によく似た容貌の俺と、母にも父にも似ていない弟は本当にこの家の血は流れているのかと、笑って語られる。
母親によく似た俺と、彼女によく似た色合いを持つモニカ。俺達二人がそろっていると父親は眩しいものでも見るかのように目を細める。時折「早く孫の顔が見たい」と言う父親の真意を尋ねる勇気は、俺にはない。
俺はモニカを愛しているし、早く結婚したいと思っている。
けれど、俺と結婚することでモニカは幸せになれるのだろうか。父親と同じように、恋愛しているというのは俺だけの勘違いかもしれない。全力で俺が彼女を幸せにしようと頑張っても、二人の間に子供が出来たらどうだろう。
俺にそっくりな顔の、モニカの色合いの女の子が生まれたら、俺の父は狂ってしまわないだろうか。
それでも俺は現実を忘れたくて、家にはほとんど寄り付かず、モニカの傍で彼女に愛を囁いて日々を過ごす。
彼女への愛情に偽りはない。
けれど、俺と結婚することがモニカにとって最善の幸せとは限らないことを、本当は知っている。彼女の傍を離れることが出来ないのは、俺のエゴだ。
俺に強さがあったのなら、俺は彼女との婚約を破棄するべきなのだ。彼女の幸せを願うのなら。
一つ年下のモニカが十六歳になったら結婚しようと約束していた。
十五歳になったモニカの唇に口づけを落とす。
あと一年で、俺たちは夫婦になるはずだった。
突然、金髪の青い目の貴族(またはそれに準ずる者)が招集された。
わけがわからず城に集められた同じような色合いの俺達に、偉そうな男が告げる。
「先日、聖女様が現れた。聖女様のお言葉により、この中から勇者を選別する」
お伽話のような『聖女』の話は、この国の者ならば誰しも知っている。しかし現実とは思えなくてザワつく俺達の前に現れたのは、黒髪黒目の小柄な女の子だった。
聖女様だと紹介された少女は、さして考えるでもなく、七人の勇者を選んだ。
その中に、俺もいた。
わけがわからないまま、俺は城に留め置かれた。
三日後、黒い雨が降ったと、聖女様と他の勇者達とともに現地向かうことになった。
馬車を降りたそこは、現実とは思えない光景が広がっていた。
もうすぐ収穫の時期を迎えるはずだった作物は枯れ、地面は日照り後のようにひび割れている。
その集落全体が黒い何かに覆われているかのように淀んだ空気を感じた。
体が重く、脂汗が出る。
説明のために出てきた集落の長が握手のため左手を出す。
長袖が捲れ、骨が露になった腕が目に入る。
突然降り出した雨に打たれた影響だというその腕は、どうして正常に動かせているのかわからない異様さを俺達に見せつけた。
言葉に詰まる俺達をよそに、聖女様は彼の手を両手で握った。ポトリ、彼女の瞳から涙が零れ落ちる。
枯れた地面に一滴の雫が染み込み、聖女様の周辺が一斉に生命力を取り戻した。
「聖女様のお力だ」
そう言って、聖女様に一番に勇者に指名された男が、彼女の涙を拭う。その濡れた手で集落の長の手首をするりと撫でた。
すると、見る間に皮膚が再生され、骨は見えなくなる。元がそうであっただろう壮年の腕へと戻っていった。
「奇跡だ」
俺は思わず呟いた。
重苦しかった空気がまるで清浄されていくかのように、呼吸も楽になっていく。
あどけない、子供のようにさえ見えるこの女の子は紛れもなく聖女様だと認識した瞬間だった。
黒い雨が魔王の仕業であり、その被害を救う方法は聖女様の涙だけであることがわかった。魔王の存在がどんなものかはわからなかったが、それ以降、黒い雨が降ったと情報が入る度に、俺達は向かった。
あの黒く淀んだ場所を浄化出来るのは聖女様の涙だけだった。
聖女様の傍にいると、心の中が静かだった。
モニカのこと、父のこと弟のこと、家のこと。いつもぐちゃぐちゃと言い訳のようなことを考えてはモニカへの恋慕で押し切っていたけれど、次第に考えることがなくなる。
目の前に迫る黒い雨の恐怖と、聖女様の傍にいる安心感。
聖女様はあまり口数が多い方ではないけれど、誰の話も真剣に聞いてくれて、時には笑い時には涙を流して、俺達に寄り添ってくれた。
俺の醜い話も、聞いてくれた。婚約者のために別れたほうがいいと思っていると言った俺の言葉に頷くでも否定するでもなく、涙を流して、人々を救った。
黒い雨は不思議と国内にしか降らず、けれど一度降ったと情報が入れば、どんなところでも行かなければならない。次第に雨が降る頻度は上がり、城に戻ることもなく数か月の旅が続くこともあった。
それでも、聖女様がともにいてくれるならば、俺を含む勇者全員が文句も言わず、彼女のためにと進んだ。
雨が降る頻度が上がり、黒い雨の淀んだ空気に、被害地の悲惨な状況に疲弊しきっていたけれど、その合間には城で文献を読み漁り、魔王を倒すための討論を重ねた。
そんなある日、聖女様が一人の勇者と旅に出ると言い出す。
これまで聖女様は七人いる勇者を全員平等に扱ってくれていた。全員を大切に、同等に扱ってくれていたというのに。
当然、俺達は受け入れることが出来なくて聖女様に縋った。
聖女様は聞き入れてくださって、その勇者と二人きりになる必要があるけれど、その直前までは他の勇者達もともに旅に出ることを提案してくれる。
この国の第二王子だった勇者が悲しい思い出があると言っていたその場所に、聖女様は二人で出かけて行かれた。
俺達勇者は、眠ることも出来ず、ただ聖女様を想って一晩を過ごす。
やがて夜が明けるとともに、ずっと暗く曇っていた空が朝日が上がるとともに晴れわたる。霧雨のような柔らかな雨が降り注ぎ、大きな虹が空に架かった。
それから数時間後、聖女様と勇者の一人は手を繋いで戻って来た。
出会った頃からずっと仄暗く人を寄せ付けないオーラを出していた第二王子は、穏やかな微笑みを浮かべ、愛おしそうに聖女様を見つめる。
俺達は理由がわからないまま、魔王が消えたことを理解した。
俺達の戦いは、終わったのだ。
俺を含む勇者全員が、聖女様とともにあることが心の拠り所になってしまっていた。
魔王を倒してしまったら、俺達勇者はどうすればいい。どうやったら聖女様とともにいられる? 不安が押し寄せる。
けれど、聖女様が国王陛下に言ってくれたのだ。
「わたしは勇者全員を愛しています。彼らが望むのであれば、全員と婚姻関係を結びたいと考えています。魔王討伐の褒賞に何を望んでも言いと仰るのであれば、勇者全員との婚姻の許可を、願います」
一夫一妻制のこの国では認められない重婚を、望んでくださった。
俺達全員を愛しているからと。
愛しい聖女様のお気持ちに涙を流して喜んだ。聖女様は一人を選んだわけではなかったのだ。彼と同じように、俺達のことを愛してくれていた。
しかし、法改正が認められる前に、第二王子である勇者が、その権力を使って聖女様との結婚を国王に認めさせてしまった。
そして、他の勇者にこの機会に実家に帰って凱旋報告をするように、命令を出した。
勇者達は、俺を含めて全員が家族にコンプレックスがある者ばかりで、帰ることを嫌がった。聖女様の傍を離れることも嫌だった。
聖女様がすぐに帰って来るように言ってくれたから、皆、勇気を出して国中にちりじりに帰ることになった。
家に帰ると、父も弟も俺の顔を見て「おめでとう」と言って疲れただろうと優しくしてくれた。以前の俺だったらその家族めいた行動に嬉しくなっていただろうに、なぜか心は動かない。
その翌日には女の人が来た。
綺麗な、でもそれだけじゃない懐かしい女の人。
けれど、俺はなぜか彼女の名前が思い出せない。
困っている俺に、彼女は容赦ない懐かしの右アッパーを繰り出した。
モニカだ! 大好きな、俺のモニカ!!
どうして彼女のことを忘れていたのだろう。こんなに愛しているというのに。
会えなかった数年で美しい女性へと成長したモニカ。
なんて愛おしいのだろう。
俺はわけもわからず涙を流した。
愛している。けれど、傷つけたくない。幸せになってほしい。傍にいたい。会いたかった。
それからの記憶は曖昧で、聖女様を想って夜も眠れなかったり、モニカに会うと愛おしくてけれど彼女を幸せにできないかもしれない不安に胸が締め付けられたり、気が付くと、モニカと結婚式の日を迎えていた。
式を終え、二人で教会の鐘を鳴らす。
明るい金髪の美丈夫が立ちすくんでいる。
「ブランドン」
聖女様の元で一緒に勇者だった仲間だ。
「セドリック! 本当に結婚してしまったのか? 聖女様というお方がありながら」
信じられないと、取り乱す彼の気持ちが痛いほどわかる。
聖女様を愛して、彼女に愛を注いでもらうあの日々は、幸せだった。何も考えず、不安のない世界。
そこから出ることは、怖い。
けれど、俺はモニカを愛している。彼女を幸せに出来ないかもしれない恐怖、それでも彼女の手を離すことが出来ない俺の弱さ。悩んでも、答えが出ない迷路のような人生。
暖かなぬくもりを手に感じ横を見ると、モニカは俺の手を握って微笑んでくれる。
ふわりと、花の匂いがした。
モニカの家の庭に咲いている小さな白い花の香りだ。
外国から嫁いできたという彼女の祖母の祖国の花。この国ではほとんど見かけないその花の甘い香りを嗅ぐと、頭の中がクリアになった。
どんなに辛くて苦しくても、俺はモニカと生きていきたいと願わずにいられない。
その香りを、久しぶりに嗅いだ。
「セドリックか?」
頷くと、背の高い男は屈託のない笑顔を俺に向けた。
「久しぶり。まさかこんなところで会うとは思わなかった。元気だったか?」
「ああ、そっちも元気そうだな」
あの頃は金髪だった髪を焦げ茶色にした祖国の第二王子の陰から、小柄な女性が顔を出す。
「セドリック? わぁ、久しぶり」
相変わらず子供のような顔をした黒髪黒目の女の人。あの頃はいつも張り詰めた顔をしていたけれど、今は無邪気に笑うその人に感じたのは、懐かしさだけだった。
祖国から海を渡った遠いこの国で出会った懐かしい彼らは、あの頃とは比べられないくらい質素な服装で、庶民が行き交う町に馴染んでいた。
結婚してから俺とモニカはまだ旅を続けている。
モニカの小さな鞄の中に入っていた一冊の本。それは老夫婦の旅行記だった。「こういうの憧れちゃって」そう言って笑うモニカの思い描いていた未来は、夫がいて子供がいて、両親と祖父母と笑いあう、そういうものだったことを、幼馴染の俺は知っている。
それなのに、いつしか、子供の話はしなくなっていた。俺が子供を持つことに不安を抱いていることに、いつ気が付いたのだろう。二人きりで幸せだと、時折言葉にしてくれる。
今では夫婦二人で、旅をして祖国からは遠い国にいる。
俺の隣で毎日笑ったり怒ったり、忙しく表情を変えて、傍にいてくれている。
「聖女様と勇者は追放されたと、聞いたけど」
小さな声で第二王子だった男に尋ねる。
「あの国から出て、他の勇者達も憑き物が落ちたかのように離れて行ってくれたんだけど、放っておくと彼女の周りには人が集まってしまうんだ」
苦労なんかしてなかったかのように、彼は目を細めた。
「でも、不思議とこの香水の匂いがあると変な人間が寄ってこなくて重宝してる。この香水だけは切らせない。マリーは僕だけのものだからね」
彼もまた、悩み苦しんで、それでも愛する人とともに一緒にいることを選んだのだろう。
俺達の恋は、愛は、物語のような綺麗ごとばかりじゃなくて、誰かを傷つけたり踏みにじったりする先にある幸せ。
遠くに俺を見つけて手を振るモニカが見えた。
「モニカーー!! 愛してるーー!!」
俺のバカみたいな大声に、モニカは大声で返してくれる。
「わたしも愛しているわ、馬鹿セドリック」
勇者だったあの頃、聖女様の愛に包まれていたあの日々は幸せではあったけれど。
悩んでも苦しんでも傷付けるかもしれなくても、俺が選んだのはモニカを愛すること。
全力でモニカを愛すると、決めたんだ。
数ある作品の中から見つけてくださり、読んでくださり、ありがとうございます。
ブックマーク、評価、いいね、どれもとても嬉しいです。