#008RozeBiteの裏と表──運命を変えた15秒
配信を終えたその瞬間、橘カレンはヘッドセットを外して、ぐったりと椅子にもたれかかった。
胸の奥が、ずっとざわざわしている。
笑って毒舌を飛ばした。翻訳字幕まで出して、盛り上がった。
……でも、それって本当に“自分”なの?
《StreamLink》グループチャット:Re:Live所属Vtuberメンバー
狐森このは:
「カレンちゃんやばすぎwww “Touch grass” でうちのリスナー死んでたwww」
雪城ルナ:
「Roze様の毒舌、あれはもはや芸術ですね……」
「でも、ずっと隠してた英語、どうして急に?」
雛乃うらら:
「うららもやりたーい♡ “Stupid”って言えばいいのかな?えへへ♡」
カレン:
「みんなありがと……でも、あれはただの事故なんだよ。本当は……隠してたかったのに。」
カレンのモノローグ
「あのときの“癒し系”は、演じてた部分もあったけど、少なくとも“毒舌英語キャラ”が私の本質ってわけでもない」
「それなのに……。
みんな、私の“裏”を“真の姿”だと信じてる」
笑顔で毒舌を飛ばすキャラ──
それが世界のRozeBiteとして認知され始めている。
Re:Live 運営本部:マネージャー視点
デスクのモニターに映るのは、最新のアナリティクス画面。
「同接28万突破……」
「Fのトレンドが48時間以上維持……」
「アメリカ、イギリス、フィリピン、オーストラリア……海外からの流入率が70%超えました」
マネージャー・神田は眉をひそめつつ、嬉しさを隠せなかった。
「……まさか“ミュート切り忘れ”が、ここまで跳ねるとはな」
部屋のホワイトボードには、
《RozeBite 海外展開戦略》のメモがズラリと並んでいた。
Voisync公式による字幕支援
コラボ候補:英語圏Vtuber 3名
スポンサー:翻訳アプリ企業との提携交渉中
毒舌系ミームグッズ企画進行中(例:「Touch Grass」マグカップ)
「カレンの迷いは理解してる。だけど……」
「彼女は今、Re:Liveにとって“主力”だ」
視聴者側の翻訳演出
Voisync上にアップされた切り抜き動画には、自動字幕とコメントが殺到していた。
《タイトル:RozeBite DESTROYS chat with savage lines!!》
RozeBite: 「If your comment is that dumb, close the tab and go touch grass.」
『バカみたいなコメントするなら、タブ閉じて草でも触ってな』
コメント欄:
「女神なのに言葉が地獄で最高」
「Touch grass=落ち着け って意味らしい」
「日本人の毒舌より癖があって良い!」
ベッドの上でスマホを握りながら、《F》の通知を無言で眺めていた。
数分ごとに、タグが跳ねる。海外のファンアート、自
作Tシャツ、翻訳Botアカウント。
「私、何やってるんだろ……」
癒し系を演じていたのは、安心感を与えたかったから。
でも今、求められてるのは刺激。痛快さ。異端のアイドル。
「英語ネイティブだって、どうして黙ってたんだって言われるけど……それが“私”だったのに」
静かな涙が一粒、スマホの画面に落ちた。
そのとき、《StreamLink》の通知がピコンと鳴る。
マネージャー・神田:
「今週末、英語圏との初コラボ、決まりました。詳細は別スレッドで」
カレンは、その通知を既読にもせず、スマホを伏せた。
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