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#078 : LAの光


長時間のフライトを経て、美咲とカレンを乗せた飛行機は、ついにアメリカ合衆国、カリフォルニア州ロサンゼルス国際空港(LAX)の滑走路に着陸した。


窓の外には、抜けるような青空と、強烈な南カリフォルニアの太陽の光が溢れていた。


「着いた……」


カレンが、少し掠れた声で呟いた。彼女の顔には、長旅の疲れと、新しい世界への緊張が入り混じっていた。


「うん、カレン。ロサンゼルスだよ」


美咲は、カレンの手を握り、機内での休息によって回復した笑顔を向けた。




機内のドアが開き、二人は、異国情緒あふれる空港のターミナルへと足を踏み出した。肌に触れる空気は、日本とは全く違う、乾いた、少し埃っぽい匂いがした。広大なターミナルの通路を歩きながら、カレンは、無数の外国語が飛び交う喧騒に、思わず立ち止まった。


「ねぇ、美咲。すごい……本当に、色々な人がいるのね」


「うん。ロサンゼルスは多文化都市だからね。色々な国の言葉、人種、文化が混ざり合っているんだよ。まさに、Project Harmonyの最初の舞台にふさわしい場所だね」


美咲は、その喧騒をまるで音楽のように楽しんでいるようだった。その明るさが、カレンの緊張を少しずつ解きほぐしていく。


入国審査を終え、荷物受け取りのターンテーブルで、二人は自分たちのキャリーケースと、厳重に梱包された配信機材のケースを見つけた。荷物を受け取ると、ロビーへと進んだ。


ロビーには、「Project Harmony」と書かれた小さなボードを持った、アジア系の女性スタッフが立っていた。彼女の隣には、体格の良い男性スタッフもいる。


「橘カレンさん、美咲怜さんですね。ようこそ、ロサンゼルスへ!」


女性スタッフは、流暢な日本語で挨拶をしてくれた。




現地スタッフの案内で、二人は黒塗りのSUVに乗り込んだ。車内は涼しく、少しだけ緊張が解けた。女性スタッフがタブレットを美咲に差し出した。画面には、日本の神田マネージャーからのビデオメッセージが映し出されていた。


「美咲さん、カレンさん、無事の到着おめでとう。さて、ここからが本番だ。君たちの最初の宿泊地は、ハリウッドにほど近い、セキュリティの整ったアパートメントを用意した。まずはそこで休んでほしい」


神田マネージャーは、いつもの穏やかな口調ながら、しっかりと指示を出した。


「安全については、現地スタッフが24時間体制でサポートする。特に、カレンさん。君の毒舌は世界共通の破壊力を持つが、不必要なトラブルは避けてほしい。美咲さんは、機材とカレンさんの体調管理を頼むよ」


画面越しにそう言われると、カレンは少しむくれた表情をした。


「まったく、最後まで余計な心配ばかりね」


だが、その口調には、神田マネージャーへの信頼と愛情が滲んでいた。


「そして、最も重要なことだ。明日のロサンゼルス時間、午後7時に、最初のロケ配信を敢行する。内容は、ロサンゼルスの夜景と共に、旅の目的を改めてファンに伝える、というものだ。長旅の疲れがあるだろうが、準備は怠らないように」


美咲は、メッセージを最後まで見終えると、深く頷いた。


「ありがとうございます、神田さん。全て承知しました」


現地スタッフが、二人に改めて自己紹介をした。女性スタッフはアイコと名乗り、男性スタッフはボディガード兼ドライバーのジョンと名乗った。


「旅の間、私たちが皆さんの安全と配信を全力でサポートします」とアイコは言った。


美咲とカレンは、異国で得た心強いサポートに、改めてプロジェクトの規模と、その重みを実感した。




車は、フリーウェイを走り、ロサンゼルスの街並みへと入っていった。窓の外には、これまでの日本の景色とは全く違う、広大で、カラフルな建物や、やしの木が立ち並んでいた。


「見て、カレン! ハリウッドサインが見えてきたよ!」


美咲が指さす先には、遠くの丘の上に、世界的に有名な巨大な看板が見えた。


「本当に、夢みたいね……。あの看板の前で、私たちが配信をするなんて」


カレンは、その光景を、まるで映画のワンシーンのように見つめていた。


アパートメントに到着し、セキュリティチェックを通過して部屋に入った。部屋は、モダンで広々としており、大きな窓からはロサンゼルスの街が一望できた。


「わあ……すごい夜景!」


美咲が、窓辺に駆け寄った。眼下には、無数の車のライトと、街の明かりが星のように広がり、壮大なパノラマを描いていた。


「時差ボケは大丈夫?」


カレンは、荷物を整理しながら、美咲に尋ねた。


「大丈夫だよ。私はわりと平気だから。それより、カレンは、少し横になった方がいいかも」


「大丈夫よ。私の辞書に時差ボケなんてないわ」


カレンはそう言ったものの、美咲の優しさに感謝し、ソファに深く腰掛けた。


美咲は、休む間もなく、配信機材の入ったケースを開けた。長時間のフライトで機材に異常がないか、一つ一つケーブルやバッテリー、カメラの状態を入念にチェックしていく。


カレンは、そんな美咲の真剣な横顔を見つめていた。


「ねぇ、美咲」


「ん? どうしたの?」


「私たち、本当に、ここに来たのね。あなたの隣で、私は新しい世界を見るのね」


カレンは、そう言って、美咲の配信機材をチェックする手に、そっと自分の手を重ねた。


美咲は、作業を止め、カレンの方を向いた。


「うん。カレンと一緒だから、私はここまで来られたんだよ。明日からの配信、不安だけど、楽しみだね」


美咲の言葉に、カレンは、深く頷いた。


「ええ。不安は、私たちのプロ意識で打ち消すわ。そして、世界中のリスナーに、最高のハーモニーを届けてあげる」


二人は、窓の外に広がるロサンゼルスの夜景を背に、互いの決意を確かめ合った。明日、この街から、Project Harmonyのロケ配信が始まる。


夢の舞台は整った。二人の新しい挑戦が、今、始まる。

読んでくれてありがとうございます。

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