#006 事務所の裏で、静かに燃えていた
橘カレン――いや、“RozeBite”の毒舌英語ミュート事故から数日。
配信プラットフォーム《Voisync》の切り抜きは、SNS《F》を中心に瞬く間に拡散されていた。
「このVtuber、本物すぎるwww」
「I don’t know who she is, but I love her alread
y.」→(彼女が誰か分からないが僕はすでに彼女が好きだ)
「#RozeBiteの本性」←Fでトレンド1位
癒し系キャラだったはずのカレンが、突然“暴言系毒舌V”に変貌を遂げた――
いや、そう見えてしまった世間の流れに、Re:Live所属メンバーたちは衝撃を受けていた。
StreamLink(カレンの事務所リライブ専用グループチャット)
狐森このは
「ねえねえ見た!?Fのトレンド、ローズ先輩ばっかり!」
「“Bite me more, RozeBite”って何そのタグ!カッコよすぎ!」
宵咲ネア
「ロゼ先輩、清楚で売ってたのに大丈夫かな、?本当に方向転換しちゃったのかな、……」
「でも、毒舌カレン先輩ちょっと好きかも……ふふっ」
雪城ルナ
「まさか英語で“shut your dumb mouth”とか仰るとは思いませんでしたわ」 ↑(馬鹿な口を閉じろ)
「ギャップ萌え、ですのね。理解しました」
アッシュ=エリオ
「RozeBite、覚醒。今、世界が目を覚ます」
「……と、俺の中の中二が言っている」
雛乃うらら
「うららちゃん、清楚枠いただきました♡(自動RT済)」
「でも英語は読めないからあの毒舌、なんかかっこよく聞こえるんだよね〜!」
そのやりとりを読みながら、カレンは枕に顔を埋めていた。
「お願いだから……F見ないで……っ!」
“癒し系キャラ”というイメージと、
“ネイティブ英語毒舌キャラ”という現実。
そのあまりのギャップに、自分自身がついていけない。
StreamLink/運営マネージャー:樹島
「RozeBiteさん、海外イベント出演のオファーが来ています」
「Voisync側とも調整中。英語翻訳チームも全力サポート体制に入ります」
「あと、Fのアカウントは本人直筆投稿が望ましいとの声が多く、方針検討中です」
(ちょ、ちょっと待ってよ……!
思わず《F》を開くカレン。
通知が“999+”の勢いで光り続けている。
中には、例の配信事故の切り抜きが再投稿されていた。
【切り抜き】RozeBite's English Meltdown fire
「You call that a comment? Even bots talk smarter than you.」
(そんなのコメントって呼べる? AIの方がまだマシよ)
――世界中が、“本当の彼女”に気づき始めていた。
カレンは、スマホを伏せた。
そして、ぽつりと呟いた。
「こんなはずじゃなかったのに……」
それでも。
“期待”は、もう彼女の背中を押している
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