#055 : Vlog撮影とてぇてぇ
新しい生活が始まって、一週間が経った。
美咲とカレンは、リスナーからの要望に応え、「二人暮らしVlog」の撮影を始めることにした。
テーマは、二人で考えた「モーニングルーティン」。カメラは、事務所から借りてきた高性能なもので、二人暮らしの日常を、3Dモデルで映し出すという、少し変わった企画だ。
「よし、美咲! 準備はいい?」
カレンは、ベッドルームで、眠そうな顔をした美咲に、そう声をかけた。
「んー……準備、OK」
美咲は、そう言って、カメラを構えるカレンに、にっこりと微笑んだ。
『二人暮らしのモーニングルーティン、スタートです!』
カレンは、いつもの元気な声で、Vlogの撮影を始めた。
Vlogは、朝の光が差し込む部屋から始まる。カメラは、寝起きの美咲を映し出す。美咲は、まだ少し眠たそうな顔で、ベッドから起き上がり、大きく伸びをする。
(おはよう、美咲)
カレンが心の中でそうつぶやくと、美咲は、カメラに向かって、少しだけ照れたように微笑んだ。
「朝だよ、カレン」
美咲は、そう言って、カレンのベッドに近づき、カレンの髪を優しく撫でた。カメラは、美咲の手が、カレンの髪に触れる様子を、丁寧に映し出す。
美咲は、朝食の準備に取り掛かった。カメラは、美咲がフライパンで、オムレツを作る様子を、美咲のモデルが可愛らしい動きで表現する。
「美咲、ちょっと待って!」
カレンがそう声をかけると、美咲は、少しだけ不思議そうな表情を浮かべた。
「どうしたの?」
「美咲の真剣な顔、可愛すぎるから、アップで撮らせて!」
カレンがそう言うと、美咲は、少しだけ照れたように笑い、カメラから顔を背けた。
『美咲の真剣な顔、ゲットです!』
Vlogのナレーションは、カレンの明るい声で、そう語りかけた。
Vlogは、美咲が作ったオムレツを、二人が一緒に食べる様子で終わった。
「いただきます!」
二人がそう言って、手を合わせる。それは、ごく普通の日常の風景だったが、Vlogという形で映し出されると、特別なものになった。
撮影を終えた後、二人は、リビングのソファで、Vlogの映像を確認した。
「わあ……なんか、変な感じだね」
カレンは、3Dモデルの自分たちが、朝食を食べている映像を見て、少しだけ照れたように笑った。
「でも、可愛いね、ロゼ」
美咲がそう言うと、カレンは「美咲の方が可愛い!」と、美咲に抱き着いた。
美咲は、カレンを優しく抱きしめ、カメラに映る自分たちの姿を見つめた。
(私たちが、こんなに幸せそうに笑ってるなんて、知らなかった)
美咲は、そう心の中でつぶやいた。
Vlogに映し出される二人の姿は、いつも、笑っていて、お互いを思いやっていた。それは、ランカーとして苦しんでいた頃には、決して見ることのできなかった表情だった。
「ねえ、美咲……私、もうVTuberとして、無理に頑張らなくてもいいかなって思うんだ」
カレンがそう言うと、美咲は、カレンを抱きしめる腕に、そっと力を込めた。
「うん。ロゼは、ロゼのままでいてくれたら、それでいい」
美咲の言葉に、カレンは、安堵の表情を浮かべた。
二人は、Vlogの映像を最後まで見続けた。そして、映像の最後の、二人が一緒に笑っている場面で、映像が止まった。
「ねえ、美咲。これ、すごくいい感じに撮れたね!」
カレンは、そう言って、美咲に笑顔を向けた。
美咲は、カレンの笑顔を見て、心からそう思った。
(私は、カレンの笑顔を、守りたい)
夜になり、二人は、ソファでくつろいでいた。
カレンは、今日のVlog撮影で疲れたのか、美咲の肩にもたれかかり、うとうとし始めた。
美咲は、そっとカレンの頭を撫でた。
「ねえ、カレン」
美咲がそう声をかけると、カレンは、んー、と小さくうめいた。
「もしよかったらさ……ちょっとだけ……」
カレンは、そう言って、美咲の膝を指差した。
美咲は、カレンの意図を察し、にっこりと微笑んだ。
「はい、どうぞ」
美咲がそう言うと、カレンは、美咲の膝に、そっと頭を乗せた。
美咲は、カレンの髪を優しく撫でながら、今日のVlogや、これからの二人の未来について語りかけた。
「私たち、これからも、いろんなことに挑戦していこうね」
美咲がそう言うと、カレンは、美咲の膝の上で、小さく頷いた。
「うん……二人なら、大丈夫」
カレンの声は、安堵に満ちていた。
美咲は、カレンの頭を、優しく撫で続けた。
(ありがとう、カレン。私を、幸せにしてくれて)
美咲は、そう心の中でつぶやいた。
それは、カレンが一人で苦しんでいた頃には、決して抱くことのできなかった感情だった。
二人の間には、言葉はなかった。ただ、お互いの温もりを感じるだけで、二人の心が、永遠に一つになったことが分かった。
それは、膝枕という、言葉を越えた、最高の「てぇてぇ」だった。
二人のVTuberとしての物語は、今、新たな章の扉を開けた。
読んでくれてありがとうございます。
ぁあ最高。