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ミュートを忘れたら英語ネイティブVが世界一になった話  作者: 久家
第二章 : 二人の物語、二つの世界
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#049 : 重荷と決意

 


 配信の画面には、カレン(RozeBite)のアバターが映っていた。配信タイトルは「イグニッション ランクマッチ」。


 カレンは、黙々とゲームをプレイしていた。会話はほとんどなく、リスナーからのコメントにも、ほとんど反応しない。ただ、画面に映る敵を、淡々と倒していく。その正確で無駄のないプレイは、見る者を圧倒するが、以前のような熱狂はそこにはなかった。


「Are you okay, RozeBite?」

(大丈夫? RozeBite)


「You don't seem like you're having fun.」

(楽しんでないみたいだね)


 そんなコメントが増え始めたとき、カレンはコントローラーを握る手に、思わず力を込めた。


(楽しんでない? うるさい!)


「楽しむだけじゃ、勝てないんだよ……!」


 カレンは、思わず口に出してしまった。すぐにハッとして口をつぐんだが、その言葉はすでにリスナーに届いていた。コメント欄は、一瞬静まり返り、そして戸惑いの声が増えていく。


「What's wrong with her?」

(彼女に何があったんだ?)


「I'm going to unsubscribe...」

(チャンネル登録解除するわ...)


 カレンは、そのコメントを見て、自己嫌悪に陥った。これまでのRozeBiteなら、絶対に言わない言葉だった。プロとして、リスナーに不満をぶつけるなんて、あってはならないことだ。


 カレンは、配信時間を早めに切り上げた。配信終了後も、彼女の心は、苛立ちと自己嫌悪でいっぱいだった。


 その日の午後、カレンは事務所に呼び出された。神田マネージャーは、いつものように笑顔だったが、その瞳は真剣な色を帯びていた。


「カレン、最近、君らしくない」


 神田は、単刀直入にそう言った。


「VTuberとして、君の魅力は、誰よりもゲームに真剣で、誰よりもゲームを心から楽しんでいるところだった。でも、今の君からは、ゲームを楽しむ気持ちが伝わってこない」


 神田の言葉は、カレンの心を正確に言い当てていた。しかし、カレンは反発した。


「楽しむだけじゃ、ダメなんです。プロは、結果を出さなきゃいけない。あのイベントで負けたのは、私が楽しむことに甘えていたからです」


 カレンは、悔しそうに拳を握りしめた。


「あの敗北は、私に『もっと強くなれ』って、言ってくれたんです。だから、私は、強くなるために、これをやらなきゃいけないんです」


 カレンは、そう言って、神田の言葉を拒絶した。


 神田は、そんなカレンの様子を見て、深くため息をついた。


「わかった。だが、覚えておいてほしい。無理をして、壊れてしまっては意味がない。君らしさを失って、何のためにVTuberとして活動しているのか、もう一度考えてみてほしい」



 神田はそれ以上、何も言わなかった。ただ、カレンが一人で抱え込んでいる重荷を、心配そうに見つめるだけだった。


 美咲は、カレンの配信を陰で見ていた。そして、神田との会話も、ヘッドセット越しに聞いていた。


 美咲は、カレンが一人で苦しんでいることを痛感した。


(カレンは、私に頼ってくれない。私が、弱かったからだ)


 美咲は、自分を責めた。カレンが苦しんでいるのに、何もしてあげられない。ただ、見守ることしかできない自分が、ひどく情けなく思えた。



 美咲は、自室に戻り、ベッドにうつ伏せになった。



 これ以上、二人の関係が壊れるのは、耐えられない。カレンの苦しみを、これ以上見ているのは、辛い。


 美咲は、体を起こすと、ゆっくりとPCの電源を入れた。


 画面には、見慣れないゲームのロゴが表示されている。『イグニッション』。



 美咲は、マウスに手を伸ばし、ゲームを起動した。


 カレンは、Vtuberになってから、ずっと美咲を支えてくれた。今度は、自分がカレンを支える番だ。


(ごめんね、カレン。一人で苦しませて)


 美咲は、そうつぶやくと、慣れないコントローラーを握りしめた。


 美咲が、カレンが一人で抱え込んでいる重荷を、自分も一緒に背負おうと決心した瞬間だった。



 それは、美咲なりの、カレンへの愛の形だった。

読んでくれてありがとうございます。

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