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ミュートを忘れたら英語ネイティブVが世界一になった話  作者: 久家
第二章 : 二人の物語、二つの世界
45/85

#045 : イグニッションチーム練習

 


「今日は、皆さんに大切なお知らせがあります!」


 カレンは、いつもの配信部屋で、少しだけ声を弾ませて言った。隣には、美咲がクールなアバターの美玲エラとして座っている。


「なんと、私たちRozeBiteと美玲エラ、そして他のVtuberさんたちと一緒に、人気ゲーム『イグニッション』のイベントに出演することが決定しました!」


 カレンがそう発表すると、コメント欄は瞬く間に「マジ!?」「RozeBiteがイグニッションやるのか!」「絶対見る!」といった興奮の声で埋め尽くされた。


「RozeBite plays Ignition? Unexpected but so cool!」

(RozeBiteがイグニッションをやるのか?意外だけど最高だ!)


「I'm so excited for this!」

 (めっちゃ楽しみ!)


「実は、私……『イグニッション』が大好きで、こっそりプレイしていたんです」


 カレンがそう言うと、コメント欄はさらに盛り上がる。


「えええ!?」

「マジかよ!」

「ガチ勢だったのか!」


 美咲も、カレンの隣で少しだけ驚いた表情を浮かべている。


「イベントはチーム戦で、本気で優勝を目指します! 応援よろしくお願いします!」


 カレンはそう言って、画面に向かって頭を下げた。


 配信は盛況のうちに終わり、二人は顔を見合わせて微笑んだ。


「カレン、本当に楽しそうだね」


 美咲がそう言うと、カレンは少しだけ照れたように笑った。


「うん……だって、大好きなゲームを、みんなとできるんだもん」


 カレンの瞳は、ゲームへの期待と、新しい挑戦への喜びで輝いていた。


 翌日、チーム練習のために、二人は事務所にいた。


 貸しスタジオのブースには、すでに二人の見慣れないアバターが座っていた。


「どうもー! RozeBite先輩、美玲エラさん、はじめまして! コウでーす!」


 明るい笑顔と大きな瞳が特徴的な、元気いっぱいの少年アバターが挨拶する。


「……はじめまして。ユウキです」


 クールで知的な雰囲気をまとった、眼鏡をかけた女性アバターが、静かに挨拶を返した。


 二人の自己紹介が終わると、カレンはゲームの概要を説明した。


「えーと、知らない方もいると思うので、簡単に『イグニッション』について説明しますね」


 **『イグニッション』**は、四人一組のチームで、広大なフィールドを探索し、敵を倒して最強の武器を集めていく、サバイバル・シューティングゲームだ。最終的に、他のチームを全滅させて、最後の生き残りとなったチームが勝利する。


 良くあるバトルロワイヤルだと思うが、他のゲームと違って圧倒的にグラフィックや発売するスキンがカッコよく、色んな人がこのゲームをプレイしている。



 ゲームの特性上、個人のスキルはもちろん、チームメンバーとの連携や、的確な判断力、そして何よりも「チームとしての信頼関係」が勝利の鍵となる。


 コウは、ゲームを「楽しむ」ことを何よりも重視しているVtuberで、配信はいつも笑い声に満ちている。ユウキは、戦略家として知られており、普段は冷静沈着だが、実はゲームを「楽しむ」ことに不器用な一面を持っていた。


「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。本番まで三日間しかありませんが、優勝目指して、頑張りましょう!」


 カレンがそう言うと、コウは笑顔で頷いた。


「もちろんです! みんなで楽しく頑張りましょうね!」


「……はい」


 ユウキは短く答えた。


「じゃあ、さっそく練習を始めましょう。まずは、僕の考えた練習メニューを……」


 カレンは、タブレットにびっしりと書かれた練習メニューを二人に提示した。そこには、反復練習や、戦術シミュレーションなど、勝利を最優先に考えた、厳しいメニューが並んでいた。


「え、これ全部やるんですか?」


 コウが驚いた声を上げる。


「もちろんです。私たちはプロです。勝つことが、私たちを応援してくれるファンへの最大の恩返しですから」


 カレンがそう言うと、コウは少しだけ笑顔を曇らせた。


「なんか……僕、そこまでガチじゃないというか……楽しくやれたらいいかなって思ってたんですけど」


 コウの言葉に、カレンは少しだけイライラした。


「楽しくやるのも大事ですけど、勝つことも大事です。相手は、業界でもトップクラスのゲーマーVtuberです。生半可な気持ちじゃ、勝てませんよ」


 カレンの言葉に、コウは何も言えなくなった。ユウキは、そんな二人のやりとりを、静かに見守っていた。


 その日の練習は、カレンの提案した厳しいメニューに沿って進められた。


 カレンは、一人で集中して練習に没頭していた。他のメンバーのプレイを分析し、次の戦術を練る。カレンの頭の中には、「どうすれば勝てるか」ということしかなかった。


「RozeBite先輩、少し休憩しませんか?」


 美咲が、カレンの様子を見て、声をかける。


「大丈夫。まだやれる」


 カレンはそう言って、コントローラーを握り続けた。


 美咲は、そんなカレンの様子を心配そうに見守っていた。美咲は、カレンが「イグニッション」に熱中していることを知らなかったが、その真剣さは、これまでのVtuber活動とは少し違って見えた。


「ねえ、美咲さん。RozeBite先輩って、いつもあんな感じなんですか?」


 コウが美咲に尋ねた。


「ううん……私も、カレンがあんなに真剣にゲームに取り組むところ、初めて見た」


 美咲は正直に答えた。


「なんか……僕とは、ゲームの楽しみ方が違うみたいで。少し、寂しいです」


 コウはそう言って、少しだけ俯いた。


 美咲は、コウの言葉を聞いて、カレンが一人で抱え込んでいるプレッシャーに気づいた。


(カレンは、プロとして、失敗できないって思ってるんだ……)


 美咲は、カレンの心に寄り添いたいと思ったが、どう声をかけていいか分からなかった。


 二日目、三日目も、練習は続いた。


 カレンは、依然として勝利を最優先に考え、厳しい練習を続けていた。他のメンバーとの温度差は、埋まるどころか、次第に広がっていく。


「RozeBite先輩、その作戦だと、少し無理があると思います」


 ユウキが冷静な口調で、カレンの作戦を指摘する。


「でも、勝つためには、これしかない」


 カレンがそう言うと、ユウキは静かに首を横に振った。


「勝ちたい気持ちは分かります。でも、楽しめないゲームに、何の意味があるんですか?」


 ユウキの言葉に、カレンは何も言い返せなかった。


 カレンは、いつの間にか、ゲームを「楽しむ」ことを忘れていた。ただ、勝つことだけに囚われ、他のメンバーとのコミュニケーションも、楽しむことも、すべて後回しにしていた。


 美咲は、そんなカレンの様子を、ただ静かに見つめていた。カレンが、一人で孤独に戦っているように見えたからだ。


 三日間の練習が終わり、本番を翌日に控えた夜。


 美咲は、練習を終えて疲れているカレンに、温かいココアを差し出した。


「お疲れ様、カレン」


 美咲がそう言うと、カレンは重い体をソファに沈め、ココアを受け取った。


「ねえ、美咲……私、なんか、間違ってるのかな」


 カレンはそう言って、寂しそうな顔をした。


「ゲームを、楽しめてないんだ……勝つことしか考えてなくて、コウ君やユウキさんと、全然楽しめてない」


 カレンの言葉に、美咲は優しく微笑んだ。


「大丈夫だよ、カレン。カレンは、ただ真剣なだけ。カレンのそういうところ、私は大好きだよ」


 美咲はそう言って、カレンの肩を抱いた。


 カレンは、美咲の優しさに触れて、少しだけ涙を流した。


「ありがとう、美咲……」


 カレンはそう言って、美咲に抱きしめ返した。


 三日間の練習で、カレンは、ゲームに対する自分の気持ちと向き合っていた。


 勝つこと。楽しむこと。


 二つの気持ちの間で揺れ動きながら、カレンは、明日、本番の舞台に立つ。


 そして、その戦いは、カレンの心に、さらに大きな波紋を投げかけることになるだろう。

読んでくれてありがとうございます。

次回イベント本番です!。

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