#042 : 照明のハーモニー
―――ユニバーサルVT歌謡祭当日。会場のボルテージは最高潮に達し、数万人の熱狂が、分厚い壁を隔てた舞台裏にまで伝わってくる。
「すごい熱気だね……」
カレンはそう言って、緊張で固まっている美咲の肩を優しく叩いた。
「うん……」
美咲の声は震えていた。クールな美玲エラのアバターとは裏腹に、マイクを握るその手は、まるで小鹿のように震えていた。
「大丈夫だよ、美咲」
カレンはそう言って、美咲の手を優しく握った。美咲は、カレンの温かい手に、少しだけ安堵したように、ふっと息を吐いた。
「ありがとう、カレン。私、すごく緊張してる」
「私もだよ。でも……私たちは、私たちが信じる歌を届けよう。私たちが、私たちにしか歌えない歌を」
カレンの言葉に、美咲は力強く頷いた。
「うん……私たちの歌を、届けよう」
二人は、お互いの目をまっすぐに見つめ合った。そこに言葉は必要なかった。ただ、お互いの手の温もりを感じるだけで、心が通じ合っているのが分かった。
そして、司会者の紹介とともに、二人は舞台に上がった。
スポットライトが、二人のアバターを照らし出す。その瞬間、会場は一瞬静まり返り、そして、大きな歓声に包まれた。
「ユア・メロディ」のイントロが、会場に響き渡る。
歌い出しは、美咲のパートだった。クールで力強い歌声が、会場の空気を一変させる。
美咲の歌声に合わせて、カレンは美咲との出会いを思い出していた。
美咲が、自分を助けるために、Vtuberの世界へ飛び込んできたこと。
カレンに内緒で配信の準備をしていた、あの日のこと。
Vtuberとしての自分を肯定してくれた、あの日のこと。
美咲の歌声には、カレンへの深い愛情と、Vtuberとして完璧でありたいという、美咲の強い決意が込められていた。
そして、サビに入ると、カレンのパートが始まった。優しくて、温かい歌声が、美咲の歌声に重なり合う。
カレンの歌声に合わせて、美咲はカレンとの日々を思い出していた。
カレンが、配信事故に苦しみ、一人で悩んでいたこと。
カレンが、自分のために、優しさをくれたこと。
そして、自分が無理して完璧な自分を演じなくても、カレンはありのままの自分を愛してくれていることを知った、あの日のこと。
カレンの歌声には、美咲への深い感謝と、ありのままの自分でいることの喜びが込められていた。
そして、二人の歌声が、一つのハーモニーとなって重なり合う。
『君が隣にいたから、私は強くなれた』
その歌詞が、会場に響き渡った瞬間、観客の心に、二人の物語が、まるで映像のように流れ込んだ。
二人の歌声は、温かく、そして力強かった。それは、言葉や理屈を超え、二人の絆が本物であることを証明していた。
会場は、二人の歌声に心を打たれ、静かに涙を流す者がいた。コメント欄は、「泣いた」「最高」といった言葉で埋め尽くされ、感動の嵐となっていた。
そして、舞台裏で二人のパフォーマンスを見ていた、以前二人を「ビジネスだ」と批判していた他のVtuberたちも、二人の歌声に心を奪われていた。その瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
歌い終え、満場の拍手と大歓声に包まれる二人。
カレンと美咲は、感動で言葉を失い、お互いを見つめ合った。その瞳には、安堵と達成感、そして、二人の絆を改めて確認できた喜びが満ちていた。
舞台から降りると、神田マネージャーやリリス、ネアといった仲間たちが、二人の成功を称賛し、抱きしめ合う。
「Roze先輩! 美咲さん! 最高でした! 本当に最高でした!」
ネアが涙を流しながら、二人に抱きついてくる。
「あんたたち、なかなかやるじゃない!」
リリスもまた、クールな表情を保ちながらも、その瞳は潤んでいた。
「ありがとう、二人とも……」
カレンはそう言って、仲間たちに感謝を伝えた。
そして、最後に、美咲はカレンの手を優しく握った。
「カレン、私たち……やれたね」
美咲の言葉に、カレンは力強く頷いた。
「うん。最高だったよ、美咲」
二人の瞳には、互いへの深い愛情が満ちていた。
この日の歌謡祭は、二人のVtuberとしてのキャリアを大きく変えるものだった。そして、それ以上に、二人の絆が永遠のものであることを証明する、かけがえのない一日となった。
二人の物語は、これからも続いていく。
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