表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミュートを忘れたら英語ネイティブVが世界一になった話  作者: 久家
第二章 : 二人の物語、二つの世界
40/85

#040 : 試される絆

 


 RozeBiteと美玲エラのコラボ配信は、想像を遥かに超える反響を巻き起こした。



 配信終了からわずか数時間で、二人の名前はVtuber界隈のトレンドを席巻。YouTubeの急上昇ランキングに動画が並び、Twitterでは「#ろずえら夫婦」というハッシュタグが瞬く間にトレンド入りしていた。



「見て、カレン……!」


 美咲がスマホを震わせながら、画面をカレンに見せる。



 そこには、二人のアバターが寄り添って微笑むファンアートが何枚もアップされていた。夫婦漫才、奥さん、旦那さん。視聴者がつけた呼び名が、まるで本物の愛称のように定着していく。



「すごい……本当にすごいね、美咲」


 カレンも自分のスマホを眺めながら、驚きを隠せない。


 コラボ配信の切り抜き動画は、RozeBiteと美玲エラの息の合った掛け合いや、美咲がカレンをさりげなくサポートする様子に焦点を当てて作られており、どれも数十万回再生を叩き出していた。


 二人の部屋は、興奮と喜びで満ちていた。深夜までコメントやファンアートを見返し、笑い合った。



「私たち、夫婦になっちゃったね」


 美咲がそう言って、くすくす笑う。カレンは顔を赤くしながらも、その言葉を否定しなかった。むしろ、美咲の隣で「Vtuberの夫婦」として認められたことが、ひどく誇らしく感じられた。



 翌日、事務所に呼び出された二人は、神田マネージャーの満面の笑みで迎えられた。



「いやぁ、まさかここまでとは! 君たち二人のコラボは、うちの事務所だけでなく、Vtuber界隈全体の話題をさらったよ」


 神田さんの言葉に、美咲はクールな表情を崩さずに頷く。一方のカレンは、喜びを隠しきれずに口元が緩んでいた。


「RozeBiteと美玲エラは、今後のうちの事務所の顔だ。君たち二人には、さらに大きな舞台で活躍してもらいたい」


 神田さんはそう言うと、二人の目の前に、とある企画書を差し出した。



「実は、来月開催される、業界最大手『ユニバーサルVT』主催のVtuber合同歌謡祭に、君たち二人を推薦した。そして、それが今日、正式に決まったんだ」


 その言葉に、カレンは目を見開いた。


「えっ……あの、ユニバーサルVTの……ですか?」


 ユニバーサルVTは、Vtuber界隈では知らない者はいない、巨大なプロダクションだ。


 その主催するイベントは、まさに夢の舞台。数万人の観客が来場し、オンラインでは数十万人が視聴する、年に一度の祭典だ。



「そうだ。歌謡祭のオープニングアクトとして、君たち二人にデュエットをしてもらう」


 神田さんの言葉に、二人の心臓は高鳴った。



「カレン……」


 美咲がカレンの顔を見る。美咲の瞳には、大きな舞台に立てることへの期待と、少しの不安が入り混じっていた。



「わ……私たちが、あの舞台に……?」


 カレンは震える声でそう言うと、美咲もまた、力強く頷いた。


「よし、本番に向けて、これからレッスンや打ち合わせが増えるから、覚悟しておいてくれ。そして、もう一つ、伝えておかなければならないことがある」


 神田さんの表情が、少しだけ真剣なものに変わる。


「君たちの関係性について、良くも悪くも話題になりすぎている。Vtuber界隈には、君たちのことを『ただのビジネスだ』と非難する声も出始めている」


 神田さんの言葉に、美咲の顔が強張った。それは、かつて美咲がカレンに話した「ビジネスフレンド」という言葉そのものだった。



「Vtuberの中には、プライベートな関係性を配信に持ち込むことを嫌う者もいる。特に、君たちのような急激な人気を獲得した新人に対しては、嫉妬や反発も大きい。君たちの関係が本物かどうかが、今、試されている」



 事務所からの帰り道、二人は無言だった。


 カレンは、神田さんの言葉を頭の中で反芻していた。「ビジネスだ」という批判。美咲がかつて抱いていた不安が、現実のものとなってしまった。



(美咲……やっぱり、苦しい思いをさせてる……?)


 カレンは美咲の顔を見た。美咲は、いつもと変わらないクールな表情をしていたが、その瞳の奥には、確かな動揺が宿っていた。



「ごめんね、美咲……やっぱり、私なんかが隣にいるから……」


 カレンがそう言うと、美咲は足を止め、カレンの顔をじっと見つめた。



「なんでカレンが謝るの?」


 美咲の言葉に、カレンは戸惑った。


「だって、私のせいで、美咲がそんなこと言われたり……」


 カレンがそう言うと、美咲はカレンの手を優しく握りしめた。



「違うよ、カレン。私たちは、私たちが本当に友達だって、一番よく知ってる。それで十分じゃない」


 美咲の言葉は、以前の不安そうな声とは違い、力強く、自信に満ちていた。



「それに……カレンはもう、あの時のカレンじゃないでしょ?」


 美咲の言葉に、カレンはハッとした。



 美咲に支えられ、Vtuberとしての自分を肯定できるようになった。もう、過去の自分のように、不安に怯える必要はない。


「そうだよ……私は、もう大丈夫」



 カレンは美咲の手を強く握り返した。


「うん。だから、大丈夫」


 美咲はそう言うと、優しく微笑んだ。


 二人は、歩き出した。向かう先は、二人にとっての夢の舞台。



「私たちは、私たちのやり方で、Vtuberとして頑張っていこうね」


 カレンがそう言うと、美咲は力強く頷いた。


「もちろん。RozeBiteの隣は、私の居場所だから」


 二人の絆は、外部からの非難という嵐によって、より一層、強固なものになっていた。


 二人の新しい物語が、今、始まろうとしていた。

読んでくれてありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ