#039 : 新しい一歩
RozeBiteと美玲エラの初コラボ配信が成功に終わってから、一夜が明けた。
カレンの部屋では、コーヒーの香りが漂う中、カレンと美咲がソファでくつろいでいた。二人の手には、それぞれのスマホ。
「美咲、見てこれ!」
カレンは興奮した様子で、美咲にスマホの画面を見せる。
そこには、配信の切り抜き動画に付けられた「美玲エラはRozeBiteの妻」というタイトルと、夫婦をテーマにしたファンアートが並んでいた。
「なんか……すごいことになってるね」
美咲は、クールな表情を崩さずに、画面を眺めている。だが、その瞳の奥は、どこか嬉しそうに輝いていた。
「『夫婦漫才』だって! 美咲が『私がRozeBiteの奥さんです』って言ったところ、みんな大盛り上がりだよ!」
カレンはそう言って、笑いながら美咲の肩を叩く。美咲は、そんなカレンを見て、フッと笑った。
「カレンも、嬉しそうじゃん」
「なっ……! 別に嬉しくないし! ただ、面白いなって思っただけだし!」
カレンは顔を真っ赤にして否定するが、美咲はただ優しく微笑むだけだった。
「でもさ……本当にすごいね、みんな」
カレンはそう言って、改めてスマホの画面を眺める。ファンアートの中には、カレンが料理をしていて、美咲がその様子を温かく見守っているものもあった。
「私たちが、こんな風に見えてるんだね」
カレンはそうつぶやくと、美咲が優しく頷いた。
「うん。でも、いいんじゃない? 『夫婦』って、なんだか素敵な響きだもん」
美咲の言葉に、カレンはドキリとした。
「……そうだね」
カレンはそれ以上、何も言えなかった。ただ、美咲の優しさに触れて、心が温かくなるのを感じていた。
その日の午後、カレンは大学のカフェテリアで、友人たちとランチをしていた。
「ねえ、カレン。この前のコラボ配信、見たよ!」
友人の一人が、興奮した様子で話しかけてくる。
「RozeBiteとあの新人Vtuber、本当に仲良しなんだね!」
その言葉に、カレンは少しだけ胸が締め付けられるような思いがした。
これまでのカレンなら、Vtuberの話題を避け、曖昧に答えていたはずだ。自分の秘密がバレることを恐れ、友人たちに壁を作っていたからだ。
しかし、今は美咲が隣にいる。もう、隠す必要はない。
「うん。彼女、私の大切な友達なんだ」
カレンはそう言って、微笑んだ。
「すごい! Vtuberの世界って、なんだかカレンみたいだね」
「え? どういうこと?」
友人の言葉に、カレンは首を傾げる。
「だって、RozeBiteって、普段はクールで毒舌だけど、たまに見せる優しいところが、カレンにそっくりなんだもん!」
友人の言葉に、カレンは驚きを隠せない。
(私……RozeBiteとして、みんなに伝わってたんだ……)
Vtuberとしての自分と、現実の自分。二つの世界に葛藤していたカレンにとって、友人の言葉は、何よりも嬉しいものだった。
「へへ……ありがとう」
カレンは照れながらも、心の中で美咲に感謝した。
美咲が隣にいてくれたおかげで、自分はVtuberとしての自分を肯定することができたのだから。
――その日の夕方。
二人は大学を終え、街中を歩いていた。今日のコラボ配信の成功を祝して、カフェに立ち寄ることにしたのだ。
「美咲、何飲む?」
カレンが尋ねると、美咲は少しだけ考えてから、答える。
「うーん……じゃあ、いつものやつで」
美咲がそう言うと、カレンは「はいはい」と笑って、注文に向かった。
美咲がいつも飲む飲み物を、カレンは完璧に覚えていた。そのことに、美咲は少しだけ胸が熱くなった。
二人は席に着くと、しばらくの間、何も話さなかった。ただ、目の前の街並みを眺め、お互いの存在を感じていた。
「ねえ、カレン」
美咲が、静かに口を開いた。
「Vtuberになって、本当に良かったよ」
その言葉に、カレンは驚いて美咲の顔を見る。美咲の瞳は、どこか遠くを見ているようだった。
「カレンと一緒にいられる時間が増えたから……」
美咲の言葉は、まるでカレンの心を温かく包み込むようだった。
「私、カレンが一人でVtuberとして頑張っているのを見て、ずっと心配だったんだ。でも、今は私もVtuberとして、カレンと一緒にいられる。それが、本当に嬉しい」
美咲はそう言って、カレンの手に自分の手を重ねた。
「美咲……」
カレンは、美咲の深い愛情に触れ、胸がいっぱいになった。
「ありがとう、美咲。私も、美咲が隣にいてくれて、本当に嬉しい」
カレンはそう言って、美咲の手を優しく握り返した。
二人の間には、言葉はいらなかった。ただ、お互いの温もりを感じるだけで、心が通じ合っているのが分かった。
それは、親友として、そしてVtuberとして、二人が築き上げた、誰にも壊すことのできない、かけがえのない絆だった。
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